第45話 夢工房①

 スタジオの休憩スペースで腕枕して寝ている朝霧さんを見つけた。


 私は隣の椅子に座り、どうすべき迷った。


 スマホで時間を確認する。コラボ配信の時間にはまだ早かった。今日は『夢工房』というゲームで朝霧さんがプレイ時間が長くなるかもとのことで今日はいつもより早めに配信をすることになっていた。


 いつもと違うためか、私も待ち合わせに早めに来てしまった。


 ここは時間が来るまで寝かせてあげるべきか。


 考え、そして私はもう少し寝かせてあげようと決めた。


 私は自動販売機に向かい、コーヒーを買う。


 椅子に戻り、プルタブを開けてコーヒーを飲む。


 エレベーターを降りた女性が受付へと向かう。その際、チラリとこちらを伺う。そして受付で鍵を受け取り、配信部屋へと向かう。


(Vtuberの方かな? すんごい美人)


 六本木で遊んでそうな女性でゲームとは無縁のような人だった。


 そしてコーヒーを飲み終えた頃、ちょうどコラボ配信の時間が近づく。


 そろそろ起こすべきかな。


「朝霧さん、朝霧さん」


 私は彼女の肩を揺する。


「ふぇ?」

「配信の時間です」


 朝霧さんは瞼をふっくら開けて、私を見る。そして急に驚き、


「あっ!? 宮下さん!?」

「おはようございます」

「おはよう。あっ! そっか! 今日はコラボだった!?」

「はい。そろそろ準備をしないと」

「ごめんね。ちょっと寝不足で」


 そして私達は配信部屋に向かい、朝霧さんはそれぞれのパソコンを操作して配信準備をする。


「はい。これでオッケーです。配信はあと5分くらいですね」

「ありがとうございます」

「宮下さんはこのゲームは初めてなんですよね?」

「はい。朝霧さんはあるのですか?」

「いいえ。やったことはありません。ただ、他の配信者の切り抜きでちょっとだけ見て、知ってる程度です。それにホラーですから見るのも」


 と、言って朝霧さんは首を横に振る。


「一応、ストーリーは勉強しました」

「ストーリーを? ネタバレになりません?」


 ストーリーを知れば何が起こるのか分かってしまうのでは?


「ストーリーはたいしてゲームには必要性はないんです。ただ、背景として夢工房のストーリーが気になって」

「確かタイトルが夢工房でしたよね。名前からしてホラーっぽくないような? 怖いストーリーなんですか?」

「名前で騙されてはいけませんよ。これかなりホラーゲーですからね。今までのより怖いですよ」


 朝霧さんはおそるおそる言う。


「幽霊系ですか?」

「いえ、クリーチャー系です」

「ゾンビのような?」

「ちょっと違います。まあ、やってみたら分かります」


  ◯


 配信時間が始まり、私達は挨拶を始める。


「どうもー、6期生猫泉ツクモでーす」

「赤羽メメ・オルタでーす」

「今日は見ての通り、夢工房を始めまーす」

「わー」


 画面には水色の施設内の景色とタイトルの名前。そして右には赤羽メメ・オルタ。


「では、スタート」


 ツクモが開始を宣言して、私はスタートボタンを押す。

 砂嵐が始まり、しばらくするとモノクロの映像が流れる。

 白衣とメガネをかけた西洋人が画面に現れた。


『こんにちは皆さん、私はマクファーレン・ブラックリンです。このたび紹介致しますのは我がケロリロン社が作りました画期的な商品、夢工房についてです』


「ん!? 夢工房?」


 ゲームタイトルと同じ名前。


 そしてマクファーレンはヘルメットを画面にいる私達に見せてくる。


 ヘルメットにはボタンや液晶パネル、謎の突起物、バネらしきものが着いている。


『これが夢工房です。皆様は悪夢を見て憂鬱な気分に悩まされることがあるでしょう。それで1日が億劫になったり、大切な日に悪夢を見て不安になるでしょう。でも、安心してください、この商品はポジティブな夢を皆様に提供させることができます』


 マクファーレンは自信満々に言う。


 そしてまた砂嵐が始まり、次は情報番組になる。


 街頭インタビューのようで、街行く人に夢工房について聞いていた。


『もう。最高』、『今、夢工房を使ってない子いないよね』、『現実でもポジティブになれるよ』、『悩みに関する夢も、夢の中で解決。それを現実でやってみたら大成功』


 老若男女が夢工房を絶賛する。


 そしてまた砂嵐が。


『夢工房のおかげで睡眠薬をオーバードーズする若者も減ったとの傾向があり、夢工房の社会貢献は数えきれませんね』


 キャスターが褒める。それにインテリ系のコメンテーターが、『ノーベルは無理でも、イグはいけると思うよ』と、豪語する。


 その後、また砂嵐が。でも次の映像は毛色が違った。


『夢工房問題で開発責任者による説明がありました』


 キャスターが真剣な顔で告げる。


 すぐに砂嵐となり画面は変わる。


『警察が今、ケロリロン社に家宅捜査を始めました』


 ダンボールを持った警察官達がビルへと入っていく。


 それから次々と砂嵐が頻繁に発生し画面が切り替わる。


 それは泣き崩れる被害者家族、頭を下げるマクファーレン、ビルに火炎瓶を投げるデモ隊、政府による会議。そして謎の施設内。クリーチャーがフルフェイス型の防護服を着た人を襲う。次の映像には銃火器を持った人がクリーチャーを攻撃するが、あっけなくやられる。逃げる人。発狂して壁に頭を打ちつける人。様々な映像が流れて、最後は骸骨の映像。


 連続したモノクロの映像が終わり、フルフェイス型の白い防護服を着た人が2人、画面に現れる。それは先程の映像に映し出された人と同じ。


 背中には01と02の数字が表記されている。


 2人はドアを開けて、隣の部屋に入る。


 隣の部屋には巨大な爪のような機械が4つあった。


 そしてスーツを着た偉そうな人と科学者らしき人物達、そして黒のフルフェイスヘルメットにライフルを持った兵士2名いた。


 スーツを着た偉そうな男が2人に近づき、そして紙を渡す。


『君達にはこれから死骸回収をしてもらう。それはリストだ』


「え? 死骸? 死体でなく?」


『幸運を祈るよ』


 と、言い、スーツを着た偉そうな男は科学者に顎で指示をする。


 科学者達頷き、機械を操作し始める。


 4つの機械が持つ、巨大な爪先が紫色に光る。

 そして機械は爪で空間を掴んだ。爪はそれぞれ別方向に動き始める。

 すると空間が千切れ、破れた空間の向こうに水色の施設内が見える。


 フルフェイス型の防護服を着た2人が謎の空間へと足を踏み入れる。


 画面が変わる。どうやらムービーパートが終わったらしい。


「オルタ、これが私達だよ」


 背中に01と書かれたキャラが動く。


 私も十字キーを動かすと背中に02と書かれたキャラが動く。


「おお!」

「では、死骸集めをしよう」

「なぜ死骸なの。死体ではないの?」

「バラバラになってるからね。だから死骸なの?」

「……バ、バラバラ」


 このゲームタイトルは夢工房だよね。どういうこと? 夢はどこに?

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