第51話 夢工房⑦

 ロッカーでクリーチャーがいなくなるのを待ってから私達は外に出る。


「さて、車を見て回ろう」

「乗れる車と乗れない車があるよね。どういう意味なんだろう?」

「うーん? 何かがあるってことなんだろうけど……」

「とりあえず車だね」


 私達は車を一つ一つ見て回る。そしてクリーチャーの気配を感じたら、すぐにロッカーへ。それを繰り返していたら、ツクモがあることに気づいた。


「ねえねえ、車のナンバーってさ、乗る前と乗った後で番号が変わってるよ」

「そうなの?」

「乗る前は『前に1』なんて書いてなかった」

「『前に1』か」


 普通に考えて、この車の前をすはず。

 前には黄色い車がある。


 近づいて調べてみようとしたら、またしてもクリーチャーが現れる音が。


「オルタっ!」

「もうちょっと探してみる」


 このエリアのクリーチャーは足が遅いのか接近しても逃げ切る自信があった。


「やばいよ! 近いよ!」

「おっと!」


 クリーチャーが車を挟んで向こうにいた。口を大きく開き、笑っているように見える。クリーチャーは車を周って、私に歩み寄る。


「おっととと」


 私は車を周りこみ、クリーチャーを避ける。

 と、そこでクリーチャーが立ち止まり、なんと車を持ち上げ始めたのだ。


「げげっ!」


 やばいこれば逃げるしかない。

 だけどロッカーのある方角はクリーチャーのいる方角。


(大回りして逃げるか?)


 そしてクリーチャーは車を持ち上げた。

 やばいと思い、私は後ずさる。


 後ずさったのは間違いだったかも。このままだと車を投げられてペシャンコに──。


(ああ! やられる!)


 けれど、それは杞憂で終わった。


 バン!


 なんと車が爆発したのだ。


「えっ!? なんで!?」


 クリーチャーはダメージを負い、よろけて片膝をつく。

 その隙に私はロッカーへと逃げた。


「ねえ、さっきの音は何? 何があったの?」

「えっと、クリーチャーが車を持ち上げたら爆発した。そしてなんかダメージを与えたっぽい」

「ダメージ!? つまり車を爆発さて倒せってこと?」

「そうかもしれないね。あの車のナンバーは爆発する車を指し示していたんだよ」

「ならまずは乗れる車を探して、ナンバーチェンジだね」

「うん。行こう」


 私達は乗れる車を発見しては、車に乗り込み、すぐに降りてナンバー確認。


 そして駐車場内を移動していると大きなゲートを見つけた。

 ゲートの隣には数字を打ち込むパネルがある。


「これって、もしかしてあの数字を打ち込のかな?」

「数字?」

「ほら、3桁の数字がたびたびあったじゃない?」


 そういえばあった。謎の数字はこのためにあったのか。


「それか。ならやったみよう」

「うん」


 ヤクモは814、399、049、と打ち込む。


「駄目だ。あと一つ3桁の数字が必要らしい」

「ここのどこにあるのかな?」

「探してみよう」


  ◯


 そして爆発する車、数字を探しているとクリーチャーが現れた。クリーチャーは爆発のダメージのせいか足取りが遅かった。


「よし! やってみよう!」


 爆発する車もいくつか判明した。

 これならあと2、3回ほどで倒せるはず。


「オルタ! 頑張ってー!」


 ヤクモはロッカーある方角へと走り去っていく。


「ヤクモー!」


 ヤクモが逃げたので私一人でで対処することなった。


 私は爆発する車に近づき、クリーチャーを呼び寄せる。そしてクリーチャーが近づいてきたら車を周り込む。


 クリーチャーは先と同じく車を持ち上げる。


 爆発。


 とうとうクリーチャーは肉片と化す。


「あれ? 回収できる?」


 近づいて死骸を確認した時、回収できることを知った。


(とりあえず回収しておこう)


「オルター! オルター!」


 逃げたはずのツクモが悲鳴を上げて戻ってきた。


「どうしたの……って、何引き連れて来たのよ!」


 なんとヤクモの後方にクリーチャーがいた。


「もう一体いたよー!」

「爆発する車に誘導して」

「ど、どれ?」

「こっち!」


 私はクリーチャーではなく、ヤクモを爆発する車へ誘導。


「で、どうするの?」

「クリーチャーが来たら車に回り込むの」

「分かった」

「ここは私が。ヤクモは他の爆発する車のとこにいて」

「うん」


 ヤクモは別の爆発する車を探しに行く。


 私はクリーチャーが近づくと車を周り込み、クリーチャーから逃げる。

 そして同じようにクリーチャーが車を持ち上げて、爆発を発生させる。


 このクリーチャーは2回の爆発で倒れるので、私はすぐに次の車の元へ向かう。


「ヤクモ、どこ?」

「ここ! ここだよ!」


(いた!)


 私はヤクモのもとに向かう。


「これで倒せるよ」

「うん」


 そしてクリーチャーが現れ、私達は車を周り込み、車の後ろへ。

 クリーチャーは邪魔な車を持ち上げて、車を爆発させる。


「倒したの?」


 ヤクモがおそるおそる聞く。


「うん。倒した。あとは肉片を回収」

「肉片の回収?」

「なんか回収できたよ」

「まあ、確かに私達は死骸やら、この世界の物を持ち帰るのが仕事だからね」


 私達は肉片を回収しようとした。

 すると肉片と違う。プレートのようなものを見つけた。


「なんだろう、これ? 持てるけど、回収はできないや」

「数字が書いてる……661」

「これが最後の3桁の数字だ」

「行こう!」


 私達はゲートに向かい、最後の数字を打ち込む。


 するとゲートはギギギッと鈍い音を出し、開き始める。開いた隙間から眩い光が漏れる。


 そしてそれば徐々に大きくなり、画面を真っ白に染めた。


 光が薄まると私達はプールゾーンに入る前の研究所にいた。


 周りに腰を抜かした科学者達と驚いて葉巻を落としたお偉いさんがいる。


 その後はムービーパートが始まり、私達はブルーゾーンで回収した死骸を研究職員に渡す。お偉いさん曰く、機械が作動していないのに時空断裂が起こり、君達が突如として現れたと言う。


 つまりあのゲートは現実世界への扉ということだったのだろう。


 画面は黒くなり、白文字でChapter1クリアの文字が浮かび上がった。


  ◯


「というわけで『夢工房』無事クリアとなりましたー」


 Vtuber猫泉ヤクモの専用ルームで私達はエンディングを迎えている。


 ピンクを基調としたメルヘンチックな部屋で、先程までやっていたホラーゲーとのギャップに少し戸惑う。


「Chapter1ってあったからChapter2もあるんだよね?」


 私はヤクモに尋ねる。


「そうだよ。全四部作で、最近では真シリーズもあるとか」

「へえ」

「面白かった?」

「うん。面白かったよ」

「Chapter2もやってみたい?」

「そうだね。2も一緒にやろうか」


 と、私は誘ってみる。社交辞令の意味もあったが、本人が乗ってきたらまたプレイしても構わないつもりでいた。


「えー」


 しかし、ヤクモは嫌そうな声を出す。


「ん? なんでヤクモは嫌なの? ヤクモからこのゲームやろうって誘ったよね?」

「そうだけどさー」

「ぜひ今度もやろうね?」

「……うん」

「なんで嫌そうな声だすのさー」

「だって、ホラーは苦手なんだもーん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る