第24話 まさかの!?
大学の食堂で豆田と昼食を食べていると、ドタバタと誰かがトレイを持って近づいてきた。
誰だと思い、箸を止め、顔を上げる。
そこには──。
「え!?」
4期生のカロさんがいた。
驚きだった。それは向こうも同じだった。
「ええと……」
「わ、私、島村涼子。そっちは?」
「私は宮下千鶴です」
お互い外ではVの名を語ることできない。が、本名を交えての挨拶はしていなかったのだ。
「涼子ー!」
離れたところにいる女子グループから一人の子が島村さんを呼ぶ。
「うん。今、行く」
と、島村さんは返事をしてから、スマホを取り出す。
「とりま、連絡先交換しよ」
「あ、はい」
私もスマホを出して、連絡先を交換する。
「まさか同じ大学だったとはね」
「びっくりです。というか大学生だったんですね」
「何よ。子供だと思った? ちなみに学年は?」
「2年です」
「同じだ。良かった。ここで貴女が上級生だったらややこしかったわ。学部は?」
「文学部です」
「私は工学部知的財産研究学科よ」
「知的……財産研究学科?」
そんな学科うちの大学にあったけ?
「何よ。文句あるの?」
「いえ。聞いたことない学科だったので」
「理系の学科よ。私達文系が知らなくておかしくないでしょ」
隣の豆田が教えてくれた。
「そっか。すみません理系の学科はあまり知らなくて」
「いいのよ」
そして島村さんは豆田へと顔を向け、
「ねえ、どこかであった?」
「いいえ。初対面だけど」
「……そう……よね」
島村さんはどこか引っかかるものがあるようだ。
「おーい!」
また向こうの女子グループが島村さんへ手招きしている。
「それじゃあ、また」
と、言って島村さんは女子グループのもとへ向かった。
島村さんが去った後、豆田が、「ねえ? さっきの人と知り合い?」と、聞いてきた。
「あ、うん。ゲームでね」
「最近ゲームばっかしてない?」
「そ、そんなことないよ」
「ふうん」
「それより、知的財産研究学科って何?」
「うーん。分かり易く言うなら、商標登録とか特許とかそういうのを勉強するとこ。弁理士とか目指す学科ね」
「弁理士?」
弁護士なら分かるけど弁理士。
聞いたことない単語だ。
「商標登録とかに関する職業」
「ふうん……ん? それって理系?」
「さあ?」
◯
食堂を出てから豆田が話があるとベンチへと私を誘う。
その際、豆田は周囲に人がいないのを確認する。
何? 内緒話?
「何話って? てか、なんで食堂を出た後なの?」
「さっきの知的財産研究学科だけど、あそこは理系の文系って言われているの」
豆田が声を顰めて語る。
「理系の文系?」
何それ? 矛盾してない?
「声でかい! よく考えてみて、学んでいることって社会学部か法学部がやってることでしょ?」
「ああ、そういえば」
商標登録とか特許といえば法学のイメージ。
「それを理系がやってるのよ」
「どうして?」
「うちの大学、グループ化してるでしょ」
「グループ化……ああ! 地域周辺の高校とかと繋がりを持ったとか、そんなやつだっけ?」
詳しくは地域周辺の学生がより快適な生活を送れるように、高校と大学が密になって、交流や情報交換、連携するとかで生まれたグループだっけ。具体的に何をやってるのかは知らないけど。
「そう。それで最近できた学部なの」
「うん」
それの何がおかしいのか。普通のことのように思う。でも、豆田はそうでもないようだ。
「つまり大学が学生を呼びこむために作ったのよ」
豆田は難しい顔をして答える。
「そしてそれは指定校推薦組の集まりって言われているのよ」
「指定校推薦が駄目みたい言い方だけど?」
別に指定校推薦なんて珍しくない。
私がいた高校でもクラスメートの何人かが指定校推薦で色んな大学に入学した。
「噂だとこの大学の知的財産研究学科に入った人はグループ系列の高校から指定校推薦で入った人の集まりなのよ」
「内部生ってこと?」
「イメージとしてはそうね」
「でも、それもおかしいことなのかな? 附属高校の内部生も珍しい話でもないよね?」
「附属高校でなくてグループ校」
そうだった。グループ校だ。附属高校ではないや。
「あれ? グループ校の生徒が集められた?」
さらに豆田は声を顰めて、
「要は普通では大学合格できない子を指定校推薦でねじ込んできたってこと」
「でも、それって大学に不利じゃない? だって、頭の悪い子を入学させるのはおかしいし。出来の良し悪し関係なしだったら、受験なんてものはないよね?」
「だから大学もそういう子を集めた学科を作ったのよ。それが中途半端な知的財産研究学科なの」
「なんか闇深い」
頭の良い子を集めたい。そのために入学テストがある。
でも、数が欲しいから頭の悪い子でも入学させたい。
そういうジレンマがぶつかって出来たのが──。
「そうよ。だから、今言ったことは吹聴しないこと。知的財産研究学科を理系の文系なんて言わないこと。目をつけられたら厄介だからね」
「なんか不良みたいだ」
「事実モラルが低下しているからね」
そして豆田は大きく溜め息をついた。
◯
その日の夕方、島村さんから連絡がきた。
『もしもし』
「こんばんわ」
『今、電話オッケー?』
「大丈夫ですよ」
『いやあ、まさか同じ大学とはびっくりね』
「そうですね。今まで会えずにいたのがびっくりです」
『私は理系だから』
「そうでしたね」
理系のキャンパスは離れたところにある。
『今日はそっちのキャンパスで用事があったのよ』
「用事?」
『短期集中講義の申請のね』
「あれ? それって、夏季休暇中にあるのでは?」
短期集中講義とは3日間、毎日朝から夕方まで5コマ分の講義を受けること。計15コマ。1コマ90分だから合計で1350分。つまり22時間と30分。
半年分をたった3日間頑張れば単位は取れると聞こえはいいが、一日中講義を受けるのは大変。そしてそれを3日連続となると相当きついはず。根気が必要と言われている。
私は受けたことないので正確なことは分からないが、受けた人曰く、「2度と受講したくない。頭がおかしくなりそう」、「一日中、お経を聞くようなものだ」と言う。
『あまりにも単位獲得者が少ないから、学校が設けたのよ』
「難しい講義なんですか?」
『必須専門科目で国際社会2という講義なんだけどね』
「どんな内容なんですか?」
『外国の……商標登録に関することかな?』
なぜ疑問系?
「難しそうですね」
『そうなのよ。私、Vtuberでしょ? 仕事もあるのに3日間、朝から夕方まで勉強って、イカれてるわよ』
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