第48話 地震

 揺れが収まり、私はテーブル下からおずおずと周囲の様子を伺う。


「お、終わった?」


 よくこういう時、余震がどうたらと聞くけど、その余震はなさそうだし、私はテーブルの下から出た。


 ポーチからスマホを取り出して、電源を入れる。しばらくすると緊急地震速報が通知された。震源地は神奈川で震度は6弱。ここは震度4だった。


(震度4!? 結構強かったよ?)


 外に出るかと悩んだが、むやみに外に出てはいけないというのも聞いたことがある。


(でも、このスタジオはボロいってスタッフさんも言ってたしな……)


 部屋を見渡すとテーブルの上に置いてたものは床に散乱しているし、スクリーンは床に落ちて割れている。

 

 倒壊する前に出た方が良いのかな? 


(う〜ん?)


 悩んだ末、私は控室を出ることにした。


(というかスタッフに聞きに行けばいいじゃん)


 ドアを開けて廊下に出る。そしておそるおそる足を動かそうとした時、レコーディングルームから助け声が聞こえた。


 窓から中を伺うと天井の一部が落ちて、下敷きになっているルナさんを見つけた。


「ルナさん!」


 私は部屋に入ろうとドアノブを掴むも、ドアが少しひしゃげたのか上手く開けれなかった。

 私は力を込めてドアをこじ開けて、中に入る。


「ルナさん、大丈夫ですか?」


 私はタイルのような天井の一部をどかして、ルナさんを救出する。


「怪我はありますか?」

「ないわ」

「車椅子はもう駄目ですので。私の背中に」


 ルナさんの車椅子は崩れ落ちた天井のせいでタイヤが大きくひしゃげていた。


「ごめん」

「いいですから」


 私が背を見せるようにしゃがむと、細い腕が私の首に巻きつき、体重が乗しかかる。


「それじゃあ、立ち上がります」

「ええ」


 私はルナさんの裏腿を掴み、ゆっくりと立ち上がる。

 レコーディングルームを出て、廊下に。


「外に出ますね」

「待って。隣のコントロール・ルームの方も確認して」

「はい」


 コントロール・ルームとレコーディングルームの壁には窓があり、お互いの部屋が伺えるようになっている。


 ルナさんが天井の下敷きになってるとき、スタッフは何をしていたのか?


 いや、私がレコーディングルームにいた時、コントロール・ルームは真っ暗だったような。


 私はコントロール・ルームのドアを開けた。


「あれ? やっぱり暗い?」


 電灯がいていなかった。私は電灯点けようとスイッチを押すも点かなかった。


(違う!)


 目が慣れてきて部屋の惨状に気付いた。

 天井は一部どころか半分ほど落ちていて、棚は倒れ、テーブルの上に置いてあったであろう物は床に散らばっている。


「ルナさん、ちょっと下ろしますね」

「私のことは気にしないで」


 私は廊下にルナさんを置いて、コントロール・ルームへと入る。


「スタッフさーん、います?」


 声を張って呼びかける。


 すると、


「う、ううっ」


 呻き声が崩れ落ちた天井の下から聞こえた。


 私はしゃがみ、落ちた天井と床の隙間に向けて声をかける。


「スタッフさーん、大丈夫ですか?」

「ううっ、お、オルタさん?」

「良かった。いや、良くないか。今から助けますんで」

「ま、待って。人を呼んで」

「で、でも」

「この天井は貴女ではどうにもできないし、それに……足が痛い。たぶん折れたかも。だから人を」


 成人女性をおんぶにだっこはさすがに無理だ。


「分かりました。人を呼びます」

「それと明日空ルナを」

「ルナさんは大丈夫です。今は廊下にいます」

「そうですか。ルナさんをお願いします」

「はい」


 私はコントロール・ルームを出て廊下に。


「スタッフは?」

「天井の下敷きに。それと足を怪我したらしくて」

「なら救急車を呼びましょう。スマホ持ってる?」

「はい」


 私はスマホを取り出して119に連絡。


 そして私達は非常階段へと向かうとしたその時、別室からスタッフ達が出てきた。


 その内の男性スタッフが、


「君達、無事……怪我をしているのか?」

「違う。車椅子が壊れたの。怪我は……打身程度よ」

「コントロール・ルームにいたスタッフは?」

「現在天井の下敷きに。私がスマホで救急車を呼びました」


 と、私は答えた。


「消防じゃなくて?」

「え? あ、すみません。こういう時って消防なんですか?」

「いや、すまん。俺も分からん。とにかく助けに……」

「待ちなさいよ! 救急呼んだんでしょ? なら、私達は避難すべきよ」


 女性スタッフが口を挟む。


「でも、今も……」

「ミイラ取りがミイラになるわよ」

「……分かった」


 そして男性スタッフは私を──私が背負っているルナさんを見て、


「俺が担ごう」

「大丈夫ですよ」

「いやいや、それで階段を下りれるのか? それに俺の方が体力ある」

「オルタ、そうしましょう」


 ルナさんがそう言うので私は男性スタッフにルナさんを預ける。


「さあ、こっちよ」


 女性スタッフを先頭に私達は非常階段へ向かった。


  ◯


 非常階段を下りきったと同時に消防と救急隊員がビルにやってきた。


 そして男性スタッフはルナさんを救急隊に渡して、消防隊員にコントロール・ルームで天井の下敷きになってるスタッフのことを教えた。


 その後、私達は近くの避難所に移動した。

 てっきり大勢の人が避難していると思いきや、避難者はかなり少数であった。


「人、少ない」


 私は独りごちた。


「大きい地震だったけど被害は少なかったらしいわね」


 女性スタッフが答える。


「うちはビルがボロかったからね」

「ライブはどうなったんでしょうか?」

「ライブ会場は震源から程遠いから特に問題ないらしいわ」

「そうですか」


 私は安堵の息を吐いた。


「あ、ここでは一般の方もいるから、芸名を使っては駄目だからね」

「了解です」

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