第43話 リハーサル①

 ペイベックスVtuberライブ前日の今日はリハーサルの日で、私と駒沢夏希さんはレコーディングルームの廊下を挟んで隣にある控室にいた。


 レコーディングルームは前にライブ出演のテストをした場所とは違い、別のレコーディングルーム。


 そして今、控室にて私と夏希さんは女性スタッフからリハーサルの説明を受けていた。


「えー、明日空あすそらルナさんと赤羽メメ・オルタさんは隣の部屋で歌っていただきます。ライブスケジュールはこちらの方になっております」


 私と夏希さんはプリントを手渡される。


 そこにはペイベックスVtuberライブのスケジュール予定が書かれている。


 どうして私と夏希さんだけがここにと思うが、それはきっと《歌だけ》だからなのだろう。


 私はプリントに目を倒す。

 ええと赤羽メメ・オルタは……あった!

 出番は……ここか。


 全体でいえば前の方。そして5期生の後となっている。


「では、リハーサルが始まる際はお呼びいたしますのでこちらでお待ちください」


 そう言って女性スタッフは控室を出て行った。


「…………」


 夏希さんと2人っきりになった。


 私は人見知りなゆえ、どう話しかければよいのか分からない。


 テーブルにはケータリングのお菓子がある。まず食べてみようかな。

 そしておいしかったら、それをネタに話しが弾むかな?


 私がクッキーに手を伸ばそうとした時、


「クッキーはパサつくからやめておきなさい」

「あ、はい」

「というか、どうしてスタッフはクッキーなんて置くのかしら」


 私は手を引っ込める。


 代わりにペットボトルのミネラルウォーターに手を伸ばす。


 キャップを開けて、一口飲む。


「え、えと、5期生なのに前の方にやるんですね。てっきり0期生から順番にやるのかと思ってましたよ」

「1番人気の星空みはりが先で後輩がトリはおかしいでしょ?」

「あっ!? そうでしたね。ハハハ」


 考えてみればそうだろう。


 かと言って不人気を最初にするのもおかしいのでまずは1期生が最初にということなのだろう。


「実は私、元は2期生にあてがわれる予定だったの」


 夏希さんが話しかけてきた。


「でも、事故のせいでこうなってね」


 そう言って夏希さんは動けなくなった太ももをポンポンと叩く。


「このまま終わりかなと思ったら、なんか実験でしょうね。姉がダンス等の動作担当で私が声役。2人で1人の明日空ルナが0期生組として誕生したの」

「そうなんですか」


 駒沢姉妹については、だいたいの話は聞いていたんだけどここは初めて聞いたていでいることにした。


「でもどうして0期生に? 2期生ではないんですか?」

「私、車椅子だもん。オフも難しいし、姉と二人三脚なんだよ。だから0期生なの」

「どうしてだからなんですか?」

「0期生って何か知らないの?」

「ええと、最初のペーメン?」

 あれ? それだと明日空ルナは入らないはず。

「それもだけど、0期生というのはオーディションや新ユニット企画などと関係なく、個人としてメンバー入りした人なの」

「へえ。じゃあ、他の人も個人で?」

「ええ。星空みはりは言うまでもなく。他も個人でやってた人がペイベックスからオファーを受けたりとかで入ったからね」

「なるほど。ちなみに夏希さんは星空みはりさんと会ったことあります?」

「ない」


 夏希さんはきっぱりと言った。


「ないんですか?」

「私はこんなんだから。他の人と会うことは少ないの」

「すみません」

「謝らなくて結構よ。それと星空みはりはなかなか顔を見せないことでも有名」

「それは意外です。コラボとかよくするんですけど気さくな人って感じでしたよ」

「そこ不思議なのよね」


 と夏希さんが私を指差す。


「?」

「星空みはりって、あまりコラボしないのよ。それと短期間で同じペーメンと2度以上コラボするというのも珍しいことなの」

「そうなんですか?」

「あなたが星空みはりと仲良いのも、どこか0期生みたいなものを向こうが感じ取っているからかしら?」

「0期生? 私が? 私はバイトみたいなものですよ」

「でも今や皆からきちんと認知されているじゃない。立派なペーメンよ」

「そ、そうですか」


 なんか照れるな。


「でもVtuberとしての基礎はなってないわね。きちんと勉強しなさい」


 持ち上げられたら急に落とされたよ。


「すみません。ついこの前までパンピーだったもので」

「初ライブってことはリハーサルも初めてなんでしょ?」

「はい」

「緊張してる?」

「多少は」

「多少か。貴女、意外と図太いわね」


 失礼な。


「大勢の前だと緊張はしますけど、少人数だと緊張はあまりないですね」


 というかテスト時とあまり変わらないはず。

 ただマイクに向かって歌うだけ。


「ま、そうよね」

「夏希さんも初めての時は緊張を?」

「緊張は常にするものよ……と誰かが言ってたわ」

「誰ですか?」

「忘れた。どっかの著名人じゃない?」


 夏希さんは手の平を上に向ける。


「ただ緊張はしてなくてもリハーサルはちゃんとしなさい」

「どういう意味ですか?」

「ちゃんと歌うってことよ」

「それは分かります」

「違和感がないようにね。自分が満足と思えばいいの」

「それは自分が納得出来るようにと?」

「ええ。納得出来なければスタッフにガンガン言いなさい」

「分かりました」



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