第71話 濃厚接触とは?【宮下佳奈】
夕方、学校から帰ってくると母から姉がコロナに感染していたことを告げられた。
「えー!? まじでー!?」
朝は冗談半分に言っていたが、まさか本当にコロナに感染しているとは。
やはり銀羊カロ経由なのだろうか。
これはしばらくは大学もVtuberもお休みだな。
「悪運強いのか。大学は1週間全学部休講だって」
「へえ」
「大学でもコロナが流行っているらしいからね」
「なぜ大学では流行るのかな?」
高校ではクラスに数人程度。休校になることはない。大学に比べると生徒数は少ないけど、密集は大学より比ではないと思う。
朝の1限目から夕方の7限目までずっと教室に36名が詰められている。
しかも食堂はいつも混んでいる。
「大学は学生が多いと言っても別に密集はしてないんでしょ? 講義だって少数定員のもあるって聞くけど」
姉曰く、6人しか受講していない講義もあるとか。
しかも昼は大学を出て、外で食べもいいことになっている。
「濃厚接触することあるかな?」
「それは……まあ、何でしょうね?」
「お姉ちゃんも濃厚接触したのかな?」
するとしたら、休日に会ってたアメージャ先輩かメテオ先輩かな?
「ないわよ! あの子に限って。もう何言ってるのよ!」
なぜか母が手をブンブン振って、強く否定する。
「そう?」
「そうよ!」
でも、ここ最近、姉の周りで人が多くなってるから、濃厚接触の線が強いと思うんだけどな。
「お姉ちゃんは?」
「今、部屋よ。入るなとは言わないけど、なるべく近づいたらダメよ」
「分かった」
◯
私はカバンを部屋に置いて、姉の部屋のドアをノックする。
返事があって、私はドアを開ける。だけど中には入らなかった。
「コロナだって?」
「うん。といっても軽症だけどね」
姉は床に座ってベッドを背に雑誌を読んでいた。
「Vの方はどうするの? ヤクモとのコラボまだ終わってないでしょ?」
「それが卍が代打の当てがあるとか。今、交渉中なのかな?」
卍が?
代打って誰だろう?
まさか私?
普通に考えて、妹の私に話が来ても……いや、家族がコロナ感染したんだから呼ばれることはないか。
ううん? それなら代打って誰だ?
「ふうん。ちなみにやっぱり感染経路はカロ経由?」
「さあ? それは分からないや」
「株は? 新型?」
昔はギリシャ文字だったけど、今はなんだっけ?
「株も分からない」
「それがさ……」
姉は今日の病院の出来事を語る。
「……ということなの」
「いい加減な医者だね」
「ま、軽症だから、気にしなくてもいいかなって」
「福原さんには言った?」
福原さんはマネージャーだ。コロナに感染したなら伝えておかなければいけない。
「言ったよ。次のヤクモとのコラボ。それと代打の件も伝えた。それとヤクモにも伝えたよ」
「SNSは?」
「そっちはまだだ」
「もー。ちゃんとファンに伝えておかないと。プロ意識低いよ」
「プロじゃないもーん」
確かに姉は純粋なVtuberではない。あくまで私──赤羽メメの別側面という存在。半Vtuber。人気だからそろそろ明日空ソレイユのように本気でVtuberにさせるべきかな?
「とにかくSNSでコロナのこと伝えておくこと」
◯
私は自室に戻り、制服から部屋着に着替える。
そしてスマホでSNSを確認。
姉はきちんとコロナのことや今後のコラボのことを書き込んでいた。
私は姉のポストをリポストして、『姉が濃厚接触をしたためコロナ感染致しました。ファンやリスナーの皆様にはご迷惑をおかけいたします』と書き込んだ。
するとすぐに姉からリポストではなくリプライがきた。
『濃厚接触してないよ! 誤解を招く事言うな!』
ん?
姉は何を言っているんだ?
『いやいや、休みの日に遊びに行ったじゃん。濃厚接触したでしょ?』
『してない! おい! 嘘をつくな!』
『アメージャとメテオとオフしてたじゃん』
ここで私は投稿にミスがあることに気づいた。
それはアメージャとメテオの名を書いたことだ。
これだとコロナ感染がアメージャ先輩かメテオ先輩経由だと誤解をされかねない。
『濃厚接触をなんだと思ってんのよ!』
どういうこと?
濃厚接触。……ええと、同一人物と長期間一緒にいることだよね?
間違ってはないはず。
私が訝しんでいると、リプライがくる。
なんとそれは姉ではなく、アメージャ先輩やメテオ先輩だった。
『濃厚接触はない!』
『違うから!』
すると次にファンからもリプライがくる。
『てえてえ』
『濃厚(意味深)』
『3ピー(げふんげふん)』
『ナニをしてたの?』
『皆、何言ってるの。Vだからゲームしてたんだよ。そうでしょ? 貝合わせしてたんでしょ?』
『リリィー! アメージャが寝取られてるぞ!』
『混……
『みは×オルではないのか? おっ、誰か来たようだ』
…………なんだこれ?
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