第37話 最終日②

「や、やっと着いたぁ〜」


 神社は山頂付近にあって、やっと私達は辿り着きました。

 鳥居をくぐり足を止めると疲労がぐっと訪れた。そして何度も額と首の汗を拭えど、汗は流れ落ちる。


「きつい。そこのベンチで休憩しよう」

「海さん、まだ歩けるでしょ。休むのは賽銭を入れてから」


 そう言って福原さんが海さんの背中を押す。


「うぅ、もう歩きたくなーい」

「ここまで来たんだから、あと少しです。頑張りましょう」


 私達は並んで賽銭箱に硬貨を投げ入れ、そして鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼で参拝する。


(どうかテストが合格しますように。そして諏訪フェスに行けますように。行けますように。行けますよに!)


  ◯


「さて、あそこのベンチで休憩しましょう」


 福原さんがベンチを指して言う。


「賛成」


 海さんが真っ先に言って、ベンチへと動く。


「私はそこの自販機でジュース買うわ」


 葵さんが社務所の隣にある自販機に向かう。


「私も飲もう」


 私と葵さん、それと福原さんが自販機でお茶とジュースを買った。


「私も何か飲みたーい」


 海さんがこちらに向かって注文すると、ベンチに座ってた佳奈達も「私も」と言ってきた。


(まったく)


 私は佳奈の分のお茶を買って、ベンチに向かう。


「ほら」

「ありがと」


 佳奈はキャップを開けて、ゴクゴクとお茶を飲む。


  ◯


 休憩を終えて、下山しようとした時、


「あそこに映えスポットがあるよ」


 と海さんが展望エリアを指して言います。


「本当だ。すごい」


 ハルコさんもつられて展望エリアへと向かいます。


 展望エリアから見える景色は確かにすごかった。遠くまで見渡すことができ、眼下の建物がオモチャみたいに小さい。さらに私達が合宿した避暑地まで見ることができ、避暑地の湖が陽の光を反射してキラキラと光っていた。


「ねえ、皆で写真を撮ろう」


 照さんが提案しました。

 それに皆は「いいね」と答えました。


「では私がカメラマンを務めます」

「福原さん、私は自撮り棒持ってるから大丈夫だよ」


 そう言って海さんがバッグから自撮り棒を取り出した。


「それじゃあ、皆集まって」


 海さんを真ん中に私達は集まります。


「はい、チーズ」


 シャッター音が鳴り、写真が撮られる。


「皆に送るね」


 海さんがスマホを操作して皆に写メを送信した。

 私のスマホからメール着信音が鳴り、添付された写真を確認する。


 佳奈や海さんは木製の手すりまで近づき、スマホで景色を撮っていた。


 私も手すりに近づき──、


「わわっ! む、む、虫! 虫だよ!」


 手すりを掴もうとして私は気づいた。なんと手すりの木目と思われたそれは虫だったのです。


「蟻? 違う! 飛んだ? うわっ、羽虫だ!」


 無数の羽虫が宙を飛び交い、私はすぐにその場を去る。


「何これ? めっちゃ多い! 額の汗を拭ったら虫が!?」


 ハルコさんが悲鳴を上げる。


「離れよう! 早く!」

「うん」


 海さんと佳奈もすぐにその場を去る。


「最悪。虫がいっぱいいるし。うわっ! まだいる? 気づかなかったけど、虫だらけじゃん」


 ハルコさんが自身の顔周辺を手で振り回す。


「休憩は終わりです。皆さん、すぐに下山です」


 福原さんに言われ、私達は急いで来た道を戻ります。


  ◯


「つ、疲れた」


 バンに戻った私達は体力も限界でぐったりとしていた。

 福原さんも疲れたのか、しばらく運転する体力もなかったようだ。


 そしてバンで20分程度の休憩をしたのち、福原さんはバンを発進させた。


「もうお昼だから。どこかで食べよう」


 と照さんが提案します。


 スマホで時間を確認すると昼の2時10分だった。


「賛成。何が食べたい?」


 海さんが皆に聞く。


「どこでもいい。とにかく目についたお店でいいんじゃない?」

「そうだね。葵の案に賛成」


 佳奈がぐったりしながら言う。


「では、それでよろしいですね」


 福原さんが皆に確認する。それに皆は頷いた。


 ──が、結局はファミレスになった。


「やっと飯が食えるよ」


 ハルコさんが安堵の声を出す。


「助かりましたね。もう3時ですよ」

「まったく。お昼時を少しでも過ぎたら休むってやばいよね」


 実はファミレスに辿り着くまで、いくつかのお店を見つけたのだが、なぜかどこも準備中だったのだ。


  ◯


「では、先に失礼します」

「送っていただきありがとうございます」


 最寄駅までの送ってもらうはずが、「ここから家に向かった方が早いです」と言われ、福原さんに家まで送ってもらった。


『お疲れー』


 5期生の皆が車を降りた私と佳奈に向けて手を振る。


「「お疲れ様です」」

「あっ! 千鶴さん、テストの件は追って連絡します」


 運転席から福原さんが言う。


「はい」

「では、おやすみなさい」


 そしてバンは発進し、私達は家へ入る。


「ただいまー」


 リビングから母が玄関にやってきて、


「おかえり。おみやげは?」

「もう! 第一声がそれなの!?」

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