第7話 学校七不思議探検隊①
突き当たりを曲がると廊下が伸びていて、壁にはドアがズラり並んでいた。
そのドア全てには番号札が嵌められている。
「ここです」
猫泉ヤクモさんがA-5のドアの前で立ち止まる。そしてキーカードをドアのキーセンサーに近づけるとキーセンサーがピピっと音を鳴らし、ガチャリとドアロックが解錠された。
「こちらです」
「はい」
猫泉ヤクモさんに続いて私も配信部屋に入る。
配信部屋はネットカフェの一室みたいな広さの部屋だった。一つ違う点は防音完備という点だろう。
ヤクモさんは2つのうち1つのゲーミングチェアに座り、パソコンを2つ起動させる。モニターは4つ。左右外側2つは縦型のモニターだった。
(パソコン2つ?)
疑問を感じつつ、私は左隣のゲーミングチェアに座る。
「セットはすでに済ませておりますので」
そして私にゲームコートローラーを渡す。
「スクリーンはそちらの方をお使い下さい」
私の前にあるスクリーンを指す。
「……ええと、これって、2人プレイなんですか?」
「そうですよ」
「てっきり私は隣で見守る役だと思ってました」
「違いますよ。『ワラビアナ』以外は2人プレイです」
「なら、どうして個室なんですか?」
一応、大人3人程は入れる広さだが、各々のパソコンでゲームするなら1人の方が良い気がする。
「え? 1人は怖いですよ。無理ですよ」
ヤクモさんが手を振って言う。
「怖い。なら、どうし……あっ! そうでしたね」
先程ホラゲーは怖いけど伸びが良いから配信をすると言っていた。
「オルタさんは怖くないんですか?」
「ホラゲーはやったことないから分からないですね」
私は苦笑いする。
「でも『アンブレラ』とか『9番出口』とかやってませんでした?」
「え? あれってホラゲーでした?」
「ホラゲーですよ。怖いじゃないですか?」
何を言うんですかみたい感じで言われた。
「まあ確かに『アンブレラ』は内容が暗くてBGMとかもおどろおどろしいし、ゾンビとか出てきて怖いですね」
ただホラゲーというよりゾンビを撃ち倒すアクション系な気がする。
「『9番出口』も怖いでしょ?」
「う〜ん。『9番出口』は謎解き系とびっくり系みたいな感じで、怖くはありませんでしたね」
あれはホラーというより奇妙な感じだった。
「へえー」
ヤクモさんは目を丸くして驚く。
「やっぱオルタさんに協力を頼んで良かったです」
「いやいや、それでもあまりゲームとかしたことないので初心者ですよ」
「そんなことありません。さあ、時間です!」
スマホで時間を確かめると予定時刻まで5分を切っていた。
「配信スタートしたら敬語はなるべく禁止で。フレンドリーにいきましょう」
「敬語なしですか? 先輩なんですよね?」
「でも私は赤羽メメの後輩ですから。ですのでお互い敬語はなしでいきましょう」
「分かりました」
「コメント欄でネタバレされる可能性があるのでコメント欄はなるべく見ないようにしましょう」
「コメント欄用のモニターは端の縦型のモニターですか?」
「はい。それです」
◯
「皆ー! ペイベックスVtuber6期生の猫泉ヤクモと」
「赤羽メメ・オルタでーす」
配信予定時間が来て、私達はゲーム実況を開始した。
「今日はペイベックス公式チェンネルにて赤羽メメ・オルタと『学校七不思議探検隊』をするよー!」
「わー!」
私はコントローラーから手を離して拍手する。この拍手にはやるぞという盛り上げともう一つ、驚きが含まれている。
その驚きは猫泉ヤクモの声だった。前もって猫泉ヤクモの声は知っていたが、実際に生で声を聞いて、その地声とのギャップに私は驚いたのだ。
(すごい。アニメ声ってやつ?)
「オルタはこれがどういうゲームか知ってる?」
「ううん。何も知らない。タイトルから察するに学校の七不思議関連だよね?」
ゲーム画面は夜の学校と赤文字のタイトル。そしてVtuberの私達二人が右下端に映っている。
「その通り。このゲームは夜中に小学校へ侵入して七不思議を見つけるというゲーム。怪異に遭遇したらミッションをクリアしないといけないの」
「なるほど。怪異か。ホラゲーだね」
「うん。ホラゲー。だから、今日はよろしくね」
ヤクモが私に期待の目を向ける。
「そんな期待されても困るな」
「私、ホラゲーは超苦手。だから今日は隣にオルタがいて助かる」
「得意というわけではないから、本当に期待しないでね?」
「いやいや、一緒にいるだけで充分。独りでホラゲーなんて絶対無理だもん。怖すぎ!」
「隣で絶叫しないでね?」
「鼓膜破れたらごめんね」
「いやいや、やめてよね」
鼓膜が破れる方がホラーだ。
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