第3話 凸

 今日は明日空ソレイユこと駒沢鈴音さんの凸待ち配信に私が凸することになっている。

 5期生のマイさんが退室したところで私は凸した。


「こんばんわー」

『わー。嬉しい。オルタちゃんだー』


 黒髪の清楚なお姉さん風女性が笑顔で私を迎える。声も柔和だからオルタのときより、すごく鈴音さんにハマってる。


「正式デビューおめでとうございます」

『えへへ、まさかルナのオルタではなく、正式Vtuberになりましたー。いやー、お恥ずかしい』

「えー、ガ……似合ってますよ」


 危ない、危ない。

 あやうくガワと言いかけそうになった。


 すでにVtuberはガワと魂で出来ていると周知化されているけど、設定上のためガワと魂については言ってはいけないことになっている。


『これからもよろしくね』

「こちらこそ。それより、初配信が凸待ちで良かったのですか? 普通はデビューお披露目会見と聞きましたけど」

『私は前から出てたからね。デビューって、今更って感じだし』


 明日空ソレイユは以前は妹の明日空ルナの3Dモーション担当をしていた。それが地震によりバレて、その後に謝罪。そして第二のオルタとしてデビュー。


 私と同じオルタで仲間意識があって嬉しかったのだが、以前から用意していたガワがあったため正式Vtuberデビュー。


『それに皆ともきちんと話したかったしね』

「今まではお話とかはしなかったんですか?」

『一応、外ではいくつか話はしたけどね。雑談はまったくないわ』

「結構な人が凸に来てましたね」


 画面の右上に凸に来てくれた人という枠があり、たくさんのアイコンが並んでいる。


『うん。すごく嬉しい。まさかこんなに来てくれるとは思ってなかったからびっくり』


 それだけ鈴音さんのVtuberデビューを皆は受け入れてくれたということだ。


『オルタちゃんはVtuberデビューしないの?』

「私は学生ですから。本業が大切なので」

『学生かー。おや? もう夏休みも終わりじゃない? 夏休みの宿題は大丈夫?』

「大学生は夏休みの宿題はありませんよ」

『そうなの? 一つくらいはなかった?』

「いいえ、ありませんよ」

『へー。私の時は通年制の英語や第二言語はあったよ』

「そうなんですか。第二言語は何取ってました?」

『フランス語』

「あっ! 私もフランス語です。今度教えてください」

『いいけど、もう怪しいよ。ブランクあるし』

「私もまだ少し程度ですから大丈夫ですよ」


 ぶっちゃけフランス語の授業は小学生の英会話授業をフランス語にしたレベル。一年間習って、発音、自己紹介、数、曜日、簡単な挨拶くらい。


「2年から文法が始まったレベルなんですよ。お恥ずかしい」

『そんなことないよ。フランス語って名詞が男性名詞と女性名詞に別れているから定冠詞がややこしいし、発音もリエゾンとかするから慣れないうちは大変だもん。特に数は大変。70、80、90とか』

「分かります。60プラス10で70で、4かける20で80ですもんね」

『フランス語って難しいよね。私、ヨーロッパ=フランスってイメージだったからフランス語を選んじゃってさー』

「それ私もですよ。なんか女性は結構多いですよね、それでフランス語を選ぶ人」

『そうなの? 最近は韓国語が人気って聞くけど』

「あー、確かに韓国語も人気ですよね。K-POPが流行ってますから女性が多いです」

『それで男性も女性を追いかけて韓国語学ぶ人多いんでしょ?』

「そうそう。そうなんですよ」


 と、私が嘆くと、


『なぁあにぃー、やっちまったなー!』


 そこで誰かが割って入ってきたのだ。


「え? 誰」、『ん? みはり先輩?』


 急な来訪で私達は驚いた。


『漢は黙って薩摩言葉! 漢は黙って薩摩言葉!』

「……」、『……先輩?』

『どうしたの2人とも固まって。返しもないの?』

「急にびっくりしましたよ」

『そうですよ。それに返しって?』

『芸じゃん。モノマネじゃん』

「知りませんよ」

『同じく』

『そっかー。ちなみに返しは、〈それ日本語だよー〉だから』


 確かに薩摩言葉は日本語。というか薩摩言葉? 薩摩弁とかでなくて?


『それじゃあ、2人のパンツの色を教えてもらおうか?』

「は?」


 えーと、気のせいかな? この人、パンツの色を聞いてきたけど。


『先輩、それは凸待ち側が聞くんですよ』

『そっかー』

「え? 何それ? 初耳なんですけど」

『オルタちゃんは知らないかー。女性同士の場合はパンツの色を言うというのが鉄板なんだよ』

「みはり先輩、嘘つかないでください」

『オルタちゃん、それがね、事実なんだよ』


 ソレイユさんが残念そうに教えてくれる。


「ええ!?」

『絶対ではないんだけどね』

「よかった」

『でも、この流れだ。さあ、言おう!』


 と、みはり先輩はパンツの話を押し進めようとする。


「そういえば夏休みといえば──」

『オルタちゃん、駄目だよ。話を方向転換させては。ソレイユ、コメントも今、パンツで盛り上がってるでしょ?』

『……まあ、はい、盛り上がってますね』

『ということだよ。さあ、パンツの話をしよう!』

「……じゃあ、みはり先輩からどうぞ」

『ピンク!』


 即答!

 この人、配信中に即答したよ。

 何言ってるの?

 私達、一応アイドルなんでしょ?

 やばくない?


『次、オルタちゃん』

「…………白っ」


 本当はキャラ絵のあるグレー。しかも綿。

 さすがに色気どころか子供っぽいので無難に白と言った。


『聞こえなーい』

「しーろーですよ。白!」

『ホワイト! フランス語でブランク!』

「英語にもフランス語にもするな!」

『次、ソレイユ!』

『えーと……ミント……グリーンです……はい』


 ソレイユさんが本当に恥ずかしそうに言う。


『ううん? なんだってぇ?』

『ミントグリーンです』

『よしっ!』

「何が『よしっ!』だ!?」

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