第33話 電話

 夜、私は佳奈の部屋にてここ最近の私の周りであったV事情について佳奈に話した。


「な、なによ、それ! ちょっと情報量多すぎ。待って、纏めるから」


 佳奈は左手で額を押さえ、右手の平を私に向ける。


「ええと、まずは根津問題が先月に発生していたと」

「うん。もう終わったけどね」


 根津問題は佳奈は知らなかったようだ。

 さらにそれが6期生絡みだったということも。


「そして4期生銀羊カロと0期生勝浦卍が同級生だったと」

「カロは工学部で学部違い、卍は学部は同じだけど学科が違うの」

「世間は狭いねー」

「そうだね」

「で、今日はその2人とカラオケに行ったと」

「正確にはカロから相談があって大学に行くと卍を紹介されたの」

「なんで言ってくれなかったのよ」

「相談事が何か分からなかったし。巻き込むのもどうかなと思ったから」

「話すだけでもさー」


 半眼で佳奈が見つめてくる。


「ごめんって。でも、卍を紹介されただけだから」

「卍さんって、どんな人?」

「会ったことない?」

「カロ先輩には会ったことあるけど、卍先輩はないや。0期生は皆、訳ありだからね」

「訳あり?」

「うん。オーディションなしの他社からの引き抜きとか、明日空あすそら姉妹のようなのとかね」

「じゃあ卍も?」

「入った経緯は知らないけど、そうらしいよ」


  ◯


 風呂に入った後、リビングでテレビを見ていると0期生勝浦卍こと松任谷美菜からスマホに着信がきた。


 私はリビングを出て、自室に向かいながら、スマホ画面の通話をタップ。


「もしもし?」

『あ、もしもし、私、美菜です』


 美菜がおどおどした口調で返事する。


「どうしたの?」


 ドアを開けて、自室に入る。そしてベッドに座る。


『今日のことなんだけど……ありがとうってお礼を言いたくて』

「そんなこと? 別にいいよ」

『それでね、千鶴の友達のことなんだけど……』

「大丈夫だよ。皆、悪い子ではないし」


 悪い子ではないが、優しい子……というわけでもないけど。


『そ、そう? いきなり紹介されて迷惑とか感じない? 何かキッカケみたいなストーリーとか作っておく?』

「ストーリー? いらない、いらない。普通に私が紹介するから大丈夫だよ。ストーリーって、大袈裟だな」

『ごめん。ちょっと不安になって』

「怖がらないでいいから」

『皆、フレンドリーな方なの?』

「どうだろう? 豆田は警戒心が高いかな?」


 涼子の頼みが紹介だったと知ると豆田は呆れるだろうか。


『豆……田?』

「うん。豆田夢加っていうんだけどね。背が小さくて、ちょっと警戒心が強い子」

『……豆田夢加!』


 驚いた声音が聞こえる。


「うん。……どうした?」

『その子も……Vtuber?』

「違うよ。普通の子」

『本当に?』

「そうだよ」


  ◯


『あっ! そうだ! 涼子のことだけど、多めに見てあげて』


 通話を切ろうとした時、美菜が思い出したように話し始めた。


「どういうこと?」

『あの子ね、星空みはりの大ファンなの。ペーメンに入ったのも星空みはりがいるからなんだよ』

「追っかけて入ったと」

『うん』


 それはすごいな。ファンだけでは飽き足らず、同業者になったのか。その行動力は賞賛に値する。


『だから先月の星空みはりの魂についてのリークが許せなかったの』

「そうなんだ」


 それで6期生について刺々しかったのか。まあ、推しがあれこれと言われるのは愉快ではないもんね。


『まあ、悪いのは元6期生の道端ミャオだから、現6期生メンバーについては今はちょっと警戒しているだけだから、少ししたら元の鞘に戻ると思うよ』

「うん。分かった」

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