第22話 配信後
猫泉ヤクモがパソコンの電源を落とす。
そして私に向かい、「お疲れ様でした」と言う。
「はい。お疲れ様です」
私もパソコンの電源を落とす。
「今日は指が疲れましたね」
「そうですね。ずっとライフルを撃ち続けてましたよ」
もう指がしんどい。しばらくはゲームはしたくない気分。
「来週は夢工房というタイトルのゲームですので」
「はい。楽しみにしてます」
「……私は緊張してます」
「どうして?」
「ホラーですから」
そういえばホラーが苦手と言っていた。
「でも、今日のゾンビ・アイランドも一応ホラー系ですよ」
「ゾンビはまだ少しマシなだけで、幽霊系は苦手です」
ということは次のゲームは幽霊系か。
◯
廊下に出るとちょうど他の配信部屋からも2人の女性が出てきたようだ。
「あれ? 千鶴?」
「え? あ! ヒスイさん」
なんと部屋から出てきたのは5期生のヒスイさんだった。
「え? 誰? 知り合い?」
ヒスイさんの隣にいる少し子供っぽい子がヒスイさんに尋ねる。
「うん。オルタだよ」
「え!? あの!?」
女の子は目を見開き驚く。そして私に近寄る。
「どうも。オルタです」
「オルタ、この子は4期生の
そしてヒスイさんは次に私へ女の子を紹介する。
「よろしくお願いします」
「へえ、あんたが」
カロ先輩は私の体に視線を上から下へと動かす。
(な、何?)
「オルタも配信だったの?」
ヒスイさんが私に聞く。
「うん。あ! こちらの方は──」
私がヤクモさんを紹介しようとすると──。
「いや、知ってるから。6期生のツクモでしょ」
「はい」
隣のヤクモさんが「どうも」とか細く挨拶する。
「へえ。6期生と配信ねえ〜」
カロ先輩が何か含むような言い方をする。
「はい。お二人もコラボ配信だったんですか?」
「うん。FOCやってたの。私とカロ先輩だけでなく、マイとトビ先輩もね。2人は別室」
と、ヒスイさんが答える。そしてマイさんとトビ先輩がいるらしい部屋のドアを指す。
「FOCですか。知ってます。難しいですよね」
FOCはFight out the crownというアクションゲーム。様々なアスレチックフィールドで勝ち残り、最後のエリアで王冠を獲るゲーム。
「あんたとみはり先輩のせいで再加熱したのよ」
カロ先輩が少し恨みがましく言う。
「え? 私が?」
「そうよ。そのせいでマネちゃんからうるさいくらい勧められたのよ」
「すみません」
「いいわよ別に」
「あ、あのう……」
ヤクモさんが何かを言おうとするとカロ先輩が目を細める。
「何?」
「あの私は……これで……」
「そうですね。失礼します」
私とヤクモさんはその場を離れた。
◯
ヤクモさんが受付で配信部屋の鍵を返却し、私達はエレベーターホールでボタンを押してエレベーターを待つ。
「なんかすみません」
ふとヤクモさんが謝罪してきた。
「え? 何がです?」
「その……私といるとこを見られて」
「なぜそれでヤクモさん──朝霧さんが謝るんですか?」
「ほら、私達6期生は先月色々とありましたから」
と、朝霧さんは首を縮める。
「色々……ですか?」
「ええ。少し会社に迷惑をかけてしまって」
「会社に迷惑というなら私だって、先月に色々やらかしましたよ」
先月の地震で明日空ルナの車椅子、そしてモーション担当が別人だとバレた。そして炎上。私個人は深く関わってるわけではないが、私は配信中にキレた。
というか私という存在そのものが迷惑から生まれたものではないか。
妹のパソコンを勝手に使って、さらには勝手に配信。
「いいえ」
朝霧さんが首を横に振る。
「宮下さんは善意です。その結果あれやこれやとなっただけ。それにちゃんと修復しました」
「それは……6期生は修復できなかったんですか?」
その答えを聞こうとした時、エレベーターが着いた。
扉が開く。エレベーターの中に社員がいた。
私達はエレベーターへ乗りこむ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます