第60話 関係性③

 休日、私は赤焔しゃくえんアメージャさんこと藤村歩さんに指定された駅前のブロンズ像の前で待った。


 今日は快晴で太陽の光が燦々と降り注いでいる。


「ごめん。待った?」

「いえ、私も来たばかりです」


 それは本当でまだ2、3分くらいしか待っていない。


「メテオはちょっと遅れるってさ」

「そうですか」


 先日、藤村さんから連絡があり、桜町メテオもご一緒しても良いかと問われたので、私は問題ないと答え、桜町メテオさんも来ることになった。


「ここは暑いし、どっかで待ってようか」

「ですね。ここは日陰が少ないですし」


 私達は桜町メテオさんが来るまで、近くの喫茶店で待つことにした。


「涼しい」


 藤村さんは椅子に座って言う。


「本当ですね」


 私も一息をつき、相槌を打つ。

 現に外は夏だといわんばかりに暑かった。


「夏が終わったのにまだ暑いって異常よねー」


 店員がやって来て、私達はアイスコーヒーを注文する。


「なんか急にメテオも来ることになってごめんね。あいつ、どうしても行きたいって駄々を捏ねてさ」

「いえいえ、私も一度お話ししてみたかったですし」


 店員がやってきてテーブルにアイスコーヒーが入ったコップを2つ置く。

 私はアイスコーヒーを飲む。冷たく苦いものが喉を通る。


「そういえば、大学の知り合いって涌井先生だったんですね」

「うん。そうだよ。えっ!? どうして分かったの?」


 藤村さんが驚いたように目をぱちくりさせる。


「涌井先生と藤村さんが会ってたのを見てた人がいて。それで涌井先生と藤村さんとの関係が学生の中で話題になってたんですよ」

「ええ!?」

「涌井先生、人気ですからね。もしかしたら恋人説みたい噂もありましたよ」


 そして私は先日のことを藤村さんに話す。


「……ほお! そんなことが!」

「2人は大学時代の友人だったんですね」

「違うよ」

「え!?」

「あいつ少し……いや、半分は嘘を混ぜてる」

「嘘?」

「私って、歳いくつに見える?」

「……32くらい?」


 前にテレビ番組で年齢当ての際には見た目より3引いた歳が相手に好まれると聞いて、私はそれを実践した。


「正解」

「えっ!?」


 見た目年齢から3引いたのに当たった。ごめんなさい。


「ん?」

「いや、なんでもないです。当たりですか。それでその年齢が何か?」

「リーマン・ショックっていつの話?」

「ええと……2008年でしたっけ?」


 記憶をたぐって思い出す。


「そう。その頃に就活だったら私は歳いくつ?」


 2008年で大学4年。22と考えると……16年前だから……。


「38……あっ!?」


 私はあることに気づいた。それはとても簡単なことでどうして気づかなかったのか。


「そういうこと」


 植村さんはニンマリと笑う。


 つまりリーマン・ショック世代ならアラフォーということで32歳の藤村さんとは時代が合わない。


 それに涌井先生もだ。涌井先生は正確な歳は知らないけど、見た目ならまだ30歳そこらのはず。


「はぐらかされたわね」


 藤村さんはクスクス笑う。


「でも、どうして嘘を?」

「本当の関係を聞かれたくないからかしら?」

「それって、やっぱり付き合ってたと?」

「違うわよ」


 藤村さんは笑いつつ、手を振って否定する。


「私と彼は就活で知り合ったけど、リーマン・ショックとは関係ないわ。でも、就職難なのは確かね。それで就活センターで知り合って、その後、彼の紹介で葉月……リリィと知り合ったのよ」

「リリィさん? そう。涌井の紹介で知り合ったよ」

「え? ペイベックスで知り合ったのでは? オーディションを受けて……あっ!」


 そうだった。2期生はオーディションではなく、ペイベックス社内のタレントから選ばられたのだ。


 明日空姉妹もかつては2期生組に入る予定であったけど、デビュー前に事故に遭って、特殊事情のVtuberとして0期生組になったのだ。


「私は縁故採用でペイベックス2期生になったの」

「それってリリィさん経由で?」

「そうそう」

「でも、どうして涌井先生は嘘を?」


 別に知り合いを教えた程度の話。Vの話はNGでもそこはいくらでもボカせるはず。


「たぶん配信の話とかになったら嫌なんじゃない?」

「先生も配信を?」


 前にテレビ出演していたという話は聞いたことある。


「やってる……やってたというべきかな?」

「Vですか?」

「ううん。普通に顔出してたよ」

「なら、どうして配信の話は嫌なんですか?」

「あいつが配信をやり始めたのも就活で失敗したからね」

「失敗……ですか」

「意外?」

「だって、臨時で講師もやっていますし、テレビに出ていますし、有名人じゃないですか」

「そこだけチョイスするならね。でも、それまではいろいろ合ったのよ」


 苦笑いして藤村さんは肩をすくめる。


 私はアイスコーヒーを飲む。氷ではだいぶ溶けていて、味は少しばかり薄くなっていた。


「涌井先生とリリィさんはどういう関係なんですか?」

「リリィはね、がちのリーマン・ショック世代なんだよ」

「もしかしてリリィさんもうちの大学だったんですか?」

「違うよ。大学は別。涌井とリリィはバイト先で知り合ったんだよ。リリィはリーマン・ショック時に就活で色々あってさ。それであいつは就活の相談とかしていたらしいよ。配信もリリィのを見て、やり始めたんだよ」

「へえ。そんな繋がりがあったんですか」

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