第26話 デイ・アフター・パンデミック①

「それでどっちが先にするの?」

「大丈夫だよ。モニターがもう一個あるから2P可能だよ」

「そんなこと出来るの?」


 普通は同じ画面内でやるはずだけど。


「このゲームは個人プレイも可能だけど、多人数プレイが基本だからね。画面を2つ作れるの。で、一つをそっちのモニターでやるの」

「なるほどね。私は初心者で設定とかわからないからモニターの方でいいよ」

「オッケー」


 そして佳奈はあれこれとセットして私の座る席の前にあるモニターにゲーム画面と私のアバターを映す。


 褐色肌と白髪のアバター。

 赤羽メメ・オルタ。


 そして佳奈の正面パソコンの画面には金髪のお嬢様キャラが映る。それはオルタの色違い……いや、オルタが色違いだった。オルタの元キャラ。名前は赤羽メメ。


「こっちは準備完了したよ」


 佳奈がマイクに向けて言う。

 相手は別室の5期生メンバーであろう。


『こちらハルコチーム準備完了』

「照達はまだ?」

『今、葵がセッティング中』

「まだ時間あるのでゆっくりていいですよ」

『分かった』


 配信は21時スタート。現在は20時45分。まだ15分も時間はある。


「ちなみにここからはVtuberの名前だかね。間違って本名はダメ」


 佳奈がこっちを向いて言う。


「分かってるよ。それくらい」

「ちなみに誰が誰か分かるよね」

「一応大丈夫」

「……一応って、まあこのゲームも作中のキャラを使うから問題ないけど」

「でも、本名は絶対ダメだからね」

「もう。分かってるよ」


 そして葵さんからセッティングが完了したことを告げる音声が届いた。


『それじゃあ、そろそろ配信時間の21時ですので配信を始めまーす』


 リーダーの照……ヒスイさんから開始の合図がなされた。


  ◯


『リスナーの皆さーん、こんばんわー。ペイベックスVtuber5期生の有流間ヒスイでーす。今日は5期生全員でデイ・アフター・パンデミックをやっていこうと思いまーす』

『久々の全員だー』


 拍手をしつつ、フジさんが言う。


『違うよフジ。今回はオルタちゃんもいるんだよ』


 マイさんが訂正を入れる。


『そうだった。オルタちゃーん、どーお? 緊張してる?』

「まあ、初めての全員集合なので多少は緊張してます」

『緊張しないでね。のんびりやっていこう』

『おい、ミカゲ! 声が震えんぞ』

『仕方ないでしょ! 苦手なんだもん。どうして初集合でホラーなのよ!』

「ホラーじゃないよ。アドベンチャーゲームだよ。皆で楽しむゲームだよ」


 メメがミカゲさんをなだめるように言う。


『ゾンビじゃん! ホラーじゃん!』

「正確にはホラーアクションだけどね」

『ほらー!』

『そのホラーはダジャレかな?』


 フジさんが尋ねます。


『ダジャレじゃない! てか、パーティーゲーム系でいいじゃん』

『いや夏だし』

『夏はゾンビなの?』

『夏は暑くて、すぐ腐るから良い味だすじゃん。ぐっちゃぐっちゃなとことか』

『意味分かんない』

『はいはい、お二人さん、そろそろ始めるよ。スタートボタンを押してね』


 私達はコントローラーのスタートボタンを押してゲームを始める。


『オルタちゃんはこのゲーム初めてだっけ?』

「はい。初めてです」

『このゲームは簡単に説明すると銃や刀、ナイフ、火炎瓶、ダイナマイトを使ってゾンビを倒しつつ、指定された目的地に向かうことなの。特にストーリーはないから』

「分かりました」

『じゃあ、キャラクターと武器を選びましょう。皆、好きなのを選んでね』


 まずキャラクター設定の画面で私達は操作するキャラを選択する。


(男キャラしかいない。しかもギャング系のおっさんばっか)


 とりあへず私は比較的ナイスガイなおっさんを選択した。

 メメはモヒカンの世紀末ヤンキーを選んでいた。


「キャラに特性とかある?」

「何もないよ」

「なんで男キャラばっかなの?」

「知らなーい」


 次に武器選択画面に移る。武器倉庫らしく、さまざまな武器が並べられていた。

 私は基本的な拳銃とナイフ、L型バールを装備する。


 一応、ゾンビものの映画やゲームをプレイしたことあるので、それなりのものを選んだのだが、


「ああ! ダメだよ。選ぶなら威力の高いやつと広範囲系を選ばないと」


 メメにダメ出しをされた。


「なんで? こういうゾンビものではL型バールは最強だよ」

「それ実際にはね。でも、このゲームではそういうの関係ないから。これとかが標準だよ」


 とメメはショットガンをすすめる。


「え? まじ?」

「まじまじ。ミカゲとか見てみ、機関銃にダイナマイト、槍だよ」


 ミカゲさんは機関銃を両手で持ち、腰には赤い筒状のダイナマイト、背中に槍を背負っている。


「何、あの重装備。持てないでしょ?」

「普通はね。でもゲームだから問題ないの」


 他の皆もアサルトライフルや手榴弾、火炎瓶、プラスチック爆弾、チェンソーなどを選んでいる。


「爆弾って、間違って味方も巻き込まれたりしないの?」

「するよ」

「するんかい!」

「でもそんなにダメージは食らわないよ。それに死んでも蘇生できるから」

「ゾンビがいる世界で蘇生って、自分達もゾンビになるとか?」

「それはないよ。ゾンビに噛まれようが殺されようがキャラクターはゾンビにならない」

「なんかめちゃくちゃだな。なんでゾンビ発生したんだよ」

「ゲームだから細かいことは言いっこなしだよ」

「……ゲームって」


 ……なんかこういうやり取り、どこかでしたような気がする。

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