第30話 どこだ!?【豆田夢加】
千鶴達は西口から大学を出た。
「どこへ行くんだろう?」
私は西口から大学を出たことがないので、そちら方面に何があるのか知らない。
西口を出るとすぐに暗い下り坂が続いた。
長い下り坂で、人通りも少なかった。
私はバレないよう一定の距離を保ちつつ、3人後を追う。
千鶴達は坂を下りて右へと曲がった。
私達も続いて坂を下りる。右に折れると道があり、不動産、ケータイショップ、バイク屋、塗装店、畳屋、3階建ての小さいビルが立ち並んでいる。
「ここらへんは……」
「種咲は知ってるの?」
「一応は」
しかし、種咲は続きを言わなかった。
そして前を歩く千鶴達は今度は左へ折れる。
「あら〜」
種咲が変な声を出す。
「どうしたのよ」
「いやあ、左曲がると……」
「曲がると何よ」
「見たら分かるよ」
そして私達も左へ曲がる。
が、そこに千鶴達の姿はなかった。
「あれ!? 見失った!?」
「いや、たぶん入ったんじゃないかな?」
「入ったってどこによ!」
「あそこ」
種咲は看板のあるカラフルな建物を指差す。
「……へ!?」
看板には『【レスト】3500円 【ステイ】8000円』と書かれている。
そのカラフルな建物はラブホだった。
「これは3Pコースか」
「んなわけねえだろ!」
まさか千鶴がそんなとこ入るわけない。
「他の所よ」
どこだ? どこに行った? 本当にラブホではないよね?
「それじゃあ、あれかな?」
種咲は向かいにあるカラオケ店を指差す。
「それよ!」
私達は急いでカラオケ店に入る。
すると受付に千鶴達がいた。
(やばい。バレる?)
しかし、ちょうど受付を済ませたところなのか、千鶴達は廊下を進んで行った。
「ご利用ですか?」
受付の女性店員が尋ねてきた。
「はい」
種咲が返答した。
「何時間でしょうか?」
「さっきの子達と同じで」
(何言ってんの!?)
明らかに怪しい言動でしょうに。店員だって怪し──。
「桜庭?」
女性店員は友人の桜庭だった。
「何やってんの?」
「バイトじゃん。そっちこそ何やってんの?」
「べ、別に」
千鶴達を尾行してたとは言えない。
「私達がいることは千鶴達には秘密ね」
種咲はニヤニヤ笑いながら、桜庭に頼む。
「え? なんで?」
桜庭は意味わかんないと不審がる。
そりゃあ、そうよね。
「お願い」
種咲はウインクして手を合わせる。
「……まあ、いいけど」
「あ、隣の部屋でお願いね」
「はいはい」
そして私達は千鶴達の隣部屋へ移動。
私はソファに座り、壁に耳を立てる。
「聞こえないと思うよ」
種咲が呆れたように言う。
「……そうね」
微かにしか話し声が聞こえない。これは無理だなと私は諦めた。
「とりあえず歌おうか」
◯
桜庭が注文したジュースを持ってやってきた。
「ねえ、隣の情報は何かない?」
種咲が桜庭に聞く。
さすがに何もないだろうと思っていたら、
「松任谷さんって子と親睦を深めるために来たって」
「松任谷さんって?」
「茶髪のショートカットの子。文学部のフランス文学科だってさ。ちなみにもう1人の子は工学部知的財産研究学科の子で島村涼子だって」
「何で詳しいのよ」
私は桜庭に聞いた。
「なんか紹介された。仲良くしてくれって」
「それだけ?」
「それだけよ。てか、2人とも本当に何やってんのよ?」
「豆田が千鶴を心配して
そう言って、桜庭はアイスコーヒーのストローに口をつけて飲み始める。
「ちょっと!」
「なるほどね」
桜庭は腰に手を当て、息を吐く。
「何、納得してるのよ」
「合流する?」
「今はいい」
島村は私の正体を知らないが、松任谷は知っている。
そしてうっかりと千鶴の前で正体をバラされるかもしれない。
「てか、あんた、ここでバイトしてたんだ」
「悪い?」
「悪くないけど……向かいの建物、ラブホじゃん。絶対、うちの学生の行きつけだよね。ここで合コンして、ラブホでしっぽり?」
「あんたの口からシモの話が出るとはね」
「いいでしょ」
私もアイスコーヒーを飲む。
「言っとくけど、お向かいのラブホは潰れてるから」
「そうなの? 結構儲かりそうなのに」
種咲が聞く。
「色々やらかしたらしいからね」
「色々? やっぱ合コンで酔った女の子を……」
「それではないけど、パパ活のね。あと、クラブとドラッグ関連」
「でも、それでホテル側が潰れる?」
確かにホテル側は何も悪くはない。
悪いのは利用客だ。
「詳しくは知らないけど、ホテル経営者が美人局や恐喝とかやってたとか」
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