第29話 デイ・アフター・パンデミック④

『……つ、着いた。皆、見て! ホームだよ』


 マイさんが暗いトンネルを抜けた先に現れたボロボロのホームに刀の刃先を向けて言います。


「疲れたぁ」


 地下鉄の惨劇を乗り越えて、私達はやっと港の最寄駅に辿り着きました。


「これであとは駅を出て、港に着いて終わりなんですよね?」

「お姉ちゃん、忘れてない?」

「何を?」

「エリアボスがいるんだよ」

「……まじ?」

「まじだよ」

「どんな奴?」

「このエリアはまだ未経験だから私達の誰も知らない」

『どうせさっきのより大きいクリーチャーでしょ?』


 とフジさんが言います。


  ◯


 そして駅を出て、港付近に着いた私達は指定されたポイントへと向かいます。


『さて、そろそろボスのお出ましかな?』


 ヒスイさんがそう言うと、地鳴りが響き、ドスンという音と共に巨大な何かが画面奥から現れました。


『ああ! フジが大型クリーチャーなんて言うから』


 ミカゲさんが悲鳴交じりに言う。


『何言ってんのよ。エリアボスは最後に現れるっていうでしょ? ほら、構えて』

『でもさ、こいつデカくない!?』


 マイさんが驚きの声を上げます。


 それも仕方のないことでしょう。

 現れたボスは三階建てのビルほどの大きさであった。


 見た目は前身青黒く、異様に筋肉ムキムキ、そして口から伸びた青い舌が異様に長い。


『とにかく撃てー!』


 ヒスイさんの合図ともに私達は銃火器による攻撃を開始します。


『くそ! ラスボスだけあって、なかなかくたばらねえ。ん? おいおい! なんか車を持ち上げ……うぉお! 投げてきた!』


 エリアボスが周囲に転がる車をまるで石を投げるかのように、フジさんへと投げつけてきました。


『一箇所に集まったら駄目。囲むように。近づかれたら、近接武器で応戦し、すぐに距離を取るようにね』


 さすがはヒスイさん。5期生のリーダーだけはある。きちんと指示をしてくれる。

 そうして私達はヒスイさんの指示通りに動く。


『雑魚ゾンビもやってきたわ。そいつらは広範囲系の火炎瓶で燃やしましょう。オルタちゃん、そっちに火炎瓶を』

「ラジャー」


 私は群がってきたゾンビに向けて、火炎瓶を放り投げる。


『わ、わ、私も』


 ミカゲさんも雑魚ゾンビの群れにダイナマイトを投げようとしますが、ヒスイさんが止めます。


『待って、ミカゲ。ダイナマイトは威力が高いからエリアボスに』

『わ、分かった。エリアボスだね』

『待って! 今はメメが!』


 ヒスイさんが静止を言いますが時遅し、ミカゲさんが投げたダイナマイトは近接格闘中のメメを含めてエリアボスに爆撃を与える。


「ちょっとーーー!」

『ごめーん』


 メメはHPが0になり死亡。誰かが蘇生をしないといけないけど、遺体がエリアボスの近くなので蘇生ができない。


『仕方ないわ。今はこのメンバーで対処しましょう。オルタちゃんはショットガンだからエリアボスに与えるダメージが低いから雑魚ゾンビに対処して。それ以外はエリアボス囲んで撃破』


 その後、私達はメメを欠けた状態でエリアボスを攻撃します。

 が、やはり戦力不足や操作の不慣れが影響し、少しずつですが私達は後退を余儀なくされてしまいます。


『やばい! 袋小路だ! どうするよ、ヒスイ?』


 フジさんの後ろはもう行き止まり。このままだと追い詰められ、逃げようのない近接戦になってしまいます。

 近接戦では圧倒的にこちらが不利。


「どうします? 私が囮になりますか?」


 私の武器はショットガンだし、このゲームに対して不慣れである。なら私がエリアボスと格闘中に皆で逃げるというのはどうだろうか。


『待って! こいつこっちに来てる!?』


 エリアボスはなぜかフジさんからマイさんへとターゲットを変えた。


『マイ! 後ろ! 多分、後ろの大型バスを狙ってるのよ!』

『どういうこと? まさか投げるとか?』

『そうらしいわ。フジ! ずくにあの大型バスにプラスティック爆弾を取り付けて。オルタちゃんはL型バールで近接戦に』

『え? L型バール?』


 爆弾取り付ける時間稼ぎかな?

 私はL型バールでエリアボスの足を狙う。


 しかし、エリアボスは私を無視してずいずいと大型バスへと向かう。


「すみません。なんか無視されちゃいます」

『大丈夫。そいつが大型バスを持ち上げたら、皆で火炎瓶やダイナマイトを投げるから逃げて』

「分かりました」


 そしてエリアボスがとうとう大型バスに近づき、今までとは違い、ゆっくりと両手で持ち上げる。


『オルタちゃん、今よ! 逃げて!』


 私がエリアボスから離れると、


『フジ、起爆よ!』

『分かった』


 フジさんはプラスティック爆弾を起爆させ、大型バスを爆破。


「これで……倒した?」

『まだよ!』


 爆炎が消え、エリアボスの存命が確認。


『皆、戻ってきたよ』


 とマイさんがメメを連れて戻ってきた。


「あれ? メメ? 死んでたんじゃないの?」

「マイに蘇生されて戻ってきた」


 そういえばマイさんは先程いなかった。どうやらその間にメメを蘇生に行っていたようだ。


『よし! 皆、揃ったね! 5期生の絆見せるよ!』

「「『『『おー!』』』」」


  ◯


「ミカゲさん、すみません。やられました」


 私の操るおっさんキャラがエリアボスに殴られて死亡しました。


『ええ! そんな! 私だけになったじゃない! あっ! 来るな! 来るなーーー!』


 エリアボスが長い舌を使い、最後の1人となったミカゲさんを絡め取ります。


『いやー! キモい! 絞められてる!』

『アハハ、ミカゲが触手プレイに遭ってる』


 フジさんが笑いながら言う。


『おっさんの触手プレイなんて誰がみたいのよ』


 マイさんが呆れたように言う。


 確かにおっさんキャラがクリーチャーに舌攻めを受けては絵にはならないだろう。


『ねえ、誰か助けてよ』


 ミカゲさんが悲痛な叫びを放ち、私達に訴える。


『死んだから無理』


 ヒスイさんが冷たく言い放ちます。


 そしてミカゲさんが舌で絞め殺されて私達は全滅しました。

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