第47話 ライブ……そして!

 全部とはいかないがダンスの一部を覚えていた。

 そのため私はスクリーン内のメメの踊りを見て、タイミングを合わせて歌った。


 歌い出しは問題なかった……が、やはり緊張しているのか、歌声が上擦ってしまった。もし音程マシーンがあったらやばいことになってただろう。


 途中でなんとか持ち前の歌声に戻すことに成功。


 そこからは問題はなかった。

 なかったが……。


  ◯


「お疲れ」


 控室に戻ると夏希さんに労いの言葉をかけられた。


「ありがとうございます」


 そう返して、私は席に着く。


「どうしたの? 元気ないわね?」

「……私、どうでしたか?」

「あんたはどう思ってんのよ」


 自分の歌に点数をつけるなら、それは──、


「ろっ……ご、50点……くらいですかね?」

「60点って言おうとしたよね」

「ま、まあ」

「実際それくらいよね」


 夏希さんは肩をすくめ、両手のひらを上に向ける。


「ううっ、やっぱり駄目だったんですか」

「私や耳の肥えた人なら60点だけど、観客は上手く誤魔化せたんじゃない?」

「え?」

「サビの部分で本調子を出したのが正解だったわね。それが演出の一つのように見えたんじゃない?」

「本当ですか?」

「ほら」


 夏希さんは自身が持つスマホ画面を私に向ける。

 それを私は腰を少し浮かし、身を伸ばして画面を見ると、画面にはSNSのコメントが表示されていて──。


『オルタ、すごかった!』

『まじやべえぞ!』

『ペイベックスはとんでもねえ、兵器を隠し持ってたのかよ!』

『サビがやべよ! 鳥肌もんだよ!』

『初めはオルタが緊張してて、聴いてるこっちも緊張したけど、すごかった』

『こいつは伸び代あるな』

『……誰かメメのダンスも褒めたれや』


「ふわっ、こ、好意的で、良かったです〜」


 私は力が抜け、浮いた腰を下ろす。


 それと同時に肩に乗ってた不安の塊も落ちたようだ。


「あれ? でも、どうしてリアタイでコメントが?」


 会場でMC中にスマホいじってるとか?

 いやいや、まさかそんなはずは……ないはずと思うけど。


「会場に来れなかった人でしょ?」

「え? なんで会場に来れない人が観れるんですか?」

「そりゃあ、リモート・チケット購入で家の中からパソコンでライブを観てるんでしょ?」


 何を当然のことを聞いてるのという顔をする夏希さん。


「リモート・チケット? なんですかそれ?」

「家からライブを観るチケットよ。元はコロナ禍で入場制限があったために、ファン救済用として生まれたのよ」

「でも、それって家で観る方が得なのでは?」


 どうせ会場でも大型スクリーンに映し出されたVtuberなんだし。わざわざ外まで出向いて観に来る必要はある?


「家だと会場限定グッズは買えなし、入場特典も貰えない。あとMCも観れないわよ」

「つまり歌のみと」

「そういうこと。それにライブ後ってファン同士のコミュニティとかあるから会場チケットの方が圧倒的人気あるのよね」

「へえ」


 ファン同士のコミュニティか。瀬戸さんも入ってるのかな?


「本当に知らなかったの?」

「すみません」

「まあ、いいわ」


  ◯


 その後、2期生、6期生の順でライブは無事進行し、6期生がMCを始めたところで女性スタッフが控室に入ってきた。


「明日空ルナさん、準備お願いしまーす」

「はい」


 夏希さんはペットボトルのミネラルウォーターを一口飲み、キャップを閉める。そして喉を鳴らし、軽く発声。


「それじゃあ、行ってくるわ」


 地声ではない明日空ルナの声で夏希さんは告げる。


「頑張ってください」

「先輩の歌、ちゃんと聴いておくようにね」

「はい。ルナ先輩の歌、楽しみにしてます」


 女性スタッフに車椅子を押され、明日空ルナは控室を出る。


  ◯


 今は6期生が終わり、4期生が演目中。

 明日空ルナさんの番はその4期生の後。


 歌は夏希さん、ダンスは鈴音さん。

 くしくも今の私と佳奈みたいである。

 そのせいか自分のことように心配してしまう。


 でも、2人はそれを何年も前からやっていて、私達とは年季が違う。


(心配なんて、おこがましいな)


 そして0期生の番がきた。

 まずは明日空ルナさんのソロから始まった。


 明るく軽快なポップソング。


 その後は同期メンバーとのデュエット曲。その曲はバラード系で大人らしい曲だった。


 明るい歌声から大人らしい歌声なんて、ルナさんはすごいな。


 それにまったくミスがない。心配することなんて何一つなかった。


(さすがは大先輩)


 それから同期メンバーのソロ曲やデュエット曲が流れる。


 そして最後──ライブ大トリ、0期生ユニットの曲が始まった。


 大トリの曲は明るさの中にどこかノスタルジーのある曲。


 観客もサイリウムを曲に合わせて左右にゆったりと振る。


 最後のフレーズを星空みはりが歌い、メロディが終わる。


 会場は暗転して、静かさに覆われる。


「……すごい」


 私はぽつりと感想をこぼした。


 本当に素晴らしかった。最後のフレーズなんてものすごく締めとして最高だと思う。すっと入ってきて、メロディの終わりと共に本当に自分の中の何かが消えた気分だ。


 私は拍手をして最後を見送る。


(終わった。長かったな)


 観客からすると1日のライブだけど、私達にはテストや練習、リハーサルと長かった。その長いペイベックスVtuberライブがようやく終わったのだ。


 ……………………あ! 違った。


 まだMCがあったんだ。それとアンコールも。


 なんか0期生の歌を聴くとなんか感無量な気分になって一日が終わった感がして、すっかり忘れてた。


 てへぺろ。


 照明が点灯し、ステージが照らされる。


 そしてステージ上の巨大スクリーンがく。


『いやあ、お疲れ様でした』


 スクリーンから司会進行役のリリィが現れ、0期生達に言葉をかける。


『はい。お疲れ様です。皆は楽しんでくれたかな?』


 星空みはりが観客に向かって聞く。


 それに観客から『楽しめた!』という言葉が返ってくる。


 そしてリリィさんが0期生ひとりひとりにコメントを聞く。


 ──ガッ、……ガガッ、……ガ、ガガガガガ


(え? 何? ノイズ? ……違う!)


 ──ガタガタガガガラガガラッ


「えっ!? ええっ!? じ、地震!?」


 椅子やテーブル……いや、建物全体が大きく揺れ始める。天井からはつぶてが落ち、私は急いでテーブルの下に隠れる。


「わっ、わわわ!」


 その時、壁にかけられていたスクリーンが落ちた。


「きゃあぁぁぁ!」

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