第43話 オタ会話①

 大学のベンチで豆田と美菜を見つけた。


 あの人見知りの激しい豆田が珍しく最近、私が紹介した美菜と会話をしていた。


「珍しい組み合わね」


 種咲も私と同じことを思ってたらしく、言葉にして2人に聞く。


「何よそれ」


 豆田が半眼で睨む。


「まあまあ、何の話してたのさ?」

「ゲームの話よ。ここ最近どんなゲームが流行ってるとか」

「オタクだね〜」

「あんたもどちらかというとオタクでしょ?」

「そう? 普通よ」


 種咲は肩をすくめる。


「今時、スマホを持ってたらゲームの一つや二つはするのね?」


 と、種咲は私に同意を求める。


「まあね」


 種咲の言う通りだろう。


 隙間時間用のゲームがあり、暇つぶしや、待ち時間にゲームをすることは珍しくはない。

 それにスマホを購入するとプリインストール済みのゲームもある。


「で、何のゲームの話?」


 種咲が豆田達に聞く。


「『メロンゲーム』よ。ここ最近ネットやSNSで話題になってるのよ。それについて話していたのよ」

「知ってる。佐藤順次が紹介してたやつだ」

「佐藤順次? 誰?」


 知らない人の名前なので、普通に私は種咲に聞いたのだが、私のその発言に三人は驚いたようだ。


「ええっ!? 千鶴、知らない? 有名動画配信者だよ」

「知らない。桜庭は知ってる?」

「名前だけなら。フォロワーが100万人いる人だっけ? なんかゲームとか実況する人」

「Vtuber?」

「ううん。Vtuberとは違ってガワを被らず、顔を晒している人だよ。37、8くらい人」

「名前だけにしては詳しいね。チャンネル登録してる?」


 種咲が疑いの目を向ける。


「馬鹿ね。弟が見てたのよ。うちの弟が。よく佐藤順次やVtuberとかの動画を見るのよ。他人がゲームやってるとこ見て、何が楽しいのやら。しかも見た後に、ゲーム買ったりしてるのよ」


 桜庭は呆れたように言う。


「それで2人はその『メロンゲーム』について話してたんだ。何、買うの?」

「300円程度の安いゲームらしいから、やってみようかなって話してたの」

「300円。やすっ!? いや、無料ではないから高いのか?」


 と、私が言うと美菜が、


「『メロンゲーム』は元々はダウンロード販売されていた安価のパソコンゲームなんだよ」

「ソシャゲじゃないんだ」

「今はスマホ用まであるけど、無料ではないんだ」

「無料ではないのに流行ってるんだ」

「佐藤順次の影響だね」


 と、種咲が頷きつつ言う。


「そうなの?」

「本当だよ」と、美菜は言って、「『メロンゲーム』って、3年前に発売されていたんだけど当時は全く売れず、販売ランキングも圏外。でも、先月頃に佐藤順次がゲーム実況で『メロンゲーム』を取り上げて、今では販売ランキング8位にまで上がったんだよ」

「それはすごい。佐藤順次って、そんなにすごい人なの?」

「勿論、佐藤順次の影響だけでなく、あとに続いたVtuberの影響もあるよ」

「Vtuberはキッズに人気だからね。『メロンゲーム』は300円だからお金のないキッズも余裕で買えるしね」

「その言い方だと桜庭弟も買ったのかな〜?」


 種咲がニヤニヤしなが聞く。


「買ってたわよ。スロッチに入ってたの」

「スロッチに? パソコンやスマホではないの?」


 パソコン用で最近はスマホでも出来るようなったと聞いたけど。


「スロッチのオンラインストアでも買えるんだよ」


 と、美菜が私に教えてくれた。


「そうなの。だからあいつ、自分の金を使いたくないからスロッチのストアで買ったのよ」

「どういうこと?」

「うちのスロッチは家族共有でね。残ってた電子マネーで勝手に買ってたのよ」


 なるほどね。300円くらいなら残ってそうな額だ。


「ま、そのかわり私もガンガンやってるけどね」

「おいおい、ハマってるのかよ」

「初めは勝手に買った弟の嫌がらせでやり始めたのよ。そしたらちょっとハマってね」

「ハイスコアはどれくらいよ?」

「8071点よ」

「ダブルメロンじゃねえかよ」

「ダブルメロン? 何それ?」


 私は種咲にダブルメロンについて聞く。


「メロンを2つ作ること」


 ダブルというからにはそうなんだろうけど。


「というか、その『メロンゲーム』って、どんなゲームなの?」

「…………千鶴、本当に知らないの?」

「え? うん」


 皆、信じられないという顔をする。


 何? 知らなきゃあ、いけないことなの?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る