第58話 関係性①
大学校舎の廊下を歩いていると、後ろから名前をフルネームで呼ばれた。
フルネームで呼ぶなんて誰だと振り返ると
「あ、どうも」
「こんにちは。……というかまだ午前だからおはようだよね」
「はい。おはようですね」
「配信者は時間が一般と違うからね。ついズレちゃうのよ」
と、藤村さんは肩を
私は学生なので昼夜逆転のような生活にはなっていないのでその言葉には反応に困る。
「それにしても、また会うとは奇遇だね」
もしここが高校とかなら奇遇という言葉に疑問を感じるが、ここは大学。敷地面積も広いし、数多くの棟があり、教材園、東屋エリア、フリースペースなどもある。
その中で待ち合わせもなく、会うのは奇遇であろう。しかも相手はOGでたまたま大学に来ただけ。
「今日も涼子に会いに?」
「違う違う。涼子じゃないよ。知り合いに会いにね」
「そうですか」
思い返すと前もそうだった。それでここに藤村さんが来ると知り、涼子が訪れて来たのだった。
「この後、暇?」
「いえ、講義が2つあります」
「そっか。それは残念。でも、明日は休日だよね? 何か予定入ってる?」
「予定はないです」
「なら、お茶しない?」
「いいですよ」
そして私達は明日の予定を決めて別れた。
◯
コロナが流行っているとはいえ、社会学Bの講義は相変わらず盛況だった。
「ここは人多いよね」
「きっとコロナに罹患しても出席してる人がいるのかもね」
豆田が怖い事を言う。
「まっさかー。いくらなんでも罹患してでも講義に出席するってやばいでしょ?」
そして瀬戸さんと天野さんも教室に入ってきた。
ただ、その後ろには知らない数人の女子グループがいた。
瀬戸さんが大人系やクール系なら、彼女達はカワイイ系のグループだった。似てはいないが双方、陽キャのイケてるグループである。
連れているってことは瀬戸さんの友達?
もしかして一緒に講義を?
こっちに向かってくるよね? やっぱりそうなのかな?
それだと大所帯にならない?
「あれ? 何かしら?」
豆田がぼそりと私に聞く。
「さ、さあ?」
そして瀬戸さん達が私の前に来た。
なぜか座ることもなく、立ったままでいる。
教室の何人かも何だという顔でこちらを見ている。
「……ええとね、なんか宮下さんに聞きたいことがあるとか?」
と、瀬戸さんが言って、連れてきた女子に目を向ける。
女子グループの中の1人が前に出る。
「あの女の人は誰?」
「お、女?」
「廊下で話していた人!」、「おばさんと話していたじゃない?」、「あの人、誰?」
と、彼女達は矢継ぎ早に質問してくる。
「ええと……」
あばさん? おばさん……おばさん……ああ!?
「藤村さんのことかな?」
「誰なのその人?」
「えっと、OGだよ。うちの大学の」
というかおばさんはひどいな。そりゃあ30代らしいけど。
「OG!?」、「OGが何しにここに?」、「涌井先生と一緒にいたけど、どういう関係なの?」
「何か用があって来たとか。涌井先生との関係? それは知らない」
彼女達の話から察するに藤村さんと涌井先生が一緒いて、何か関係あるような感じだったとか。
もしかして藤村さんの会いに来た人って涌井先生なのかな?
「本当に?」
「本当、本当」
私は二度本当と言葉にして頷く。
女子グループ達は互いに話し始め、「そういえば涌井先生、ここのOBだったよね?」、「うん。前に言ってた」、「同窓会の打ち合わせ?」、「この時期に?」、「中止にするという話し合い?」、「それメッセージでよくない?」、「わざわざ来るんだもんね?」
なんか同窓会の打ち合わせという感じで勝手に話が進んでいる。
「ねえ? その人は何の職業の人?」
「それは知らない。元々知り合いの知り合いだし。今日で会ったのは2回目だし」
藤村さんがVtuberで、私はリアルで会うのは2回目だけど、配信合わせると両手分だとはさすがに言えない。
「ふうん」
なぜか『使えないこいつ』みたいな態度をして、彼女たちは私から離れる。
「ごめんね」
と、申し訳なく言って瀬戸さんは私の隣に座る。
「なんか宮下さんと話がしたいと相談されて」
「いえ、大丈夫です」
というかそれだと瀬戸さんも被害者だ。私のせいで面倒をかけてしまったようだ。
「で、本当にその人と涌井先生の関係知らないの?」
天野さんが尋ねてきた。
「知らない。というか涌井先生と一緒だったというのもさっき知ったくらいだもん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます