3章①『後輩』

とあるVtuberの話①

 ここ最近、全国チェーン展開している某寿司店への迷惑動画配信が問題化している。


 配信者として、こういう迷惑動画は本当に極めて不快で、私達も一般の人から偏見を持たれかねないので嫌っている。


 もちろん、Vtuberは基本一室でのゲーム実況であり、外での配信はない。だからこんな迷惑動画を撮ったりはしない。


 だがそれが一般の方々に通用するのかというと……残念ながら通用しなかったりもする。

 一般の方々にとって、Vtuberも所詮は動画配信者と同じように括られる。


 だから迷惑動画は嫌いだ。

 嫌いなんだ。

 でも──。


 全国チェーン展開している某寿司店に対して、学生時代の就活で色々あったせいか、ざまあみろと考えてしまう。


  ◯


 十数年前。──正確な年を言うと年齢がバレてしまうので隠す。


 あれは大学4年の頃。全国チェーン展開している某寿司店から内定を貰い、私は内定者研修会に参加した。


 それは4泊5日の期間で郊外の宿泊施設で行われる。

 研修内容について具体的なことが書かれていないのが不思議だったが、時間割をみると自由時間が多いので結局は親睦会のようなものかと私は考えていた。


 さらに強制ではないが、班わけもされているので、休めば他の人にも迷惑もかけるし、今後の社内でも肩身が狭くなると考え、私は参加することにした。


 けれど、まさかその研修会がところだったとは。


 当日、バスは郊外を進み、次第に窓からは緑の景色が増えた。

 そのまま山頂付近の宿泊施設まで向かうのかと思われていたが、バスは山の中腹で停まる。他にも研修員を乗せたバスが次々と停まった。


 なんだと不思議がるなか、私達は研修指導職員により、全員バスを降ろされた。

 そしてバスは私達と研修指導職員を残して、坂を登った。


 置いてけぼりにされた私達研修員は皆、『ここで何が始まるんだ?』という顔をしていた。


 そして研修指導職員が、「では、一列に並んで」と言う。

 私達はよく分からないけど、指示に従って一列に並ばされた。


「では、ここから施設まで馬跳びで進んでもらう」


 と研修指導職員に言われ、私達はざわついた。


 それもそうだろう。

 なぜ馬跳び? しかもここで?

 施設までまだまだ距離はある。しかも坂道。


 けど研修指導職員は手を叩き、


「はいはい。すでに研修は始まっている。これも研修! さあ、早く!」


 と言い、有無を言わさずに私達は馬跳びをさせられた。


 疲労困憊のまま施設に着くと私達は施設前に小学校時代の全校集会のように体育座りをさせられた。

 そして研修指導職員長が校長先生の如く長い講釈を垂れ、その後に私達は研修指導職員から今日の日程について説明をされた。


 これから荷物を置いて、自由時間のはずだった。けれど自由時間が自己紹介にあてがわれた。


 私達は部屋に荷物を置いたのちに大部屋に移動させられ、男女8名の班で集まり互いに自己紹介をさせられた。


 今度こそ、自由時間かと思ったら、プリントを渡され、20分間、今後の社内での活動と目標、そして社会貢献について書くように促された。

 そして20分後、プリントに書いた内容を班内で発表。


 まさかの発表で私は驚いた。ちょっと夢見がちなことを書いたので発表が恥ずかしかった。

 全ての班が班内での発表を終えると、次は相手の発表したことに対してのディスカッションが行われた。


 いわゆる、ダメ出しだ。


 当然、私は夢見がちだの自己中だの現実を見ろだのと叩かれた。


 それが終わると最後に班内で最も発表が良かったものが選ばれ、それが研修員全員の前で発表することになった。


 私の班から選ばれたのは男性の人だった。名前は亀村。

 線が細く、学に時間を注いだ系。


 研修員全員の前で発表が終わり、拍手で終わるのかと思えば、研修指導職員からネチネチとした重箱の隅を突くような質問攻めが始まった。主に責任という言葉が質問の末尾に多かった。


 私の班から代表として発表した亀村は研修指導職員の質問にしどろもどろだった。それに研修指導職員は次第に苛立ち、強い叱責や非難を彼に浴びせる。

 聞いている私でさえも縮むほどのものだった。


 遅めの昼食をとった後、私達はまた施設前に移動させられた。


 男女に別けられ、男性は20キロ、女性は5キロの米が入ったリュックを担がされて駐車場を含めた施設周囲5周。広い施設なため1周でざっと500メートルはある。


 まずは女性からスタート。

 私は中団組で遅くもなければ速くもなく。普通に走り切った。


 その後、男性陣が走り始める。

 男性陣は大きな差があり、速い人は難なく終わらせ、遅い人はとことん遅かった。


 その後続集団に班内の人──亀村がいた。

 そして亀村は5周も走れ切れずにドロップアウト。


 ランニングの後は自由時間だが、皆、疲れて遊ぶ気力なんてなかった。

 ただ、その時にある噂を聞いた。


 この研修で指導職員に目をつけられた奴はに閉じ込められて白紙のプリントを渡される。そしてそこに指導職員が喋ったことを一言一句同じように書かされると。


 そうして出来上がるのが内定を自主辞退をするむねの文章だとか。

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