第34話 紹介
月曜日、教養科目「日本近代文化学」の講義前に廊下にて私は皆に美菜を紹介した。
なぜこの講義前なのかというと美菜もこの講義を履修していたからだ。
「この子は美菜。ゲーム関係で知り合ってたの。学科は違うけど同じ学部だったんだよ。びっくりしたよね? ……美菜?」
「あっ! うん!」
美菜が私の言葉に慌ててうんうんと頷く。
どうしたんだろう。どこか驚いているような。
「もしかして皆と知り合いだった?」
学部は同じだから前に皆とどこかで出会ってた?
「初対面だよ」
答えたのは美菜ではなく、豆田だった。
「ね?」
豆田は美菜に問う。圧を感じるのは気のせいだろうか。
「う、うん。初対面です。はじめまして」
美菜は丁寧にお辞儀をする。
緊張しているのかな? 人見知りと言っていたし。
「私、種咲。よろしくね。千鶴とはゲームで知り合ったんだ。どんなゲーム?」
「キッカケはハリカーで。ええと、その後、他のネットゲームでも仲良くなって。それでオフ会で会ったら同じ大学で」
美菜は早口で答える。
やっぱり緊張しているのかな。
「へえ。千鶴もゲームとかするんだ?」
種咲が私に意外という感じで聞く。
「4月頃から初めてね。前に妹がスロッチ持ってたって話さなかった?」
「そうだっけ? てか、オフ会とかするんだ」
「たまたまね、たまたま」
「……ま、いっか。次は桜庭」
種咲は隣の桜庭に話を振る。
「私は前に会ったから自己紹介はいいよね?」
桜庭が美菜に聞く。
「はい」
「もう一人の子は?」
「あの子は工学部だから講義は理系キャンパスで。ここにあまり来ないんです」
そして次に豆田の番であるが、豆田は真っ直ぐ美菜を見ていて、順番に気づいてないようだ。
「豆田」
「……あっ、私の番か。私は豆田夢加。初めまして」
「なんか初めてましてを強調してない?」
「それはね──」
「何もないよ。ね、種咲」
「そうだねー」
アハハッと種咲は明後日の方向を見て笑う。
「どうしたの?」
「別になんでもないから。なんでも」
「そう?」
なんか怪しいな。
「自己紹介はこれでいいんじゃない。とりあえず教室入ろう。講義始まるよ」
桜庭に言われて私達は教室に入る。
◯
講義の後、私達は食堂に行き、交友を深めるため小話をした。
主に種咲が質問して美菜が答えるという形。時折、私もフォローしたり、私達のことも話す。
「フランス文学って、どんな勉強? やっぱフランス文学の小説を読むの?」
「そりゃあ、当然でしょ。それ以外に何を読むのさ?」
桜庭が呆れたように言う。
「でも私達も時には日本文学作品以外も勉強するじゃん」
「まあ、そうね。文芸欄や芸術論の講義だと海外作品も取り上げられるわね」
「それでフランス文学の小説って、どんなのがある?」
種咲が美菜に聞く。
「作品名聞いても分かるの?」
桜庭がどこか小馬鹿にするように言う。
「分からないけどさー」
「なら、やめなさい」
「むー、それじゃあ、桜庭はフランス文学作品知ってるの?」
「マノン・レスコー、ボヴァリー夫人、椿姫、昼顔」
桜庭はさらさらと作品名を告げる。
「合ってる?」
種咲が美菜に聞く。
「あってます。全部恋愛系ですね」
「恋愛。ププー、夢見る少女だねー」
種咲が口に手を当て、ニヤついた笑みを桜庭に向ける。
それに桜庭はイラッとしたのか、言い返す。
「あのね、恋愛といっても子供のようなものではないわよ」
「そうなの?」
種咲はまた美菜に聞く。
「はい。少女漫画のような恋愛ではありませんね」
「分かった?」
桜庭はどこか勝ち誇った笑み種咲に向ける。
「なに大人ぶってんのよ」
「あんたは十五少年とか星の王子さまとか読んでなさい」
「何それ?」
「子供の時に読まなかった?」
「読んでない。千鶴達は?」
「読んだよ。夏休みの宿題で感想文を書かされた。ね?」
と、私は豆田に確認する。
「ええ」
「へえ、そうなんだ。私は坊ちゃんとか読まされた」
◯
「2人はさ、ハリカー以外でどんなゲームをしたの?」
種咲が尋ねる。
「デイ・アフター・パンデミックとかゾンビ・アイランドとか……アンブレラとか」
と、私は答えた。
「ゾンビモノばっかじゃん。ゾンビハンターになりたいの?」
桜庭が呆れたように突っ込む。
「ち、違うよ。というかゾンビモノって、よく分かったね」
「有名じゃん。アンブレラなんて映画化までされてるし」
「あとFOCとかもやるよ」
「Fight out the crownだっけ。アスレチックゲームの」
「そうそう」
意外とゲームの話で盛り上がるのだが、連絡先の交換までなかなか行けなかった。
もうすぐ次の講義の時間が迫ってくる。
さすがにこれは今日一日では無理かなと思われた。
「連絡先教えてよ」
「はい」
なんとあの内向的な豆田から連絡先の交換を話しかけた。
これには私は驚いた。
その後、種咲と桜庭も美菜と連絡交換をしてくれた。
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