第25話 カレー②

 玉ねぎを狐色にまで焼いて、ジャガイモ、ニンジンを鍋に入れる。


「これはジャガイモとニンジンを焼いてるうちに玉ねぎ焦げません?」

「大丈夫よ。玉ねぎを焦がさないようにするから」


 と言ってミカゲさんは菜箸さいばしを使い、鍋の中にある野菜を上手に転がす。


 そしてジャガイモとニンジンの表面が少し焼けてきたので、次に私は肉を鍋の中へと入れます。


「あれ? 牛肉だ」

「はい。ミカゲさんは豚肉派でしたか?」

「……牛肉は関西圏でしょ? オルタちゃんは都民だよね?」

「はい。関西の血は流れてません」

「なのに牛肉?」

「ええと、牛肉嫌いでした?」


 福原さんからはミカゲさんは特にこだわりがないと聞いていたが。


「……時々ビーフカレーを食べるから別に問題はないけどね。ただ都民なのに牛肉だったから驚いただけ」


 本当にそれだけだろうか?

 少しショックを受けてない?


 ミカゲさんは肉の表面が焼けると鍋に水を入れます。


「あとは沸騰させて、アクを取り、最後にルーを入れるだけ。オルタちゃん、ルーは何口?」

あいだをとって中辛です」


 私はカレールーのパッケージをミカゲさんに向ける。

 甘くもなく、辛くもない中辛。


「うん。中辛でいいと思うよ。皆もそれくらいだと思うし」


 これはセーフか。良かった。


「さて、ルーを入れよう」

「はい」


 ミカゲさんはお玉にルーをのせて、鍋に入れる。そしてお玉を回して、ゆっくりと溶かしていく。


「カレーによく何かを入れるけどオルタちゃんのとこは何か入れてる?」

「何も入れてません。ミカゲさんは何か入れるんですか?」

「私も入れないけど……よくハチミツとかりんごとかヨーグルトを入れるってのを聞くよね」

「インスタントコーヒーの粉とかよく聞きますよね」

「ええ!? 入れる? コーヒーだと苦くなるでしょ?」

「そうですか? 深みが出るとか聞きますけど?」」

「ふうん。あとは……チョコを入れるって聞くよね」


(もしかして甘党だった?)


「そういえば、ご飯は炊いてあるの?」

「……ん?」


 私は福原さんに視線を向ける。

 炊いてあるよね?


 しかし、カメラを持った福原さんは無言で首を横に振った。


 私は炊飯ジャーを開けて中を確認する。

 すっからかんでした。


「あ、ありません」

「なんだって!?」

「すぐに炊きます!」


 私は急いで早炊モードでご飯を炊く。

 完了予定時間は20分。


「これなら大丈夫よ。カレーは出来た頃は水っぽいから、少しとろけるまで待つものだしね」


  ◯


 しかし、買ったジャガイモが男爵だったため、ジャガイモはドロドロに溶けてしまい、ねっとりとしたカレーが生まれてしまった。


「私のカレー、ジャガイモが小さいんだけど」


 ハルコさんがカレーライスを見て言います。


「ジャガイモは溶けました」


 溶けて残ったのは小さいやつだけ。


「めっちゃ、ドロドロ。ねえ? ルー多すぎた? 溶けてないんじゃない?」


 海さんがスプーンでカレーを掬いつつ尋ねる。


「いえ、ジャガイモが溶けてドロドロになったのです。ルーは適切な量です」

「ねえ、これ牛肉なんだけど?」


 肉を食べた佳奈が文句を言います。


「佳奈、ウチは牛肉派だろ?」

「そうだっけ?」

「そうだよ。肉じゃがもシチューも全部牛肉だよ」


 この子、もしかして牛肉と豚肉の区別ついてなかったとか言わないよね。


「福原さん、どうですか? 配信に問題ありますか?」

「配信は完成したところまでですのでご安心を」


 と言って、福原さんはカレーライスを頬張る。


「それに私はこのどろっとしたカレー、嫌いではありませんよ」

「……そうですか」


 というか男爵をカゴに入れたのはあんただろ!

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