第31話 カラオケ

 涼子にラブホ前のカラオケ店に連れられた時は焦った。


 けれど友人の桜庭がバイトをしていて私は安堵した。


「どうしたの?」


 歌い終わった涼子がマイクを私へと差し向ける。


「いえ、友人が働いていたからびっくりして」


 マイクを受け取りつつ私は答える。


 夏からバイトをしていると言っていたけど、まさかこんなところで会うとは思ってもなかった。


「あの子も文学部なんでしょ? 美菜よかったじゃん。友達1人追加だよ」

「涼子! 言い方!」


 美菜は目を細くして涼子を咎める。


「ごめん、ごめん。でも良かったでしょ?」

「まあ、ね」


 美菜は目を逸らして答える。


 桜庭には涼子と美菜を紹介した。


 バイト中ということもあり、会話は少なかった。それでもきちんと紹介できたし、感触は良かったと思う。


 私は流行りのJ-popを歌う。


 そして歌い終わると2人から拍手を受ける。


「おお、上手うまい」

「いえいえ。そんな全然だよ」


 実際、涼子の方が圧倒的に上手。

 可愛い歌声で、まさにアイドルって感じ。


「いや、上手いよ。中性的でカッコいい」

「うんうん。お世辞じゃなくて本当に上手い」

「そ、そう。ありがと」


 私は照れ笑いし、後頭部をかく。


「ねえねえ、今度は桜町メテオの『エトワール』歌ってよ」

「桜町メテオ?」

「知らない? ペーメンだよ」

「そ、そうなんだ!? ごめん、私、Vtuberのことあまり知らなくて」

「あー、この前までパンピーだったもんね。それは仕方ないね。よし! 代わりにペーメンのことを教えようではないか」

「ちょっと、涼子、個人情報は……」


 美菜が止めに入る。


「大丈夫。皆が知ってる範囲のことだから。6期生のようなことはしないよ」


 6期生という単語が出た時、私は緊張した。


「まずは0期生から。ええと、星空みはりは……知ってるよね」

「うん。結構お世話になってる」

「会ったことはある?」

「オフで?」

「うん」

「オフはないよ」

「千鶴でもないのかー」


 涼子は右手人差し指を顎に当てる。


「どうしたの?」

「星空みはりって、直で会ったことある人が少ないんだよねー」

「そうなんだ。意外」

「そうなの。理由は不明なんだけどね。この中で会ったことあるのは……美菜くらいじゃない?」


 涼子が美菜に聞く。


「うん。私は0期生だからね。0期生は皆、顔を合わせしているから」

「あとは1期生と一部の2期生くらいかな?」

「なぜなの?」

「美菜、なぜなの?」


 私の問いを涼子が美菜に渡す。


「んん〜? たまたまじゃない? オフコラボが少ないとか。ライブ演目の問題では?」

「ええー、そうかなー? なーんか、星空みはりを囲ってるように見えるなー」


 涼子が疑惑の目を美菜に向ける。


「囲ってないよ。涼子だって、オフはなくてもコラボはしてるでしょ?」

「コラボはしてるけど顔見たーい。気になるー。千鶴も気になるよね」

「まあ、一応」

「どんな子? 美人? 大人? 子供? もしかしてばみ肉オジさん?」

「ばみ肉オジさん? 何それ?」

「男ってこと。男が変声機を使って女性Vtuberをやってる人のこと」

「そんな人、いるの?」

「「いるよ」」


 2人がハモりって答える。


「結構いるし。それに有名なのが数名いるよね?」

「うんうん」

「へえ、そんな人までいるんだ」


 つまりネカマってことかな。


「で、どうなの? 星空先輩はズバリばみ肉オジさん?」


 涼子が再度美菜に問う。


「それは絶対違うから」


 美菜は手を振って否定する。


「ふうん。なら、どんな子なのよ?」

「普通の子」

「もっと情報カモン」

「ないよ。それにあんた言ったでしょ。6期生のようなことはしないって」


 まただ。また6期生が出た。


「そうだけど」


 涼子はつまらなさそうな顔をする。


「あの、6期生って、そんなに悪いことしたの?」

「そりゃあ、前に言ったとおり、リークしたからね」

「……リーク。でもそれって、辞めた人なんでしょ?」

「まあね。でもそれが原因で根津が面白がって強請ってきたし」


 美菜が続いて、


「それに先月は星空みはりが通う大学情報がリークされたしね」

「え!?」

「でも、それは真っ赤な嘘でね。そこはノーダメージだったらしいよ」

「情報が出たときはびっくりしたよ。あの星空みはりの数少ない情報だからね」

「星空みはりの情報は少ないなら、6期生の……道端ニャオは知らないのでは?」

「そうだよ」

「なら、6期生は何も悪くないのでは?」

「それは違うよ」


 涼子は真面目な顔で言う。


「違う」

「真相は知らないけど、6期生が出鱈目を道端ミャオに言って、それが根津に渡ったということ。それは──」

「それは?」

「6期生はいつでも出鱈目な情報で私達をおとしいれることが出来るってこと」

「いくらなんでもそれは大袈裟な」


 6期生だってまさかこんなことになるとは思わなかったはず。


 もしかしたら中には無理矢理言わされたという線もある。


「勿論、今回のことは道端ミャオがやったことだから、6期生には強いお咎めはなし。でも今回の件でこっちが情報を出せないことを理由に、根津やマスコミ等は好き放題書くことが出来るってことが判明したの」

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