第52話 配信終了
「いやあ、今日は長かったですね」
配信後、猫泉ヤクモこと朝霧由香さんがほっと一息をつく。
「本当ですね。もうこんな時間だ」
スマホで時間を確認すると23時07分だった。
「やはり早めに配信を始めておいて良かったですね」
「そうですね。いつも通りだったら日付が変わってましたね」
私は肩を回し、首裏を揉む。
対して朝霧さんは欠伸をした。疲れたというよりかは眠いだった。
「あ、すみません」
私の視線に気づいて朝霧さんは恥ずかしそうに謝る。
「別にいいですよ。そういえば配信前から眠そうでしたよね」
というか朝霧さんは配信前、休憩スペースで寝ていた。
「昨夜から忙しくて」
「もしかして今日の『夢工房』の予習ですか?」
「予習といえば予習ですね。私、3Dゲーム酔いがひどくて。それで3D慣れしておこうとここ最近、他のゲームで練習を」
「3D酔いですか。それ私もですよ。ハリカーでも酔っちゃって大変なんです。昔は平気だったんですけどね」
「でも、今日は平気だったじゃないですか?」
「そういえば」
今回は3Dゲーム酔いはなかった。
なんでだろう。
ゲームに慣れたから?
「あと詩子先輩の検証とかもあって」
「ああ! 広告ゲーが詐欺かどうかの検証のやつですね。私も『終末サバイバーZ』をやりましたよ」
「私は『爽快階段スピリッツ』というゲームです」
「詐欺ゲーでした?」
「黒よりの灰色ですね。広告通りのゲームですけどグラフィックが低かったり、他のゲーム要素もあって、このゲームは広告通りとは言えませんでしたね」
「そう。私も。ゾンビを倒すゲームが都市開発だもん」
「ええ、またゾンビゲームやったんですか?」
「そうなんですよ」
と、私は苦笑する。
◯
配信部屋を出ると他の配信部屋から誰かが出て来た。
先週と同じカロ達かと思ったけど、そうではなく美人の人だった。
確か休憩スペースにいた時、受付で見かけた人だ。
「あっ、そっちも配信?」
女性は朝霧さんに聞く。
「はい。公式チャンネルアカウントを使っての配信です」
「そう。で、そっちの子は? 他の箱のV?」
箱というのは事務所を指す。
この人は私が他の事務所のVtuberと考えているのだろう。
「この方は赤羽メメ・オルタです」
「どうも。初めまして」
私は頭を下げる。
女性は目を見開き、
「貴女が! 私は桜町メテオ。0期生よ」
と言って、私に手を差し向ける。
私は手を握り返して、
「よろしくお願いします」
「今度、コラボしましょうよ」
「はい」
「
桜町さんはしたり顔をする。
「これから食べに行かない?」
「すみません。明日、大学があるので」
「大学? オルタって、大学生なの?」
「はい」
「そっか。……0期生の卍も大学生なんだよ」
「はい。この前、知りました。学科は違いますが同じ大学の同学年同学部です」
「うおー、まじか。同じ大学なんだ! 世間狭っ! て、ことは銀羊カロのことも?」
その名が出た瞬間、朝霧さんが強張ったような気がした。
「はい。同じく、つい最近知りました」
「そっかそっか、しかし、大学があるなら仕方ないか。ヤクモはどう?」
「私も眠いので、今日は帰ります」
「残念」
◯
家に帰り、ダイニングで私は晩御飯のグラタンを食べる。
昼以降何も食べてないのでお腹がぺこぺこ。
「配信お疲れ。これで残すはあと一つだね」
リビングにいた妹の佳奈がダイニングに来て、テーブルを挟んで私の対面に座る。
「今日は疲れた。本当に長かったよ」
「次はもっと長いんでしょ?」
「そうみたい。なんていったって、泊まり込みだもん」
次は『ワラビアナ』というタイトルのホラゲーでクリアするのに長時間かかるという。
そのためスタジオで泊まり込みとなっている。
「頑張ってね」
「はいはい。頑張りますよ」
そう答えて、私はグラタンを食べる。
そこでふと思い出した。
「そういえば0期生の桜町メテオさんに会ったよ」
「そうなんだ」
「超美人じゃん」
「うん。ペーメンの中ではトップレベルだね」
「元モデルとか?」
「違うらしいよ。前世もないから一般人だよ」
「ならオーディション組?」
佳奈曰く、ペーメンにはオーディション組とペイベックスのタレントなどからの選出組があると聞く。
ちなみに佳奈はペイベックスの声優で選出組。
「それも違うかな?」
「どういうこと?」
「それは……」
「それは?」
「分からない」
「何よそれ。分からないの?」
「そもそも0期生メンバーは特殊だからね」
と、言って佳奈は肩を竦める。
「特殊?」
「まず加入が不明」
「オーディションとか選出かも不明ってことね」
「うん。そして加入時期がバラバラなため、0期生メンバーといっても必ずしも1期生より先輩ではないの」
「違うの?」
数字的に見て、1期生より上と思ってた。
「加入時期で見れば、桜町メテオは2期生より後輩で3期生より先輩にあたるの」
「ということは勝浦卍も?」
「うん」
「卍はどう特殊なの?」
「知らない」
「それも知らんのかよ」
「なんでも知ってるわけでないもん。聞いてはいけないみたいなのってあるじゃん。親しき者にも礼儀ありみたいな。てか、リア友になったんなら聞いてみなよ」
「まあ、タイミングが合ったら聞いてみるよ」
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