第46話 夢工房②

「これどういうストーリーなの? 夢工房とバラバラ死体……死骸だっけ。なんの繋がりがあるの?」

「ストーリー、気になる?」

「超気になる」

「それじゃあ、まずあそこのロッカーに入ろうか」

「え?」


 ヤクモは背中に01と表記されたキャラを動かしてロッカーに入る。


「ほら、オルタ、早く隣のロッカーに入って」

「……うん」


 よく分からないけど私は隣のロッカーに入った。


「ねえ、なんでロッカーなの? どうしてここで会話?」

「それはね、ロッカーはセーフティーゾーンだからだよ」

「セーフティーゾーン?」

「クリーチャーから襲われないところをセーフティーゾーンって言うの。つまりここにいれば安全だってこと」

「なるほど」

「おほん。では、ストーリーについて簡単に説明する」


 ヤクモは先生口調で話し始める。


「わー」

「ある日、夢工房を使って目覚めない人達が現れたの」

「ええ!?」


 そういえば映像に夢工房問題ってあった。開発会社の責任者が記者会見をして、謝罪をしていた。


「たくさんの人が犠牲になってね。それで国がこの問題解決に動いたの」

「ほほう。で?」

「解決できなかったの」

「できなかったの!?」

「でも、その代わりにこのブルーゾーンを発見したの」

「ブルーゾーン?」

「ほら、ここ水色でしょ?」

「うん」


 壁、床、天井が水色に塗られた奇妙な世界だった。


「だからブルーゾーン」


 安直なネーミングだな。


「それでこの世界って、なんなの?」

「それが謎なのよ。政府……というか研究機関は夢工房を使って、被害に遭った人達の集合的無意識に接続したの。その時に偶然ここの空間を見つけて、研究機関はこの空間が実在する空間だと分かると、密かに研究して、とうとう空間を破って、この世界に侵入することに成功したの」

「なんかホラーというよりSFっぽいな」

「ちなみに夢工房事件が30年前で、研究機関がこの世界を探索し始めたのが5年前」

「なるほど。研究機関がよく分からん世界を見つけたと。でも、危ないんでしょ? なんのメリットがあってこんなことを? 被害者を助けるため?」

「残念だけど被害者についてはもう諦めてるの」

「諦めてるの!?」

「政府及び研究機関はこの世界の物──マテリアルっていうんだけど、それがかなりすごくて軍事利用できるかもしれないとかで集めているの。さらに死骸からも医療発展する何かがあるとか」

「ええ!? 死骸に!?」

「それで政府は研究機関に莫大な予算を注ぎ込んでブルーゾーンのマテリアルを集めているの」

「そんな理由が」

「さて、それではロッカーを……オルタ、音が聞こえるでしょ?」

「え? ああ、シュワシュワって音が聞こえる」


 正確にはシュワシュワとフワフワの音が重なった感じ。シュワにも聞こえるし、フワにも聞こえる。


 その謎の音は次第に大きくなる。


「これはクリーチャーが私達に近づいている音。それと周りの青みが強くなるの。だからこの音が聞こえたり、青くなったら逃げるかロッカーに隠れるように。それと静かにね」


 ヤクモは早口で言う。その声には怯えがあった。


「オッケー」


 そしてロッカーの通気口から外を伺うと何本かの赤い線のような何かが見えた。


 それはカクカクと動き、ロッカーの前を通過する。


「ねえ? 静かにする必要ある?」


 ここはセーフティーゾーン襲われないなら喋ってても問題ないはず。


「一応ね。進めていくとロッカーを開けるやつもいるから」

「それじゃあ、外に出ようか」

「ま、待って! 辺りに奴がいないかをチェックしないと」


 とは言うもののロッカーにある通気口の細い長い穴からでは外がよく見えない。


「大丈夫じゃない。音もしないし、水色だし」


 そう言って私はロッカーを開ける。


「オ、オルタ!?」

「敵はいませんよ?」

「ほ、本当!?」

「大丈夫だって」


 ヤクモはロッカーを開けて、おずおずと中から出てくる。そして周囲を確認する。


「さあヤクモ、探索して死骸を見つけよう」

「うん」

「で、どこ行けばいいのかな?」


 水色の施設内は地下街のようだった。


「二手に別れる?」

「ダメダメ! 1人はダメ! ムリ!」

「……じゃあ、こっちの太い方の道を進んで行こう」

「そうだね。一緒に行こう」


 私達は左手の太い道を選ぶ。


「待って。その前に印をつけておかないと」

「印?」

「このゲームはマップがないから、道を覚えないといけないと。けれどあまりにも広いから印をつけないといけないの」


 ヤクモはスプレーで壁に『ロッカー①左』と書く。


「これでよし……音だ! ロッカー!」


 シュワシュワという音がかすかに聞こえてきた。


 ヤクモは急いでロッカーに入る。


「音っていっても小さいよ。大丈夫じゃない?」

「ダメ。オルタも早く!」


 とりあえず私もロッカーに入ろうとする。けれどロッカーに入る前に音は小さくなり消えた。


「ほら。小さいうちは平気だって」

「そ、そうね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る