第48話 夢工房④

 ツクモに代わって右の部屋へ行き、ベッドの下を伺う。


「うわー、確かにこれは分かってても怖いわ」


 目ん玉がくり抜かれて、口を大きく開いた状態のものがあるのは直視しづらい。

 私は女性の頭を回収して、左の部屋に戻る。


「回収したよ」

「ありがとう……はわっ!」


 ツクモはロッカーに出てきて驚く。


「え? 何? どうしたの?」

「あ、あれ!?」


 ツクモのキャラが指差す方には傘立てがある。


「あれが何?」


 傘が2本あるが。


「いやいや、あれ、脚じゃん!」

「ん?」


 私は傘立てに近づいて確認する。


「本当だ! 脚だ! 逆さまだったから分からなかった」


 2本の脚は逆さまに傘立てに突っ込まれ、足首のところが傘の持ち手のように見えていた。


「回収するね」

「お願い」

「あとは何もないから戻る?」

「そうだね。最初のロッカーところに戻ろう。確か右の道があったはず」


 そして私達は部屋を出ようとするが、シュワシュワと音が聞こえ、部屋も青みが増してきた。


「き、きた!」


 ツクモはいち早くロッカーの中へと逃げる。

 私もロッカーに入り、音が消えるのを待つ。


 そして音が消えて、私達はロッカーを出る。来た道を戻り、分岐路でツクモがスプレーで壁に『右は手術室、奥に部屋2つ』と書く。


「ええと、左は鍵のかかったドアだったよね?」

「うん」


 ツクモは『左にドア』と書き始める。

 その途中で音が聞こえ始める。


「ツクモ、早く!」

「分かってる」


 ツクモは急いで壁に『左にドア』と書くのだが、焦ったせいか『左にとあ」となってしまった。


「間違えた!」

「別にいいよ。意味は分かるから」


 私達は急いでロッカーへと向かうのだが──。


「あれ!? ツクモ、どこ!? やられた!?」


 近くにツクモの姿はなかった。


「やられてないよ。オルタこそどこに?」

「だから最初のロッカーに!」

「そこ!?」

「ツクモ、まさか傘立てのあったロッカーに?」

「……うん」

「なんでそこなの?」

「……だって近いし」

「もう。早く来てよ」

「待って! 音が聞こえる。あいつ、すぐ近くにいる!」


 クリーチャーがいなくなるまでツクモはロッカーでじっとするのだが。


「ねえ、迎えに来て」

「はあ?」

「1人は怖い」

「同じ部屋にいて、隣にいるんだけど」


 私達はゲーム実況のため同じ部屋にいて、すぐ隣にツクモがいる。


「えー!」

「『えー!』じゃない。そばにいるんだから、怖くないでしょ?」

「代わりにやってくれる?」


 ツクモがコントローラーを私へと向ける。


「ダメ! ちゃんとやらなきゃあ!」

「ううっ、あいつの音が聞こえるよー」

「聞こえなくなったらすぐにロッカーから出て走って!」


  ◯


「はふぅ〜。やっと戻って来れた」


 しばらくしてやっとツクモが最初のロッカーあった部屋へと戻ってきた。


「さ、次へ行くよ」

「もう行くの〜」

「早くしないとダメでしょ?」


 私達は部屋を出て、右の道へと進む。

 進んでいくと部屋を見つけた。

 山のようにダンボールが積み上げられた広い部屋だった。


「これを一つ一つ確かめるの?」

「ううん。違うみたい。調べることはできないみたい」


 ダンボール隙間を進み、落ちているアイテムを回収する。


 回復、毒消し、麻痺治し。


「ここはアイテムがいっぱい落ちてるね。先に来ればよかった」


 私はアイテムを拾いつつ言う。


「そうだね。おっ! スピードアップのアイテムを見つけた」

「良かったじゃん。それがあればクリーチャーに遭っても、すぐに逃げ切れるよ」

「できれば遭いたくない」

「ねえ、回復アイテムとかがあるってことは、クリーチャーに遭っても即死にはならないんだよね?」

「うん。でも、即死系もいるから気をつけて」


 部屋を調べたが、あったのはアイテムだけで、人の死骸はなかった。


「さて、次に進もう」


 部屋を出て、かくかくとした道を進んでいく。

 次に発見した部屋は白い彫像が何体も置かれた部屋だった。


「人の彫像だね。でも、欠損しているね」


 白い彫像は顔が欠損しているものや、腕、足、脇腹が欠損しているその他の彫像が並んでいる。


「本当だね」


 ツクモは彫像を一つ一つじっくりと眺める。


「どうしてのツクモ? 何か気になる点があった?」

「いや、もしかしたら集めた人の体をこの彫像に当て嵌めるのかなと思って」

「あれ? 回収した死骸は持ち帰るんじゃないの?」

「それもあるけど、何かには次のステージに使うのもあるんだよ」

「へえ。なら、集めた指とか頭をここで使うのかな?」

「オルタ、試してみて」

「はーい」


 私は集めた死骸パーツを彫像に当て嵌めようとするが──。


「ううん? サイズが合わないし、何も起こらないね」

「なら違ったか」


 死骸パーツをリュックに戻す。


「オルタ、これも忘れてるよ」

「あっ! ん?」

「どうしたの?」

「これはここにあったやつだよ」


 それは腕と胸だった。


「そうなんだ。それも回収」

「あっ!?」

「何?」

「リュックがパンパンだ」

「あらら。次から私のリュックに入れるね」

「てか、もうほとんど集まってない?」

「アハハッ」


 彫像の部屋を出て、廊下を進んでいくと突き当たりに着いた。けれど右と左に部屋があり、私達は二手に別れる。


 今度は私が右、ツクモが左に。


 私が入った右の部屋はロッカーがあるだけの部屋だった。


「ここはロッカーしかない。中は何もないや」

「こっちは学校の化学室なのかな? すごく広い。何もないなら、こっちを手伝って」

「分かった」


 私は右の部屋を出て、左の部屋へと入る。


 左の部屋は右の部屋に比べてかなり広く、本当に学校の化学室だった。


 教壇、黒板、部屋に蛇口付きの大きな机が3縦3列。それと四角い椅子。壁に沿って棚が並び、実験器具が並べられている。


「こっち! こっち!」


 ツクモは奥にいた。


「そっちの棚は開けられないけど、こっちの棚は開けられるの」


 その棚には瓶があり、中にはホルマリン漬けされた人間の内臓が並んでいた。


「これ回収できるらしいの」

「へえ」

「回収お願い」

「えっ!? 私のリュックパンパンだから無理だよ」

「……まじか! ……わ、私が回収しないといけないの?」

「うん」

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