第25話 連続性トラブル

「そういえば、島村さんは──」

『今は涼子でいいわよ。同学年でさん付けはおかしいでしょ?』

「でも、そちらは4期生ですし──」

『いいの、いいの。Vの時だけ、さん付けでいいから』

「……分かりました」

『で、何?』

「ええと、涼子は6期生に何があったのか知ってますか?」

『どうして?』

「え、あの、なんか時々ギクシャクと言いますか……何か先月にあったことで負い目があるのかなーと感じて」


 さすがにあんたと朝霧さんの間で何かあったのかとは聞けない。


『私が知ってるのは6期生の異性トラブルと……過去の契約違反行為による連続性トラブルかな』


 前者の異性トラブルは知っている。

 音切コロンが元子役の五代昴と付き合ってたというデマだ。


 でも、後者の過去の契約違反行為による連続性トラブルは初耳。


「異性トラブルは知っていますけど、何ですか? その過去の契約違反による連続性トラブルって?」

『6期生のデビュー時の話なんだけど、千鶴は知らないよね。オルタになる前の話だし』


 私がオルタになる前。先月ではなく、そんな前から? でも、それなら佳奈が知っているはず。


『6期生に道端ニャオというVtuberがデビューするはずだったの。けれどさ、その子、契約違反行為しちゃって、デビューが白紙になったの』

「白紙。何かしたんですか?」

『第三者に情報漏洩。つまり、私達の魂についての情報を流しちゃったのよ』


 魂とはVtuberの中身であり、演者である私達本人のこと。

 勿論、それを第三者である他者へ情報を流すことは御法度とされている。


「それは……」

『やってはいけないことだよね?』

「はい」


 Vの魂は決して表沙汰にしてはいけない。


『それをやったのよ。道端ニャオは』


 涼子は呆れたように言う。


「でも、その人だけで他の6期生は関係ないはずでは?」

『勿論。けれど、私、言ったよね。連続性って』

「はい」


 連続性。それはトラブルが終わらずに続いたということ。


『この前、音切コロンの異性と噂があり、その後、6期生が太客へ裏サービスをしてたという噂が流れたの』

「太客?」


 知らない単語だった。


『知らない?』

「すみません」

『太客というのは高額なスパチャを投げるファンよ。猛烈な固定ファンと思って』

「はい」

『で、太客の手綱を握ろうと色々とサービスをするのよ』

「サービス。ええと、それって……」


 ん? 何をするんだ?

 Vtuberがファンに対してリアルで何ができる?


『別垢を作って、やりとりするの。中にはゲームをやったりとか、次の視聴者参加型のゲーム実況で即参加できるようにね。前もってパスワードを教えておくとか』

「それって、贔屓ですよね。駄目なことですよね?」

『そりゃあ、そうよ。当然駄目。でも、会社は黙認してたのよね。ま、その件はいいのよ』

「いいんですか?」


 太客へとサービスは駄目という流れでは?


『勿論、原則は駄目。そしてそれ自体は6期生の問題だし、ペナルティを受けるのも向こう。私達は関係ない。ただ、ここからが問題なのよ』


 そこで涼子は溜め息をつく。


 ここから、それ以上の何かがあったのか。

 私は唾を飲んで待った。


『根津剣郎って名の暴露系配信者を知ってる?』

「はい。知ってます」


 その名前には覚えがある。

 確か、以前に佳奈との間でトラブルがあった人物だ。


『ま、佳奈も被害にあったからね』

「知ってるんですか?」

『知ってるもなにも、ペイベックスVtuberの半数近くが被害にあったも同然だからね』

「そんなに?」

『その根津剣郎がまたしても、ここぞとばかりに暴露をしようとしたのよ』


 涼子は苛立ちげに答える。


「でも、あの件は──」

『そう。のは解決した。でも、道端ニャオがさらに根津へ情報をリークしたのよ』

「どうしてそんなに情報が?」


 道端ニャオは解雇されたのなら、それ以上情報の漏洩はないはず。


『なんでも道端のやつ、小出しに情報をリークしてたのよ。そして6期生のトラブルを機に一気に魂の情報を根津へ送ったのよ』

「それでどうなったんですか?」

『会社の法務部が根津を潰したわ。脅迫や恫喝、名誉毀損、ストーキング、盗撮、迷惑防止条例違反で刑事告訴するぞって言ってね。あいつ結構踏み込み過ぎたのよ。法律を学べっつうの。ちなみにあいつは真実相当性とか知る権利とか言って、齧った程度の法知識で喚いてたらしいわよ』

「知る権利はひどいですね」


 知る権利というものは事件や政治に関することが対象で一般人は無関係。というか、今回はプライバシーの侵害である。


『と、ま、そんなことが裏であったのよ。オルタ、はその頃、明日空ルナの件で忙しかったら知らなかったでしょうけど』

「お恥ずかしい」


 まさか裏でそんな大騒ぎがあったとは知らなかった。


「でも、根津の件はそれで終わったのでしょう? ならなぜ今だにギクシャクがあるのですか?」


 かつての6期生道端ニャオがやらかしたこと。現6期生にはないはず。


『それが……道端ニャオと、2人を除いて6期生がまだ繋がっていたのよ。この前の裏サービスでそれが判明。以降は道端ニャオとの繋がりを途切れさせたけど……どうなのかな?』


 それは今でも繋がっているのではという疑いが6期生にかけられているってことか。


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