第56話 カラオケ①

 駅前のカラオケ店に着いた私達。


「今更だけどコロナが流行ってるのにカラオケはどうかと」


 部屋に入って、ソファに座りつつ私は言う。


「流行ってるのは大学でしょ? それに広いじゃない」


 と、天野さんはカラオケルームを見渡して言う。


 10人くらい余裕で座れるソファに大きなテーブル。スクリーンの前にお立ち台がある。


「いや、大学の外でもコロナが流行ってるらしいよ」


 と、桜庭が天野さんに言う。


「へえ。でも5類でしょ? それにワクチン3回も打ったし」

「3回でも危険だよ。あらたなんて去年、4回ワクチン打ってもコロナに罹ったんだから」

「あいつ、彼氏いるからでしょ? 年中濃厚接触してるようなものでしょ?」


 ひどい言われようだ。


 そして皆のドリンクを聞いた瀬戸さんが受話器で店員にドリンク注文をする。


「それじゃあ、歌いましょう。ローテは右から左にね」


 天野さんは一番右端の美菜に入力機を渡す。


「はい」


 そして入力が終わると隣の豆田に渡し、代わりにマイクを持つ。


 メロディが流れ、美菜は歌う。

 美菜が選曲は軽快なJ-POP。

 Vtuberなだけあって、歌は上手かった。


「へえ。上手いじゃない。曲はちょっと古いけど」


 と、天野さんは批評する。


「ど、どうも」


 そして美菜はマイクを豆田に渡す。

 豆田も美菜と同じJ-POP。ただし曲はつい最近リリースされた曲。


「……へえ。もうこなしているじゃん。貴女、カラオケ好きなの?」


 天野さんが曲の途中で言った。


「別に」

「というか星空みはりっぽいね」


 と、瀬戸さんが言った。


「え?」

「似てない?」

「んん? どうだろう? 私、Vtuberのことあまり知らないから」


 星空みはりとはコラボをしたりするけど、歌枠とかはしたことはない。それに星空みはりの歌声も前回のライブ時の一回だけだし。


「知らないの? 超有名人じゃない?」


 意外にも答えたのは天野さんだった。


「天野さん、知ってるの?」

「パンピーでも有名なVくらいは知ってるわよ。オリ曲やカバー曲も聞いたことあるわよ」

「そうなんだ。2人は?」


 私は種咲と桜庭に聞く。


「あるよ。みはりの曲って良いよね」、「私は一応、聴いたことはあるわね」


 へえ。皆、知っているんだ。

 みはり先輩はすごいな。

「……確かに言われて見れば似てるわね」


 天野さんが豆田の歌声に集中して答える。


「に、似てますかね?」


 美菜が疑問の声を出す。


 それに天野さんが「何? 文句あんの?」みたいな視線を向ける。


「いや、なんとなく」


 美菜は首をすぼめて答える。

 でも、美菜は0期生の勝浦卍。誰よりも近くで星空みはりの歌を聴いてきた。なら違うのだろう。


 でも──。


「……私も似ていると思う」

「そうよね」

「透明感のある感じが似ているかな」


 と、私が呟くと豆田が明らかに音を外した。


 何やってるのと目を向けると、豆田が「うるさい」と言葉を返してきた。


「あ、ごめん」


 そして次に私の番が来た。


 曲はこの前のペイベックスVtuberライブの時に歌った曲で五浦宇宙いつうらそらのスーパーカー。


 この前の時とは違い。完璧に歌う。


 私もあれからきちんと練習して、前よりかは上手くなっている。


 私は自身満々に歌う。


「普通に上手いわね」と、天野さんが言う。

「いつの間に?」と、種咲が驚く。

「あれ? 赤羽メメ・オルタに似てない?」と、桜庭が眉間に皺を寄せて言う。


(えっ!?)


「オルタって、あの配信事故でVtuberになった?」


 天野さんが桜庭に聞く。


(桜庭ー!? なぜオルタを知ってるんだ!? てか、天野さんもオルタ知ってるの?)


 陽キャでオタ活とは無縁な天野さんが知ってるのが意外だった。瀬戸さんも隣で驚いている。


「うん。似てるような気がして」

「そうかなー? 似てなくない?」


 瀬戸さんがフォローする。


「あら? あんた、赤羽メメ・オルタを知ってるの?」


 天野さんが驚いて瀬戸さんに問う。


「そっちこそ」

「私はネットで話題だったから」

「私も私も」


 瀬戸さんは強く頷く。


「ま、似たような歌声なんて珍しくもないでしょ?」


 種咲がそう言うと、ちょうど、ドリンクの載った盤を持って店員が部屋に入ってきた。


 店員が来ると気にせず歌う派か歌えない派かというと、私は歌えない派で、少しトーンを落として歌う。


 そして店員が出ていくのと同時に歌も終わった。


「はい」


 私はマイクを左隣の種咲に渡す。


「おっ! 私の番だね!」


 曲が流れ始める。それに合わせて種咲の体も小刻みに揺れる。


「アニソン?」

「そうだけど」

「こういう場では好きな歌ではなくて、盛り上がる歌をね……」


 どこか小馬鹿にするように天野さんが言う。


「それは私の歌を聴いてもそう言えるのかな?」


 種咲は自信ありげな笑みで言う。


「な、なによ!?」

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