第36話 仕事

 夕食の前に佳奈が部屋に入ってきた。


「え? 仕事? それはコラボとか?」

「一応は。ただ生配信でもオフコラボでもないから」

「ん?」


 ならなんの仕事。また歌わされるのかな。


「たいした内容ではないよ。広告ゲーをやってそれの実況動画を撮って提出するだけ?」

「撮って提出?」


 撮ったのを配信するなら分かるけど、提出とは?


「企画主にね」

「企画主? 誰?」

「4期生の詩子先輩が企画主。ええとね、詳しく説明すると広告ゲーは世間では詐欺ゲーとも言われていて、本当に詐欺ゲーなのかを検証するという企画なの。で、ペーメン数名に広告ゲーをやらせて、企画主が枠を作って、検証動画を確認というもの」

「ええと、実況動画を見て実況的な?」

「まあ、イメージはそんな感じ。お姉ちゃんが担当する広告ゲーは『終末サバイバーZ』だよ。まずはそのゲームの広告動画を見て、その後に本当に広告動画通りなのかを検証するの」

「なるほどね」


 私が担当するという『終末サバイバーZ』はネットやアプリ内の広告でよく見かけるやつだ。


「広告動画と実際のプレイとの差がどれだけかを伝えないいけないからね。そこをちゃんとするように」

「動画を見た感想もちゃんと言えと?」

「うん。それと台本はないからね。台本があると検証がヤラセって思われるから」

「ふうん」

「『リスナーに説明をしている』というのを念頭に置いてね」


  ◯


 夕食後、佳奈の部屋で広告ゲー検証動画作成の仕事を始める。


「今日は4期生詩子さんのめいでネット広告でよく見るスマートフォンゲーム『終末サバイバーZ』をやることになりました。なぜそのゲームをやれと命じられたのかは不明です。うーん? 何か意図があるのか? ま、いっか。さっそくプレイ……の前にまずは広告動画を見て、どんなゲームかを知ろうと思いまーす」


 そして私は佳奈にアイコンタクトを送る。

 佳奈は頷いて広告動画を再生させる。


 動画内で青いキャップをかぶった3頭身の兵士が現れる。


「これが主人公か」


 そして道路を真っ直ぐ進んでいく。

 道路にはゾンビがいて3頭身の兵士が銃で撃ち倒していく。


「おっ! 数字の青と赤のパネルが現れたぞ」


 その青色のパネルには+3、赤色のパネルには−5と記されている。


「これは何の数字? あれ? 銃弾があたると数字が変化するよ」


 青色パネルに当てると数字が増え、赤色のパネルに当てると数字が減り、青くなり+になった。


 動画では兵士がプラス6の青パネルに当たるとと兵士が6人増えた。


「この数字は兵士の数か。+だと増えて、−だと減るってことか」


 増えた兵士と共にゾンビを蹴散らし、進んでいく。

 今度は武器がのった台が2つ現れる。バズーカとライフル。各々の台には数字が記されている。


「これは強力な武器だ」


 兵士達が台を攻撃すると数字が減る。

 0になると台が消えた。

 そして兵士が当たると武器がライフルになった。


「おお! 銃弾の雨だ。バンバンとゾンビを蹴散らしていくよ! すごーい」


 その後、新しい数字のパネルが現れる。今度は+と×だ。


「×2ってことは2倍じゃん。でも、+12の方がよくない? あっ! ×の方は攻撃しても数字は増えない! なら+の方が良いよ。+に行け!」


 動画では+ではなく、×のパネルを選んだ。


「なんで×なんだよ!」


 それでも2倍になった人数でゾンビは難なく倒していく。


 そしてまた武器をのせた台が現れる。

 一つは台に300の数字がある火炎放射器で、もう一つは500の数字が記されているマシンガンの台。


 動画ではマシンガンの台を攻撃している。


「減らせ減らせ、頑張ればいけるぞ! おい! なぜ途中で変えた! 無理だったじゃん! しかも兵士の数が減った!」


 マシンガンの台から火炎放射器の台に的を変えてしまい、結果0にすることが失敗。そして台に兵士がぶつかると、兵士が消えてしまった。


 次に現れたのはダイナマイトの台と攻撃ドローンの台。そしてその2つに挟まれたマッチョのパネル。


 初めは攻撃ドローンの台を攻撃していたが、また的を変えてダイナマイトの台を攻撃し始める。


「またかよ。優柔不断すぎるだろ!」


 そしてさっきと同じ様に失敗。ただ、今回は真ん中のマッチョパネルがあり、兵士達は体が大きくなり、なぜか武器も大きくなっていて、ゾンビ達を簡単に蹴散らしていく。


「デカくなった。おお! どんどん蹴散らしていく! サイコー!」


 そして警告音が鳴り、ラスボスが登場する。

 大型のゾンビで鉄パイプを持っている。


 そのラスボスの頭の上にはHPバーと数字が記されている。

 近づく前に兵士達でラスボスのHPを削っていく。


「いけいけ! 削れー! お前達ならいけるぞ!」


 しかし、あと少しというところでラスボスのHPは削りきれなく、ラスボスの攻撃を受けて、兵士達はやられた。


 画面には赤文字でゲームオーバーが表示される。


「あちゃあ、残念だ。でも、私ならいけたね。ちゃんと考えて選べば楽勝じゃない。この広告ゲーのプレイヤーはさ、うろちょろするからいけないんだよ。これだと決めたものに集中するんだよ。そしたら絶対にクリア出来たよ」


 佳奈は録画をストップさせる。


「はい。オッケー」

「こんなんでいいの?」

「大丈夫じゃない? 一応確認しておこうか」

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