第6話 マネージャー【福原岬】
宮下千鶴さんと猫泉ヤクモこと朝霧由香さんを見送ったのち、私と仙台さんはもう一度席に着く。
「急ですみません」
席に着くやいないや仙台さんが謝ってきた。
「いえいえ、お互い様ですよ」
「でも、そちらは解決しましたし、肯定的な意見が多いではありませんか。ルナの姉も正式にデビューしましたし」
赤羽メメ・オルタそのものには非は一つもない。あくまでルナ側の問題だった。けどあの事件で関連づけられ、色々あった。
「そちらもあくまで同じ6期生というだけで煙たがられているだけでしょ? 実質無関係なんですし」
これまた猫泉ヤクモ自身にも何一つ非はない出来事だった。
「それでもこちらは男女間に関するものですよ。解決しても、今でも小さく燃えてますし」
そう言って仙台さんは溜め息を吐く。
「大変ね」
「ですので今回の件は本当に助かりましたよ」
「いえいえ」
「それで2人は上手くいきますかね?」
「ん〜? 会わせた感じ、問題はなさそうですけど、配信はやってみないも分かりませんね」
ただ私個人としては問題ないような気がする。
「仙台さんはどこか不安に思うことでもあるんですか?」
「いやあ〜、あの子、その……結構おしゃべりだから。ゲーム実況では問題ないんですけど、普段からよく喋るので……」
言われてみると朝霧さんははっきりと喋る方だと思う。そして宮下さんは口数が少ない方ゆえ、確かにその点は心配である。
「迷惑をかけないか心配ですね」
◯
あの後、仙台さんは外回りがあるとのことで撮影スタジオ2号館で別れた。
私は本社に戻り、Vtuber課の自席に座るとすぐに隣の席の清水が声をかけてきた。彼女は4期生七草アキノのマネージャー。
「あんたのとこのオルタ、公式ペイベックスチャンネルで猫泉ヤクモとコラボ配信だって?」
清水は声を押し殺して聞いてくる。
「そうよ」
私は彼女を見ずに言う。そしてパソコンの電源を点ける。
「よく引き受けたわね」
「何か問題でも?」
「問題というか、明日空ルナの件でも大変だったのに」
「もう解決済みよ」
「なら、なぜまた問題になりそうなことを?」
「問題になる?」
「可能性は大有りでしょ。オルタって、大学生でしょ?」
「大学生が何よ?」
「だから男の影がないと言い切れないじゃない」
「あるとも言い切れないでしょ?」
ここで私は清水に振り向く。清水は少したじろいだが、
「でもリスナーはどう思う? 今月に男女間のことで色々あった6期生とこの時期にコラボとなると邪推の一つや二つは生まれるわよ。ネットなんて結局は事実より自分の考えなんだから」
「猫泉ヤクモは男女間に問題はない。オルタはただの大学生。配信でも男の話はしていない」
そして私はスクリーンに顔を向き直して、
「5期生の提出物をチェックするから」
もう話しかけるなという意味で言ったが、まだ何かあるのか清水はこっちを見ている。というかスクリーンを見てる?
「まだ何?」
「あんたさ、そろそろ担当を絞ったら? 5期生全員はきついでしょ?」
普通なら◯期生全員の担当マネージャーではなく、1人から数名のVtuberのマネージャーを務める。
けれど5期生だけは私だけが全員の担当マネージャーである。
「皆、良い子だから」
「どこがよ。問題児の集まりでしょ!」
「Vtuberは多少は問題のある子よ」
5期生は確かに問題児の集まりといっても過言ではない。けれどVtuberというものはクセがある人ばかりである。
普通の人はまずVtuberなんてしない。というかオーディションで弾かれるだろう。
Vtuberで大切なのは愛される異質だ。
その異質をどう活かすのかがマネージャーの仕事といっていいだろう。
「だから5期生はありすぎだから! やばいから。捌き切れるの?」
「問題ないわ」
私は眼鏡のフレームを整える。
清水は大きく息を吐き、「あっそ」と言って、離れた。
メールを開いて松竹マイの提出物をチェックする。
提出物はコラボ企画や今後ゲーム実況する予定のタイトル、サムネイル、メン限用ASMRの内容と仮音源、歌枠用のセトリ、MIX用の歌声、そして本人が作ったショート動画など様々。
「…………」
そして今回、松竹マイはショート動画をメールに添付してきたが──。
「……駄目だ」
自身の飼っている猫と戯れる動画なのだが、平凡過ぎてクソつまんない。
しかも本人は良いと思ったのか。猫動画を5つも載せてきた。
「マイさん、少しよろしいでしょうか?」
私はスマホを取り出し、本人に連絡した。
『可愛いでしょ?』
私は可愛いからなんだという言葉を飲み込み、
「5つもあるんですけど?」
『えへへー、迷っちゃったー』
「お酒飲んでます?」
『分かりますぅー?』
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