第55話 OB
講義の後、トイレでお花を摘み、廊下を一人で歩いていたら涼子に会った。マスクをしていたけど、涼子だとわかった。
「あれ? 涼子?」
「ん? ああ、オル──千鶴じゃん」
「おはよう。ここで何してるの? それにマスクしてるけど?」
涼子は理系のため平日のこの時間に文系キャンパスにいるのはおかしい。
「OBの先輩に会いにね」
「そうなんだ」
「マスクはコロナ対策だけど。文系キャンパスでは流行ってないの?」
「流行ってるよ。休講になったのもいくつかあるし」
「
涼子は両手の平を上にして言う。
「全て!」
そこまでコロナ被害が出ているとは。
「そう。だから時間ができてOBに会いに」
「そうなんだ。それじゃあね」
私は手を振って通り過ぎようとしたら、涼子に止められた。
「待って、千鶴にも紹介するね」
「別に紹介は──」
「その人もペーメンなの」
涼子は小声で言う。
「ペーメン!?」
またしても大学繋がりでペーメンに会うとは。
「あ、来た。藤村先輩ー!」
30代半ばくらいの黒髪の女性がやって来た。
そして私を見て、お辞儀する。
「藤村先輩、この子、オルタですよ」
涼子は女性の耳元で呟く。
「えっ!?」
女性は驚いて、目を見開く。
「本当?」
「はい。宮下千鶴。文学部の大学2年生です」
「そう。確かに声が似てるわね」
私は涼子に、「で、この人は?」とアイコンタクトを送る。
「千鶴は藤村先輩が誰か
「……判らない」
女性は周囲を伺い、誰もいないことを確認すると、「私は
「アメージャさん!?」
「しー! 本名は藤村歩。ここのOBなの」
「すみません」
「それにしても世間は狭いわね。美菜もここなんでしょ?」
「はい。でも、OBがどうしてここに?」
コロナが流行っている中、どうして大学に来たのだろうか?
「ここの講師にちょっと用があってね」
「先輩、こんなとこで立ち話もなんですからどこか行きましょうよ」
と、涼子が提案する。
「ごめん。私、講義あるから」
「あら残念。とりあえず連絡先交換しましょう」
「あ、はい」
そして私は藤村さんと連絡先を交換して別れた。
◯
「長かったわね。大?」
教室前の廊下で豆田と合流するといきなりそんなことを言われた。
「違う。そこで理系の知り合いに会ったのよ。てか、女性同士であっても、女性にそう言うことを聞いてはダメでしょうが」
「理系……ああ! この前の。なんで理系の学生がここに?」
なんか大の件はスルーされた。
「OBに会いにだってさ」
「……へえ。ほら、教室に入るよ」
「先に入ってても良かったのに」
「1人で教室にいたくないし」
「え?」
教室前で両手をアルコール消毒して教室内に入る。
すると、誰もいなかった。
そんなに受講者が多い講義ではないが、1人もいないというのは異常だった。
「なんで?」
「さあ?」
「やっぱコロナかな? 理系キャンパスは1週間は全講義が休講なんだって」
それから講義時間が近くなるとちらほらと学生が室内に入って来た。
それでもやはり人数はいつもの3分の1以下だった。
講義時間になり年配の講師が現れた。そして教室内の学生を数えると、
「受講者数が少ないので臨時休講とします」
と言って、ホワイトボードにマジックで『日本食文化C休講』と書いた。
◯
「この後、どうする?」
私は『日本食文化C』の講義が今日、最後講義のため、この後が暇になった。
とりあえず私達は掲示板を見ようと文学棟1階のピロティエリアに向かった。
そこで種咲達と遭った。
「あれ? どうしたの?」
「休講。そっちも?」
と、種咲が聞く。
種咲と桜庭、美菜はそれぞれ違う講義を受講していた。
「うん」
「時間が出来たし、どうする?」
先程私が豆田にした質問を種咲がする。
「どっか行こうか?」
コロナで講義が休講となった大学にはいたくなかった。
「どこへよ?」
「うーん、駅前で本屋とか服屋とかぶらつく?」
「もっと遊びに出かけましょうよ」
私達の会話に別の声が割り込んできた。
振り向くと、その声の主は天野さんだった。後ろに瀬戸さんもいる。
「あっ!? 天野さん。どうしたの?」
「私達も教養科目が休講になってね」
なるほど教養科目か。それなら商学部の天野さん達がいてもおかしくない。
「で、どこかに遊びに行くんでしょ?」
「あ、うん」
「ならカラオケにしましょう?」
その口ぶりからすると一緒にという意味なのだろう。
私は豆田達に目を配らせる。
「まあ、別にいいわよ」と桜庭が、「うん。いいよ」と種咲も答え、豆田と美菜も頷いた。
「そういえば、新さんは?」
「あの子は来てないの」
「まさか──」
「コロナじゃないわよ。今日は講義が一つもないから来てないだけ」
「あ、そうなんだ」
コロナが流行ってるせいか少し敏感になってしまった。
「それじゃあ、駅前のカラオケに行きましょうか」
そう言って、天野さんが先頭を歩きだす。
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