第47話 夢工房③

 水色の施設内にいるとプールの中にいるような錯覚をもたらす。


 施設内はお店のない地下街のみたいで、入り口をみつけるとがらんとした空間のような部屋がある。


 そこには机やタンスがあったり、人形のおもちゃや衣服が床に散らばっている。


 そして壁には数字が書かれている。


 私とツクモは机やタンスを調べて、アイテムを回収していく。


「ここは何の部屋なんだろう?」


 子供部屋にしては明らかに広く、そして物も少ない。広い空間に人間の日常品をぽつりと置いただけのようだ。


「それが分からないのよね」


 と、ツクモが答え、人形を持ち上げる。


 人形はアイテムではないため回収はできないが、触ったり持ったり別の場所へ移動させたりすることはできる。


「持つことができるってことは何かに使うってことなんだと思うんだけど。分からんなー」


 そしてツクモは人形を机の上に置き、壁に『人』とスプレーで文字を書く。


「この壁の数字は何かな?」


 壁には『814』と3つの数字が書かれている。


「ええと『814』ね。意味は分からないけど、とりあえず覚えておこう」


 そして部屋を出て、隣の部屋に入る。


 隣の部屋は小さく、テレビとビデオデッキだけがある。


「うーん。電源が点かないね。これは何かを見ろってことっぽいけど」

「ブルーレイディスクを見ろってことかな?」

「違うよ。オルタ。これはたぶんVHSだよ」

「VHS? 何かの機械ですか?」

「そうじゃなくてテープだよ」

「セロテープか何かですか?」

「……待って、ビデオテープって、知らない?」

「ビデオテープ?」


 ビデオと付くからには、テレビ系と考えられる。ビデオ……動画……映画……映画!?


「あの映画の……ネガみたいなやつですか?」

「たぶん思ってるのと違う。ビデオテープというのはDVDの一つ前の世代。四角いやつ」

「ごめんなさい。分からない」


 DVDですら子供の時に見たことあるくらいだし。


 ちなみに私は子供の頃、DVDを安いブルーレイディスクと勘違いしていた。


「ジェネレーションギャップだ」


 ツクモは少しショックを受けたようだ。


 でも、私とツクモってそんなに歳が変わらないように思えるんだけど。


「ツクモって、歳いくつ?」

「!? 何を聞くの!? 私は16よ」

「それは設定。……あ、ごめん」


 中に関する質問や発言はNGだった。


「そうだね。16だもんね。さ、行こう」


 私は部屋を出る。


「ね、16だからね!」

「うん。そうだね」

「本当だからね。アラサーじゃないから!」


 なぜかツクモがムキになって答えてくる。


  ◯


 かくかくとした道を進むと別れ道があり、これまた二手に別れようとするとツクモが嫌がった。


「いや、1人は嫌っ!」

「分かった。また左を進もうか」


 そして2人で左道を進むと行き止まりだった。

 正確にはドアがあったのだが施錠されていた。


「これは鍵を見つけろってことだね」


 私達は来た道を戻り、先程の別れ道で次は右を選択。

 右を進むと手術室に辿り着いた。

 水色でもなく、普通の現実にある手術室。

 探索するとツクモが悲鳴を上げた。


「ひぃやぁー! 指! 指!」

「見つけたの?」

「あった! あった! 転がってた!」


 ツクモが部屋の隅を指す。


 黒い指が10本あった。


「初めは動物のフンかと思ったの。そしたら人の指だった」

「そっか。じゃあ回収を……」

「オルタ、お願い」

「私?」

「だって気持ち悪いもん」

「その気持ち悪いことを人にさせないでよ」

「お願い」


 仕方なく、私が指を回収。

 他にも何かないかと調べるも何もなかった。


「ううん。あとは何もないね。ただの手術室か」

「ここだけ水色ではないよね。なんでだろう?」

「基本は水色だけど現実的な空間もあるらしいよ」

「へえ」


 私達は手術室を出て、道をさらに進むと2つの部屋を見つけた。


「右の部屋は私が探すから、オルタは左部屋を」

「分かった」


 ツクモは別れ道では二手に別れるのは嫌だが、部屋を別々に捜索するのは平気らしい。

 私は左の部屋を調べる。


 2つのロッカーと本棚、そして部屋の隅に傘立て。


 本棚には難しそうな本と図鑑がいくつか。


 パラパラと捲れるらしく、私はキャラを操作して本を捲る。


 難しそうな本は全部ミミズ文字で何が書いてあるのさっぱり。


 図鑑を捲ると穴を見つけた。

 ページ中央をぽっこりと切り抜かれた穴。


 そこには何か丸いものが嵌め込まれていた。


 私はそれを取り抜く。


「なんだ……うお! 目だ!」


 丸い物は目だった。


 瞳の部分が穴の底側だったため気づかなかった。


「回収」


 次に部屋の隅にある傘立てを調べようとした時、ツクモが悲鳴を上げて部屋に入ってきて、ロッカーを見つけるや中に入った。


「えっ!? 何!? どうしたの!?」


 私もロッカーに急いで入る。


「どうしたの? クリーチャーが現れた?」

「ち、違う! あ、頭が!?」

「頭?」

「ベッドの下に頭があったの」

「……なーんだ」

「なーんだとはなによ。ベッドの下を覗きますかってコマンド現れて、つい押してしまってベッドの下を覗いたら頭があったのよ!」


 日常ならガチホラーだけど、これはホラゲーだから、その可能性が前提としてあると覚悟はできているものだけど。


「……まあ、一応怖いね」


 とりあえず同調しておく。


「でしょ!?」

「でも、その頭も回収でしょ?」

「オルタ〜」

「もう!」

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