第42話 検証動画作成準備【朝霧由香】
詩子先輩がネットやSNS等の広告でよく見られるゲームが詐欺ゲーかどうかをジャッジするという企画配信をするらしく、ペイベックスVtuber達に検証動画の作成依頼が舞い降りた。
そこで私にも、とある広告ゲームの検証動画の依頼が降ってきた。
先月に私達6期生が迷惑をかけたため、他の先輩方に距離を置かれてしまい、少しでも先輩方との仲が詰めれるよう私は検証動画の依頼を引き受けた。
が、なかなか検証動画の作成が進まなかった。
頭ではやらないといけないと分かっていても、どうしても動くことができない。
今日じゃなくてもいいや。
明日でいいや。
まだ締切まで時間はある。
そう言い訳をして、結局は締切間近までずるずると引っ張ってしまった。
そしてとうとう詩子先輩から、まだかと催促がなされた。
進捗を聞かれるたびに、「あと少しです」と嘘をついた。
本当はまだ手をつけていない。
最初の一歩すらまだなのだ。
なら早くやれと思うだろう。
でも、なかなか動くことはできない。
「ううっ」
私はシャーペンを右手に握り、椅子に座って、机の上に置かれている白紙のプリントを睨みながら唸っている。
今時の子ならスマホとかを使うだろうが、私は長年の習慣からかプリントを使う。
「……感想」
シャーペンの先でプリントを突っつく。
何を書くべきかは決まっている。
それは検証動画のセリフだ。
私にあてがわれた広告ゲームは『爽快階段スピリッツ』というスマホゲーム。
実はこのゲーム、私は以前にダウンロードしており、プレイ済みだった。
ならば検証動画も簡単かというとそれは逆に難しい。
未プレイとして検証動画を作成しないといけない。
それならその広告ゲームを断ればいいかと思われるけど、そうもいかない。
なぜならすでに一度変更してもらっているからだ。
最初に私があてがわれた広告ゲームは『終末サバイバーZ』であった。私はそれを詩子先輩に頼んで変更してもらった。
そしてその『終末サバイバーZ』の検証は銀羊カロ先輩になった。
そのカロ先輩が諸事情により辞退し、赤羽メメ・オルタが担当になった。
それを聞いた私は何かあったのではないかと勘繰った。詩子先輩はカロ先輩の諸事情と言ってはいたが、はたしてそれは本当なのだろうか。
もしかしたら私が変更を頼んだから──とも考えた。カロ先輩はまだ私達6期生に対して気を許していないのではないか。
だから、詩子先輩にまた変更したいですとは言えない。
これはやるしかない。
しかし、リスナーに初プレイらしく伝えるにはどうすればいいのか。
「すっごーい。簡単だー。暇つぶしにはもってこいだね。ええと……なんだ? 爽快感。……いや、爽快感はないかな?」
プリントに感想のセリフを書く。
安っぽいセリフばかりが並ぶ。その文字化された安っぽいセリフを見て、溜め息をつく。
「もっと驚かないと駄目かな?」
私の独り言に対して答えてくれる言葉ない。
答えは私で考えないといけない。
誰かに相談できれば楽なんだけど。
先輩方は気を許してくれてないし、同期は……なんか気が進まない。
「ふう」
私は溜息をついた。
とりあえず、まずは広告ゲームの動画を見て、感想を言おう。
パソコンで動画をスタートさせ、その動画に合わせて私は感想を述べる。
「へえ、こういうゲームなんだー。片手で操作? 簡単そう? 電車を待ってる時間とかにいいかも。わー。面白そー。やってみたーい」
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