第21話 ゾンビ・アイランド④

「し、しんどい」


 私達はケルベロスを倒した後、ゲートキーを使い、ゲートを開いて次のエリアに入った。


 それからというもの、数々のギミックをクリアして港町へ辿り着いた。


 ここまで群がるゾンビ達を私はコントローラーのボタンを連打して、ライフルで蹴散らした。

 そのゾンビ達は蹴散らしても蹴散らしても現れる。


(親指がきつい)


「オルタ、あと少しだよ!」

「は、はい」


 私達は群がるゾンビ達を撃ち殺しながら、前へ前へと進む。


 最終目的地に近づくということはラスボス戦も近いということ。

 このゲームももう時期終了。


「おっ、海が見えてきたよ」


 道の奥に辿り着いたツクモさんが言う。


「どこ?」

「ほら、あそこ!」


 私もツクモさんに続いて道の奥へと向かう。


「本当だ」


 道の向こうは下り坂で私達はその坂の上にいた。

 そこから港が一望でき、海が見えた。


 日の出前の青黒い空の下、暗い色の海が見えた。どこか不安にさせる景色だった。


「もう終わりね。長かったわ」

「そうですね。あっ! あそこですね。最終目的地!」


 坂を下りた先はまっすぐ道が続き、最終目的地の桟橋もその延長にあった。


「よし! 坂を駆け下りるよ! 一直線だ!」

「はい」


 最終目的地が見えたせいか、私は一気に駆け下りる。道中、ゾンビが馬鹿みたいに群がり、それをライフルでバラバラにしていく。


  ◯


「もうそこだ! あのボートだよ!」


 桟橋はすぐ目の前。私達が乗り込むであろうボートが一台あった。


 ツクモさんは自身のキャラであるバニーガールを走らせる。


「ツクモ、気を──」

「きゃあぁぁぁ!」


 ツクモさんが絶叫する。


 黒い海が大きく盛り上がる。高さにして3メートル級。そして海水が落ち、中のモノが露わになる。


 それは巨大なタコだった。体のあちこちが溶けたかのようにぐちゃぐちゃ。さらに内側から膨れ上がったのか丸い膨らみがちらほらある。


「何これ?」

「ツクモ、下がって! たぶんラスボスだよ」

「ラスボスがタコ?」

「ただのタコじゃないよ。ゾンビダコだよ」


 ゾンビダコはノロノロとした動きで港に這い上がろうとしている。


「……」

「……」

「ねえ、これ今ならダッシュでボートに乗れるんじゃない?」

「はい。もしかしたらいけるかも」

「よし。行こう!」


 ツクモさんは走る。それに続いて私も走る。


 ちらっと後ろを見るとゾンビダコはゆっくりとした動きで港に這い上がろうとしている。


(ラスボスじゃないの?)


 私は疑問に思いつつもボートに乗る。

 そしてツクモさんがボートを操作して、エンジンを吹かせる。


「行くよ!」

「はい!」


 ボートが発進した。


 これで終わりなのかな? あのゾンビダコはなんだったのかな?


「おかしい」


 ツクモさんが呟いた。


「何がです?」

「ほら、こういうのってさ、エンディングがあるじゃん?」

「そういえば」


 エンディングはなしに、ボートが海を進んで行くだけ。


 私は何かないだろうかと周囲を伺う。


 すると──。


「あっ!」

「どうしたのオルタ?」

「ボートの後ろから何が巨大な影が!」

「ええ!?」


 そしてその影が膨らみ、海面を突き破る。


「タ、タコだ!? さっきのゾンビダコですよ!?」

「追いかけてきたの?」

「そのようです」


 しかも這い上がろうとした時は緩慢だったのに海の中では速い。

 ゾンビダコは触手を伸ばしてきた。


「あわわっ!」


 ツクモさんはハンドルを操作して、ボートへと伸びてくる触手を回避する。


「オルタ、倒して」

「はい」


 私はライフルのトリガーを引き、追ってくるゾンビダコを撃つ。


 何度も。


 ダダダダダッ!


 けれど反応はイマイチ。せいぜいゾンビダコが触手でガードをするくらい。


 HPバーもないし、ダメージを与えているようにも見えない。


 ゾンビダコが口を膨らませて上に向ける。


(あれは!?)


「ツクモ、タコが口から墨を吐くよ」

「ええ!?」


 ゾンビダコが口から大量の墨をホースの水の如く吐き続けた。


「避けて避けて」

「オルタ、なんとかして」


 ツクモさんが上手くボートを操作して、墨を避けるが量が多い。


 私はライフルでゾンビダコの口を狙う。

 するとゾンビダコは墨を吐くのをやめて、ぷるぷる震えた。


「口が弱点か」

「ちなみにアレって口ではなく、肛門らしいよ。本当の口はタコを裏返したところにあるんだよ。あと、イカの墨と違って栄養素がなく、まずいだけだって」

「今はそんな雑学いいから」

「分かった。私はボートを運転して触手と墨を回避するから、オルタはお尻に鉛玉をぶちかまして」


 お尻に鉛玉というワードが引っかかったけど。


「分かった」


  ◯


「お疲れ〜」

「お疲れです。なんとかクリアできましたね」


 私達はなんとかゾンビダコを倒して、エンディングを見た。

 そして今、スタート画面に戻っている。


「あのゾンビダコは結局、どうして陸に上がろうとしたんですかね?」


 ゾンビダコとは陸で戦うことなく、海上での戦いになった。


 それなら初めからゾンビダコは陸に上がる必要はないはず。


「ちょっとコメント見るね」


 ツクモさんがコメントを読み始める。そして、


「あった。リスナー曰く、気づかずに襲われるのを阻止するため、あえてこういう敵もいるよと見せることで強襲を防ぐ傾向だって」

「あー、確かにそうかも。何も知らずにいたら最初に攻撃を受けてやられていたかも」

「ま、クレーム対策ってことかな?」

「ですね」

「えー、それでは配信はここでおしまいとします。お疲れ様でしたー」


 ツクモさんはリスナーに向けての声色で締め始める。


「お疲れ様でーす」

「チャネル登録と高評価よろしくねー」

「よろしくー」

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