第50話 夢工房⑥

 私達は手術室へと向かった。そして手術台に集めた人の体を載せる。


「ツクモ、臓器を」

「わかった」


 ツクモは化学室で手に入れたホルマリン漬けされた臓器をビンから出してお腹の中に入れる。


「全部入れたよ」


 さて何が起こるのか?


 私とツクモは手術台から少し離れて見守る。


 そして手術台の上に置かれた人のパーツが強く光り輝く。


 すぐに光が消えて、人のパーツも消えて鍵が一つ、手術台に現れた。


「なんの鍵かな?」

「オルタ、これアレだよ。ほら、鍵のかかったドアがあったじゃん」

「ああ!? あれね」


 最初に左側を突き進んだ先にあった部屋だ。


 鍵を手に入れた私達は手術室を出て、廊下を突き進む。


 そしてドアの部屋に辿り着く。


「ここだよ!」


 ここまでクリーチャーとは出会でくわさなかった。

 運が良かったのかはたまた……。


「ツクモ、鍵を」

「うん」


 ツクモは鍵を鍵穴に差し込んで、ドアノブを回す。


 しかし、ドアが開かなかった。


「ん? あれ? ツクモ、ちゃんと引いてる?」

「引いてるよ。オルタも手伝ってよ」


 私もツクモ操るキャラの腰を掴んで引っ張る。


「硬い」


 そこでクリーチャーが現れる音が聞こえてくる。


「やばい! は、早くしないと!」

「引っ張るよ!」


 しかし、ドアはびくともしなかった。


「早く早く!」


 シュワシュワという音が大きくなり始める。


「……ねえ、ツクモ、もしかしてこれって引っ張るんじゃなくて、押すんじゃないの?」

「そっち!?」


 私達は逆にドアを押してみる。

 すると少しドアが開き始めた。


「やっぱり押す方だったか」

「押せ押せ!」

「開いてきた!」


 けれど、シュワシュワの音だけでなく、クリーチャーそのものが発する音も聞こえてきた。


「ぎゃあ! 音が! 音が!」

「ツクモ、集中! 押すの! 後ろは見てはダメ!」

「いや、いや、音が! ああっ!?」


 ツクモの悲鳴と比例するかのようにドアが開き始める。


「よし! ツクモ、入って!」

「うわあぁぁぁ!」


 無事私達はドアの向こう側へもぐり込んだ。

 後ろでドアが大きな音を立てて閉じる音を聞いた。


 ドアの向こうは灰色の世界だった。

 いや、普通の世界と言うべきだろうか。

 そこはコンクリビルの螺旋階段だったのだ。


「上がないからこのまま下へ向かうのかな?」


 私達がいるところが最上階らしく、下行きにしか階段はない。


「うん。下りてみよう」


 私達が階段を一回り分ほど下りた時、上から大きな破壊音がなった。


 そしてクリーチャーの雄叫びとシュワシュワという音が鳴り始める。


「た、大変! 早く下りなきゃあ!」


 私達は急いで階段を駆け下りる。


「これって、どこまで続いているの?」


 駆け下りながら私は聞く。


「わかんないー! とにかく下りるよ!」


 クリーチャーは階段を下りるのが下手なのか、音から察するにあまり距離は縮まっていないようだ。


 ツクモはそれに気づいてないようで、ひたすら悲鳴を上げつつ、階段を下りる。


 そしてとうとう最下層に私達は辿り着いた。


「オルタ、あそこ! シャッターが開いてるよ!」


 階段を下りてすぐにシャッターがあって、今は上に半分ほど上がり、開いている。


「急ごう!」


 私達はシャッターを潜り、向こう側に。そしてシャッターを降ろす。


「ぎゃあ! 来た! 来たよ! もうダメ! もうダメだよ! いやあ!」

「ツクモ、あとちょっと、急いで降ろそう。きっと間に合う!」


 私達がシャッターを引っ張り降ろすと、シャッターを屈んで潜ろうとしたクリーチャーがシャッターと地面に挟まれた。


 クリーチャーは悲鳴を上げて暴れる。


「今のうちに行こう!」

「うん」


 私達は廊下の奥へ進み、突き当たりに差し掛かる。


「ドアがある」

「鍵がかかってませんように」


 祈りつつ、私はドアノブを回す。


「おっ! 鍵はかかってないようだね」


 ドアの向こうは、広い駐車場だった。


「何ここ? 地下駐車場?」

「それっぽいね」

「青くもないし。現実世界?」

「ううん。ここもブルーゾーンだよ。現実に近いエリアもあるんだよ。さっきの手術室みたいな」

「へえ。で、ここで何をするの?」

「分からない。とりあえず散策してみよう」


 すぐ近くの赤い車を調べてみる。


「ドアが開く。それに……乗れる」

「運転は無理だね」


 運転席に乗り込んだツクモが言う。


「それに何もないや」

「もしかして全部の車を調べるのかな?」


 駐車場は広く、満車というわけではないが、それなりに車は多い。これを全部調べるとなると大変だ。


「とにかく調べ……あれ? この車は鍵がかかってる」


 隣の車を調べると鍵がかかっていてドアが開かない。


「こっちもだよ」

「乗れる車と乗れない車。何か意味があるのかな?」

「ナンバーが大事とか?」


 先程ドアを開けて乗った赤い車のナンバーを見てみる。


「右に3……何これ?」

「一応メモしておこう」

「他にもおかしなナンバーを探そう」


 と、そこでシュワシュワとクリーチャーの接近をしらせる音が鳴る。


「えっ!? うそ!? あいつ、ここまで追いかけて来たの?」

「違うよオルタ! このエリアにいるんだよ。別の個体が! ほら、前方にうっすらとクリーチャーが!」


 前方奥にこちらへとゆっくりと歩く何かがいる。


「どうしよ? ロッカーはないよ」

「車かな?」


 私達は赤い車に乗る。


「平気かな?」

「どうだろう?」


 クリーチャーは蜘蛛型でなく、人型だった。

 人型といっても人ではなく、尻尾のないトカゲが二足歩行しているようなクリーチャー。

 腕が異様に太くて長い。そして口をだらしなく開けて、長い舌を出している。


(なんで化け物って、舌が長いんだろ?)


 そのトカゲのクリーチャーは私達が乗る車に近づく。


「大丈夫かな?」

「分かんない。でも、乗れる車があるってことはロッカー代わりなのかな?」


 そしてとうとうクリーチャーが車に近づき過ぎ──。


「平気だっ──ぎゃあ!」

「きゃあぁ!」


 クリーチャーが車を横から持ち上げ転がす。

 そして長い腕で振り下ろして車を叩く。

 さらには車を持ち上げて投げ飛ばしたりもする。


「に、逃げろー!」

「いやぁ!」


 私達は車から外に出て、逃げる。


「車はロッカー代わりじゃないの!?」

「ならツクモ、どうする?」

「どこかにロッカーがあると考え……あれだ!」


 ツクモがロッカー見つけ、私達はロッカーへと走る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る