第49話 夢工房⑤
「うぅ、やだー」
「ほらほら、ぐずってないで回収して」
ヤクモは瓶の中でホルマリン漬けの内臓を回収する。
「これで全部だね。他に何かアイテムはないかな?」
私達は化学室のテーブルやその下を調べる。
「ないねー。オルタはどう?」
「こっちもないよ。これはもう戻るべきかな?」
「ん、どこに?」
「あれ? そういえばどこにだろう? あとは……鍵の掛かった部屋かな?」
でも、鍵はない。
「ねえ、テレビのあった部屋を忘れてない?」
「テレビ……ああ! そういえばありましたね、その部屋。でも、ビデオテープを手に入れないとダメだったような」
「うん。だから、どこかにあると思うんだけど……ないなー」
その時だ。
シュワシュワとクリーチャーが近づく音が鳴り始めた。
「やばい! 早く行こう! オルタ!」
「うん」
ヤクモはすぐにロッカーのある右の部屋に向かおうと化学室を出ようとするが、クリーチャーが入ってきた。
八本の脚が赤色の蜘蛛型の人だった。
いや、よく見ると人ではない。円柱型の頭、目は6つで頬は裂けて、大きな口を開き、先が2つに別れている長い舌。胸と腹の間にもう一つ膨らみがある。そして腹にも大きな口があり、長い舌をぶら下げている。
「ぎいやぁぁぁー!」
すぐに化学室の奥へとヤクモは逃げる。クリーチャーは悲鳴に惹かれるかのようにツクモを追いかける。
私はしゃがんで物陰に隠れてやりすごす。
「オルター! 助けて!」
「無理だよ。早くロッカーのある部屋へ」
ヤクモはぐるぐる机の周りを走り、なんとか化学室を出る。
その後を追いかけるクリーチャー。
私はどうしようか?
今、ロッカーの部屋に行くとクリーチャーに遭うし。
ちょっと様子見だね。
そこでヤクモの悲鳴が上がる。
「キャアーーー!」
「ど、どうしたの?」
「このロッカー、ダミーだ!」
「ダミー?」
「クリーチャーに潰されるやつ! や、やだぁ! 痛い! やめて! いやー」
クリーチャーが近い時に鳴る音が消えたので、私はおそるおそる化学室を出る。
そしてヤクモがいたであろうロッカーの部屋は壁や床に大きな爪痕、そしてひしゃげたロッカーが床に倒れている。
「ヤクモ、今どこ?」
「逃げてる! クリーチャーが! いや!」
ヤクモは逃げるので忙しいようだ。
私は部屋を見渡す。
(あれ? 数字だ)
さっきまで立てられていたロッカーの後ろの壁に『399』と書かれた数字を見つけた。
「ん?」
さらに黒い箱を私は見つけた。
「なんだろう?」
掴んでみるとその黒い箱はビデオテープだった。
「ヤクモ、ビデオテープ発見したよ」
どうやらここは一度クリーチャーに攻撃を受けて、ロッカーを倒されないと見つからない仕様だったのだろう。
「そ、そう!? いや! 来てる! どうしよ! ダメージが! ああ!?」
「アイテムは回復薬とか? あと、スピードがアップする消費アイテムを持ってたよね?」
「そ、そうだ!?」
私はリュックがパンパンなのでビデオテープを持ちながら移動する。
◯
最初のロッカーのあった部屋で私はツクモと合流した。
「大丈夫、ヤクモ?」
「だいじょばない」
ヤクモは震え声で返答する。
「ほら、ビデオテープ」
「よし、見に行こう」
私達はテレビとビデオデッキのある部屋へ向かう。
そしてビデオテープをデッキな入れて再生ボタンを押す。
テレビ画面に砂嵐が発生。少ししてから映像が流れた。
サイクリングをしている女性の後ろ姿──というかお尻側にピントが合っているような気がする。
ノイズが走り、場面が変わる。
どこかの見晴らしの良いスポットだろうか。
ロードバイクを停めて、女性がペットボトルの水を飲む。そしてこちらに目が合うと、笑いそして撮るのをよしてよという風に手を振る。
「この人、回収した頭の人かも?」
「ええ!?」
また場面が変わる。次はアスファルトが近くに映っている。画面上部に白い板が──いや、ガードレールだ。
カメラが地面に横向きに倒れているのだろう。
なら、それを撮影した人は?
