第44話 オタ会話②

「ええとね、『メロンゲーム』っていうのは、パズルゲームなの。フルーツを掛け合わせていって、最後は大きなメロンを作るの」


 美菜が説明し始める。


 私は美菜の隣に座り、話を聞く。隣のベンチには種咲と桜庭が座っている。


「掛け合わせる?」

「まずゼリーを落として、同じ色のゼリーが4つ合わさるとフルーツになるの。赤ゼリーでりんご、黄色ゼリーでバナナ、紫ゼリーでブドウ、緑ゼリーでラフランス」

「なるほど」

「さらに同じフルーツを2つ掛け合わさると別の新なフルーツになるの。それで掛け合わせていって最後に出来るフルーツがメロンなの。これが基本的なこと」

「あれ? 同じフルーツを掛け合わさせるんでしょ? そしたら4種類出来ない?」


 りんご系、バナナ系、ブドウ系、ラフランス系で4種類のフルーツが出来る上がるのでは? それとも4種類は最後に同じメロンになるってこと?


「ええとね、2段階目は別々のフルーツが出来るけど、3段階目はりんご系とラフランス系は同じフルーツが出来るの。ブドウ系とバナナ系もまた同じフルーツ。4段階目はどちらもパイナップル。そのパイナップルを2つ掛け合わせるとメロンになるの」

「ダブルメロンは?」

「さっきも言ったけどメロンを2つ作ること。フルーツを2つ掛け合わせると違うフルーツになるって言ったでしょ?」

「うん」

「ならメロンを2つ作るとどうなると思う?」

「え? ええと……最後がメロンだから、何も起こらない?」

「ブー! ハズレ。正解は2つとも消えるが正解」

「へえ」

「これをダブルメロン。でもこのダブルメロンがすんごく難しいの」

「そうそう。ちょうど出来ないようになってるのよね」


 桜庭が肩を竦めて言う。


「どう? 面白そうでしょ?」

「う〜ん」


 説明を受けて、イマイチまだイメージがつかない。3段回目と4段階目の掛け合わせで同じフルーツが出来るってことが分かったけど。


「あと、対戦も出来るんだよ」


 と、美菜が付け足す。


「対戦?」

「うん。たくさんフルーツを作ると相手にお邪魔ゼリーを降らせることが出来るの。ちなみにお邪魔ゼリーは4つ集めてもフルーツにはならないの」

「対戦は面白そうね」

「オンライン対戦も出来るの」

「へえ」

「やってみたいと思わない」

「ううん、まだイメージが……」

「佐藤順次の動画を見ればいいんじゃない? そしたらどう面白いかよく分かるよ」


 種咲が佐藤順次の動画を勧めるが、桜庭が待ったをかける。


「ここはVtuberの方がいいと思うわ」

「なんでよ!」

「だいの男がゲームに熱中なんて引かない?」

「Vtuberだって中身はジジイとかババアでしょ?」

「違うわよ。あんた、中身みたことあるの?」

「ないけどネットで前世とか中身が特定されてるじゃない?」

「あんなのデマよ」

「なんでデマって分かるのさ」

「この前の星空みはりの大学の件だって、嘘だったじゃない」


 隣のベンチで2人が向かい合っていがみ合う。


「まあまあ2人共。というか2人って動画配信者とかVtuberに詳しいの?」


 私は喧嘩を仲裁し、Vtuberについて聞く。


「「人並み程度よ」」


 2人ハマって言うなんて怪しい。


 フンと鼻を鳴らして2人はそっぽを向く。

 種咲は動画配信者で、桜庭はVtuberに詳しいのかな?


 私は美菜に向き直して、


「Vtuberもメロンゲームってやってる人が多いの?」

「うん。結構な人がやってるよ」

「皆、佐藤順次がやると真似するのよ」


 種咲が溜め息交じりに言う。


「はあ? 面白いから流行ってるだけでしょ? そもそも作った人間を褒めなさいよ」


 桜庭がすぐに言葉を返す。


「もう2人共」


 動画配信者もVtuberもやってることは同じなのに、どうしてファンがいがみ合うのかな?


「何、わめいているのよ?」


 ふと呆れた声が降ってきた。


 声の方へ振り向くと天野さん達がいた。


「いやあ、メロンゲームの話をしていて、そしてたら、まあ、色々と」

「メロンゲーム……ああ、今、流行ってやつね」

「へえ、本当に流行ってるんだ」


 パンピーの天野さんも知ってるということは普通に流行っているのだろう。


 そこで美菜からちょんちょんと腕をつかれた。


(あっ、そっか)


「この人は天野さん、で、右の背の高い人が瀬戸さん、左の小さい子があらたさんよ」

「小さい子って何よー」


 新さんがブーブーと文句を言う。


「で、そっちとそっちの子は?」


 天野さんが私に聞く。


「隣のベンチに座ってるのが同じ学部の種咲と桜庭」

「種咲でーす」、「桜庭よ」

「で、この子はフランス文学科の松任谷美菜」

「フランス文学科!?」

「うん、そうだけど」


 どうしたのだろう? 天野さんはちょっと眉を下げ、美菜を見る。


 蛇に睨まれたカエルの如く、美菜は固まる。


「ふうん」

「あ、あの……」


 美菜は困ったように俯く。


「天野!」


 瀬戸さんの一言で天野さんは、


「そろそろ講義の時間じゃない? 喋ってて大丈夫なの?」

「あ、そうだね」

「それじゃあね?」


 そう言って、天野さん達は去って行った。


 去り際、瀬戸さんが苦笑いして私に手を振る。


「あれが噂の天野か」


 天野さんが去った後、種咲が声を漏らした。


「瀬戸って人、まじですごい。モデル?」


 次に桜庭が瀬戸さんについて呟く。


「千鶴って、よくああいう人と知り合えたわね」

「まあ、色々あって」

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