第16話 配信後

『今日はありがとうね。楽しかったよ』


 配信後、白楼閣リリィさんからディスコで通話がきた。


「いえいえ、こちらこそ。急なチェンジですみません」


 本当は私ではなく佳奈が担当するはずだった。それを急遽私になっても文句言わずに付き合ってくれた。感謝しかない。


『気にしないで。私も一度オルタとコラボしてみたいと思ってたから』

「そう言っていただけると助かります」

『アハハッ、硬いよ。もっとフランクにいこうよ』

「あ、はい」


 フランクと言っても相手は1期生だから難しい。


『そういえば6期生と公式チャンネルでゲームをしているんでしょ?』

「はい。猫泉ヤクモさんとホラゲーを配信してます」

『そっか……』

「? どうかしました?」


 何か思うとこでもあるのかな?


『ううん。なんでもない。えーと、私もホラゲー好きだよ。次は何をやるの?』

「ゾンビ・アイランドです」

『ああ! あれね。ネタバレになるから詳しくは言えないけど、すごく面白いよ。今度、私ともやろうよ』

「いいですよ」

言質げんちは取ったからね』


  ◯


 通話後、私は自室に戻る。


 配信は佳奈の部屋で行っているため、配信中は佳奈が私の部屋にいて、夏休みの宿題の一つ、読書感想文を書いている。


「終わった?」


 私はベッドに座り、佳奈に聞く。


「終わってない」


 佳奈はシャーペンを握り、400字詰原稿用紙を睨みながら答える。


 私はベッドに寝転がり、スマホをいじる。


「ねえ、読書感想文って何を書けばいいの?」

「『面白かった』でいいんじゃない?」

「一文で終わるじゃん。最低でも原稿用紙3枚分は書かないと駄目なんだよ」

「んー? あのシーンが良かった。あの一文に感銘した。続きが気になって手が止められなかった。あとは登場人物に感情移入した……とかかな?」


 私も読書感想文は苦手だということを思い出した。


「うぅ、むずい」


 佳奈が眉根を寄せて呻き声を出す。


「ごめんよ。良いアドバイスが出来ず」

「そうだ。配信はどうだったの?」


 どうだったのと聞かれてどう返すべきなのか。これまた読書感想文のように難しい。


「普通。先輩達が優しい人で助かった」

「あの2人は優しいからね」


 優しいというのもあるけど面白かったというのもある。


「ねえ? 6期生って何かあったの?」


 私はベッドに座り直して佳奈に聞く。


「どうして?」


 佳奈は原稿用紙から私へと顔を向ける。


「いや、配信後にリリィさんと通話してさ。その時に、なんか言い淀んでいたというか、何か言葉を詰まらせていた感じ……だからさ」

「あー。お姉ちゃんはライブや明日空ルナの件があったから知らないのか……って、私も知ったのはつい最近なんだけどね」


 と言って佳奈は肩をすくめる。


「何かあったの?」

「ライブの前に6期生の音切コロンの男性問題があったの。配信外で男とゲームをしてたってやつ。それで炎上。あと元子役の五代昴が音切コロンの彼氏だって話が飛び交ったの」


 元子役の五代昴。


 どっかで聞いたような。……ああ! 思い出した。昔、ドラマによく出てた子役だ。あとCMとか歌も出してたっけ。


 今は佳奈と同い年くらいだったはず。最近はテレビで見てないけど、何してるんだろう。


「五代昴か。懐かしいね。あんた、CD持ってなかった?」

「持ってるよ」

「その五代昴が音切コロンの彼氏なんだ」

「違うよ。ネットで話題になっただけで結局はデマってこと。その後、に落ち着いたんだけどね」


 そして佳奈は溜め息をついた。


「まだ何かあるの?」

「他の6期生でも色々と判明したの。そこへきてさらに音切コロンが再炎上」

「猫泉ツクモも?」

「ううん。彼女は何もなかったよ。でも、あんなことがあったからね。バレてないだけで、何かあるんじゃないかって疑われてるのよ。今も特定班に狙われているって話」

「なるほどねー。そんなことがあったんだ」


 リリィさんが言い淀んだのはそれか。


「以来、ちょっと腫れ物扱いなのよね」

「ひどくない?」

「仕方ないよ。私達はネットのデマ一つが命取りになりかねないんだから。今は落ち着くのを待つだけだね。一応、お姉ちゃんも猫泉ヤクモと配信する時は身バレしないように気をつけてね」


 そう言って、佳奈はまた原稿用紙に向かい合う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る