第4話 チャンネル

 夜、部屋でくつろいでいると佳奈がやってきた。


「何? 夏休みの宿題の手伝いはしないよ」

「そうじゃないよ」


 と言い、佳奈は椅子に座る。


「じゃあ、何さ?」

「お姉ちゃん、チャンネルって知ってる?」

「何を今更。知ってるよ。チャンネル登録者数でしょ?」

「そっちじゃなくて公式ペイベックスチャンネル」

「? 何それ?」


 すると佳奈は溜め息を吐いた。


「忘れてるー」


 ん? 忘れてる? 公式ペイベックスチャンネル? なんだ?


「お姉ちゃんが初めに配信事故した時のやつだよ」


 配信事故。


 ああ! あの時のか。


 レポート作成しようとしたけど、パソコンが壊れたので佳奈のパソコンを借りようとしたのだけど、配信モードになっていて私が初めてゲーム実況をしたのだ。


「思い出した。あの時のね。で、公式ペイベックスチャンネルとは?」

「それは思い出せないのね。まあ、いいけど」


 佳奈は一息ついてから、


「ペイベックスのチャンネルがあって、そのチャンネル内で動画配信をするの。主に登録者数が少ないVtuberや公式のお知らせ配信とかに使われているの」

「そうだ。確かあの時間にメメの時間帯があって、予約してたのよね。て、私がその時間で代わりゲーム実況をしちゃったんだよね」

「そういうこと」

「で、それが何?」

「その公式ペイベックスチャンネルなんだけど今度6期生との一緒にやることになったの」

「へえ。6期生か。ということは後輩?」

「うん。猫泉ツクモというVtuberのホラゲー配信なんだけど。9月いっぱいで、週1でやるんだけど」

「それを私がやれと?」


 こくりと佳奈は頷いた。


「別にいいけど。どうして私が?」

「向こうから指名がきたのよ。それ以外は知らない」


 佳奈は肩を竦める。


 ふむ。指名か。前にバズってVtuberをやり始めた時みたいな感じなのかな?


「9月1日の夜19時からだから」

「明後日じゃん」

「うん。急遽決まってね。嫌なら断ることも可能だけど」

「まあ、いいよ。別に」


  ◯


 さて、急遽明後日に猫泉ツクモとの配信が決まったのだが、本人がどういう人か知らないので私は彼女の初配信動画や切り抜き動画を見たりして相手について調べてみた。


 分かったのは髪が緑色の猫耳キャラで、可愛らしい子。先輩に対してはきちんと敬語を使い、先輩からよく弄られている子。


 今思うと私は後輩Vtuberとの絡みは初だった。というか時期的にみて私の方が後輩なのではないか?


 私はさらなる情報収集のため大のVオタである瀬戸さんに連絡してみた。


「猫泉ツクモってVtuberなんだけど、瀬戸さん、知ってる?」

『知ってるけど。どうしたの?』

「えっとね、詳しくは言えないけど急遽コラボ配信する予定なの。で、相手のことについて何か知らないかなと思って」

『えー! ツクモちゃんとコラボ配信なの!? 面白そうね。何のゲーム?』

「それは言えないというか私もまだ知らない」


 ホラゲということしか聞いていないのを私自身も今、気づいた。


「本当に急遽決まってね。それで相手の子について知っておこうと思って瀬戸さんに連絡したの」

『どうして私?』

「瀬戸さん、Vオタでしょ?」

『……否定はしないわ。でも、そっかツクモちゃんとコラボかー。えーとね、ツクモちゃんは可愛いらしい子』

「それは知ってる」

『あとは怖がりでホラゲーが苦手』

「え!?」

『どうしたの?』

「ううん。なんでもない」


 ホラゲが苦手? でも明後日はホラゲー配信だったはず。しかも9月いっぱいは週1でホラゲー配信の予定のはず。


 苦手なのにどうして?


 本当は好きで、設定上苦手と言っているのか。それともその方が美味しいからか。


「あと何かない? その注意事項的なの」

『そういうのはないよ』

「私とコラボしても問題なさそう?」

『ないんじゃない? どうしたの? 宮下さんらしくないよ』

「いや、本当に急遽コラボが決まって、なんかあるのかなと思って」


 コラボとかは相手の都合があるので、前もって連絡がくるもの。それが今回は2日後に。しかも公式ペイベックスチャンネルでだ。少し異常を感じる。


『ただ単に他の人が駄目になって宮下さんにオファーが回ってきただけじゃない?』

「そうなのかな?」

『悪い子ではないから問題ないんじゃない。私から言えるのはそれだけね』

「うん。ありがと」


  ◯


 翌日、明日の猫泉ツクモとゲーム実況するホラゲーが何になったのかを聞きに佳奈の部屋を訪れていた。


 というかこっちも準備しないといけない。最近はDL型が主流で家にいて購入可能とはいえ、当日にダウンロードやインストールで時間がかかってしまい遅刻してしまう恐れがある。


「いらないよ。向こうが用意しているから」

「一つで十分じゅうぶんなの? 私は見てるだけ?」

「そうじゃなくて、オフコラボだし」

「オフ? オフコラボ……ええと、なんだっけ?」


 どこか聞いたことあるが、忘れてしまった。


「オフコラボ配信は実際に会って配信すること。つい最近、合宿で5期生全員でゲーム実況したでしょ。あと、明日空ルナが炎上時に鈴音さんと歌枠したあれをオフコラボと言うの」

「そうなんだ……って、それって猫泉ツクモがうちに来るってこと?」

「来ないよ」

「私が行くの!?」


 まさか顔の知らない相手の家に!


「違う違う。スタジオで一緒にゲーム実況だから。聞いてなかった?」

「聞いてない。公式ペイベックスチャンネルで猫泉ツクモとホラゲ配信しか聞いてない」

「あー、だからかー。すぐに返答するからおかしいなーと思ったんだよ」

「ちゃんと言いなさいよ!」


 オフだけでなくスタジオでの配信というのも初耳だよ。


「ごめん。公式ペイベックスチャンネルの説明で忘れてたよ。改めて言うと明日19時にスタジオの配信ルームで猫泉ツクモとホラゲー配信。ゲームタイトルは『学校七不思議発見隊』だから」

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