第46話 ライブ・スタート

 控室に女性スタッフが入室し、スクリーンを操作するとライブ会場の様がスクリーンに映し出された。


「あれ? 昨日はいてませんでしたよね?」

「すみません。昨日は設備不良で点かなかったんですよ」


 別に非難しているわけではなかったのだが、女性スタッフが丁重に謝る。


「そうなんですか」

「元々少し調子が悪かったんですけど、この前の地震でトドメを刺されたようです」


 と言って女性スタッフは肩をすくめる。


「ここもだいぶ古いからね」


 と夏希さんが呟く。


「築30年かしら?」

「それくらい……ですかね。昭和末期頃に建てられたと聞きましたね」

「へえ。そんな前からあったんですか」


 ペイベックスは90年代から音楽業界を席巻したというから、それくらいなのかな?


「古いのよね。だから、最近はあちこちにボロが出てるのよ。ね?」


 夏希さんが女性スタッフに同意として尋ねる。


「ええ。修繕か改築しないと駄目ですね」

「いっそのこと取り壊して一から建てれば?」


 その問いに女性スタッフは苦笑いした。


  ◯


 12:30になりライブが始まった。


 まずはカウントダウンから始まり、ゼロになるとすぐに星空みはりの歌から始まった。


 観客の雄叫びやコールがすごかった。

 さすがペーメン人気No. 1なだけはある。


 そして歌が終わると白狼閣リリィと紅焔アメージャによるペイベックスVtuberライブ紹介が始まる。


「ハリカー大会に続いて、この2人が司会進行なんですね」

「ああ、この2人は司会進行役が多いのよ」


 2人によるライブ紹介の後、1期生のライブがスタートした。


 まずはオリジナルのロックからスタートした。

 ダンスも歌もカッコいい。

 聴いている私自身もついリズムに乗って体を少し揺らす。


(すごいな)


 ロックの後はポップなアイドル曲、そしてバラードへと進む。

 ライブはリハーサルとは違い、さくさくと進んでいく。


 そして1期生が歌い終わり、MCに入ったところで、


「オルタさん、入ってくださーい」


 控室に入ってきた女性スタッフに言われ、私は席を立つ。

 私は1期生、3期生、そして5期生と続いた後でとなっている。


「では行ってきます」

「頑張ってらっしゃい」


  ◯


 レコーディングルームに入るとライブは現在3期生が歌っている最中だった。


『喉の調子はどうですか?』


 私が何もせずスクリーンを見ていたので、スタッフから問われた。


 私は声を出して、喉の調子を確認する。


「大丈夫です」

『はい。わかりました。出番までお待ち下さい』

「はい」


 そして私はスクリーンを見上げる。今は3期生がロックを歌っていた。

 心臓はバクンバクンと鳴るが、それはリズムではなく緊張によるもの。


 胸に手を当てるも、心臓は落ち着いてくれない。

 そして歌が終わり、3期生のMCが始まる。


 普段なら面白おかしく聞いていたのだけど、今日だけは内容が頭に入らず、彼女達の言葉が頭から抜けていく。


(やばい。緊張している)


 深呼吸。そして胸を叩いた。


 3期生のMCが終わり、彼女達が舞台袖にはけていく。そして曲が流れ、5期生が歌いながら現れる。


(出番はすぐだ。大丈夫!)


 5期生が歌い終わり、MCが始まる。


『そろそろ始まります。よろしいですか?』


 スタッフから問われ、


「だ、大丈夫です」

『緊張してます』


 私はいいえと言おうとしたけど、「少しだけ、です」と本音を漏らした。


『最初ですからね。まあ、人前で歌うわけではないので、もう少し肩を楽にしていいですよ』

「は、はい」


 そう言われて私は本当に肩を下げてみる。


『姿勢よく歌ってくださーい』

「す、すみません」


 謝るとスタッフに笑われた。


『そろそろ始まりますね』


 スクリーンでは、


『実は皆さんに紹介したい人がいまーす』


 とリーダーのヒスイさんが観客に向けて言う。


 観客は大きな歓声を上げる。


『それはこの子だ!』


 そして現場と繋がり、


「あ、赤羽メメ・オルタです。よろしくお願いします」

『おいおい、めっちゃ硬いぞ!』


 マイさんにすぐに突っ込まれた。


『緊張せず。楽に歌いな』

「はい」


 そこで司会進行役のリリィが、


『えー、歌うのはオルタちゃんですけど、ダンスはメメちゃんです』

「すみません。ダンスが下手で」

『気にしないで。ライブ出演は急だったもんね』

「はい。でも、歌はめちゃくちゃ頑張りましたので、よろしくお願いします」

『聞いたところによるとテストまでしたんだよね?』

「そうなんですよ。一度は駄目だったんですけど再テストでなんとか合格しました」

『おお! ということは本当に歌はバッチリなんだね?』


 アメージャが尋ねる。


「はい」

『……』

「……」

『ええと、曲名は何かな?』


 忘れてた!

 ここで私が発表するんだった。


「え、えっと、五浦宇宙さんの曲でスーパーカーです」


 ううっ。

 だ、だって、リハーサルではMCの内容もなく、すぐに歌に入ってたんだもん。


『ほー、カバー曲なんだ』

「はい。オリジナル曲はないので」

『では歌ってもらいましょう。赤羽メメ・オルタでスーパーカー!』


 そして曲が流れ、私はその曲に歌声を乗せる。


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