「事故かな?」
「うん。これは事故だね」
ノイズが走り、画面が変わる。
頭に傷を負った女性がストレッチャーで運ばれている映像。
ここから画面は素早く変わっていく。
手術室前の廊下。
項垂れるロードバイクウェアの男性。彼の体のあちこち包帯が巻かれている。
初老の夫婦が男性を泣きながらなじっているような画面。
医者が初老の夫婦に何かを語りかけているシーン。
男がソファに座り、両手で顔を覆っているシーン。
そして恋人の手術シーン。
「違う。これは解剖?」
「うそっ!」
「ほら、心臓とか取ってる」
そしてホルマリン漬けにされる内臓。
画面は変わり、荒れた部屋の一室。テーブルには空いたビール缶の山。
男が自暴自棄にでもなったのかと思われたが、ソファに座る男の目には怪しい光が。
画面は壁を映す。壁には貼られた新聞や週刊誌のスクラップ。ロードバイク衝突事故、児童轢き逃げ事件、煽り運転、信号無視、覚醒剤所持、県知事馬鹿息子、暴力事件など様々なスクラップ。そしてそれらは腕にタトゥーの入った男に繋がっている。
警察署の廊下で警察官に話しかける男。しかし、警察官はそれを邪険に扱う。
夜のギャングストリート。
馬鹿騒ぎする若者達。
酒に謎の粉を混ぜる腕にタトゥーの入った若者。
その若者が外に出たとき、男が背後から鈍器で殴って拉致。
薄暗い部屋でタトゥーの男は麻酔なしで解剖され、内臓を取り分けられる。
「「うえっ!」」
私とヤクモは嫌な声を出した。
取り調べ室。ポリスに詰め寄る男。
そして映像は終わった。
「これはつまりロードバイク衝突事故の犯人は県知事の馬鹿息子で、権力で揉み消し?」
「たぶん、そんな感じじゃない。その馬鹿息子は他にも色々とやってたっぽいけど」
画面にスクラップ記事のシーンがあった。かなりの犯罪を犯していて、それを県知事の父親が揉み消していたと。
最後にノイズが走り、049の文字が現れた。
「何この3桁の数字は?」
「前にも3桁の数字があったよ。確か人形の部屋で814」
「そういえば、ダミーロッカーの部屋にもあった。399だったはず」
「一応メモしておこう」
「それで結局、このビデオは恋人を亡くした男が復讐して、麻酔なしで解剖したという話なのかな?」
「えぐい」
「でも、亡くなった恋人の解剖はどういうことだろう?」
「法医解剖みたいな?」
「犯人と同じように取り分けられていたような」
法医解剖がどういうものかはきちんと知らないけど、ドラマとかだとメジャーや計量器で計っていたりした。あれはただ取っているだけだった。
「頭打ってたよね。脳死だったのかな。それでドナー登録をしていて、心臓とか摘出された?」
「でも、ホルマリン漬けにされたよ」
「本当だ。う〜ん? 珍しいから検体になったとか?」
「検体か〜」
検体ならホルマリン漬けはありえるか。
「それでこのビデオの内容と今の状態は何の関係が?」
「う〜ん? オルタ、女の人が回収した顔に似ているって言ってたよね?」
「うん。たぶん同じかな?」
「ここって手術室あったよね。もしかしたらそこで回収した死骸を合わせるんじゃないかな?」
「なるほどね。やってみよう」
それでどうなるかはわからないけど、何もないため今はやるだけやってみることにした。
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