2章③『ライブ』

間話 モデル【黒狼ミカゲ】

 モデルの仕事といっても色々ある。


 ◯◯コレクション、ファッション、読モ、グラビア、広告・宣伝、ボディパーツ、チラシ系。


 私はこの中でチラシ系のモデルだった。


 チラシ系とは文字通り衣料品チェーンストアのチラシとかで見られる、商品(衣服類)を着たモデルのこと。


 一部の人間には美人でもなければブスでもない、どこにでもいるような顔とスタイル、そして商品(衣服類)を着ることで、マシに見えるモデルなんて揶揄される。


 それでもどんなことを言われても私はプライドを持って仕事をしていた。

 そしていつかはファッションモデルに──なんて思っていた。


 だけど、この業界でプライドというものは常に粉々に打ち崩されるもの。


 新しいモデルが生まれ、つい最近までもてはやされていたモデルが使い捨てられる。


 そして座席が

 落とされた者が、別の座席に。その座席に座ってた者はさらに別の。


 最下層にいた私にもとうとうずらされて、仕事が激減した。

 下がることはあっても、上がることはのがこの業界。


 上がるためにはなりふり構ってはいられない。

 捨てなければいけないものがある。

 それは人として大切なもの。


 けれど私は捨てなかった。捨てたところで、得られるものは少ないと感じたから。


 もうここいらが潮時かなと私は腹を決めていた。


 そんな時だ。

 福原さんからVtuber課に来ないかと誘われた。


 当時の私はVtuberという単語知らなかった。

 アニメやゲームに疎かったし、オタクの人とは距離を取っていた。


 だから説明を受けて、私は一度断った。

 私なんかよりも、もっと適任者がいるはずだと。


 その後、私にパーティーのお誘いがあった。それはホテルのナイトラウンジを貸し切って、グラビアやモデルは参加するだけで一万円配られるパーティー。


 主催者は配給や広告代理店などのお偉いさん。そして参加者もIT系、高級ブティック店の社長や弁護士に医者。


 まあ、こういうパーティーだからがあるかというのは詳しくは言わない。


 パーティーで私にもそういう誘いがあったが、私は拒否した。その時、少しトラブった。何人かの人にも知れ渡るくらいの。


 それからというもの私はそういうパーティーは敬遠していたが、ちょうど金が必要な時期であったため私は久々に参加した。


 主催者は前に私がトラブルを起こした時の人。


 まさかその人が主催するパーティーとは驚きだった。

 あれからというもの、その人のパーティーにはお声はかからなかった。


(ま、いっか)


 私は特に考えなく、参加することにした。


 それがいけなかった。


 なんとそのパーティーで事件が発生したのだ。


 事件といっても殺人とかそういうのではないから。

 その事件は私を貶すというもの。


 主催者が私を覚えいたのだ。


 いや、違う。私がこれまでパーティーに誘われず、今になって誘われたのは、私を……あの時のことをずっと覚えていたからだった。


 そして私は知った。

 モデルの仕事が少なかった理由も。

 どうしてチラシ系ばかりだったのかも。


 私は怒った。

 許せなかった。

 絶対目にもの見せてやると誓った。


 後日、また福原さんからVtuberのお誘いを受けた。


 今のままだと私は邪魔され、表立って浮くことはないだろう。

 でも、これなら。

 私だとバレないはず。


 やってやる。

 やってやるぞ。


 こうして私はVtuberになった。


 5期生発足前、私以外の候補生は声優の美矢下唯こと宮下佳奈しかいなかった。


 初めは知らない子だなと思ってたけど、佳奈が声優ユニット案が潰れてVtuber課に来た子だと知った時、だと思い出した。


 声優で構成された新ユニットは公表前に消され、うちうちで穏便に事を運んだため、世間に真相が知らされることはなかった。


 けれどペイベックス社に身を置く者なら、問題のあったそのユニット名を耳にはしている。


 そう。それは──『スクウェア・エース』。置き引き事件で白紙になった声優ユニット。

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