第24話 カレー①

 福原さんが夕食の買い出し行くので、私はそれに付き合った。

 コテージのある避暑地から少し離れたところに都内でも見かけるスーパーがあった。


「今日は何にしましょうか?」


 福原さんがカゴを持ち、私に聞く。


「う〜ん。ここはオーソドックスにカレーでは?」


 林間学校やキャンプといえばカレーではないだろうか。


「やはりカレーですか。では、そうしましょう」


 私達はカレーの材料となる野菜と固形ルーをカゴに入れ、肉売り場に向かいました。


「千鶴さんはカレーに入れる肉は豚肉派ですか? 牛肉派ですか?」

「牛ですけど?」

「関西系ですね」

「関西?」

「関東では豚ですよ」

「ええ!? ……って、それポークカレーでしょ。食べたことありますよ」

「そうではなく、普通にカレーは豚肉なんですよ。牛肉を入れるときはビーフカレーと言うんです」

「へえ。私は都民ですけど、ウチの家では牛肉派ですよ。時々ポークカレー」

「珍しいですね。ちなみにハルコさんと海さんは関西圏の人なので牛肉派です。それと照さんは牛肉が好きなので牛肉派です」

「なら、葵さんは豚肉派ということですか? 牛肉を買って大丈夫ですか?」

「本人はあまりこだわりがないので問題ありません」


 そして福原さんは牛肉をカゴに入れた。


「あとは何かありますか?」

「ううんと……福神漬けとサラダ、あとはフルーツとお菓子とか?」


  ◯


 買い出しから戻り、皆に今日の夕飯を答えると、

『ええ!? カレー!?』

 と非難された。


「え? なんで? カレー嫌い?」

「いやいや、そうじゃなくてさ、配信だから。パソコンも二人で一つ。しかも私は葵と一緒に防音室というほぼ密閉の中だからね。やばいからね」


 1番被害がありそうな照さんが力強く言う。


「ああ! そうだった。カレーは匂いがすごいですもんね」

「それでしたら口臭用のガムやタブレットがありますよ」


 福原さんが鞄から多数の口臭用のガムやタブレットを取り出してテーブルに置く。


「おお。結構ある」


 海さんが口臭用ガムを手に取り、パッケージを見て言う。


「まあ、口臭問題はオフコラボにはつきものですからね」

「効き目はあるの?」

「個人的にも使ってはいますが……ありますかね?」

「なぜ疑問系?」

「香辛料によるといいますか……にんにくとかキムチは無理です」

「カレーは?」

「まだ試したことはありませんので」

「……まあ、最悪歯磨きを丹念にすればいいかな?」


  ◯


 そしてカレー作りが始まった。


 昨日は照さんが肉を焼くのに頑張ってくれたので今日は私と葵さんが作ることになった。


「……何撮ってるんですか?」


 福原さんがビデオカメラを構えているので、私は聞いた。


「配信に使おうかと。ここからはVtuberの名のでお願いします」

「使うんですか?」

「ええ。手料理は撮れ高ですよ。ましてやオフコラボとなると尚更です」

「えっと……」


 私は葵さんに視線を向けると、葵さんは無言で頷きます。


「分かりました」

「では、料理を始めてください。あ、包丁は気をつけてくださいね」

「はい。手を切らないよう気をつけます」


 血が出たら最悪配信出来なくなるもんね。


「そうではなく、包丁とかお玉で顔が映るという事故があるので」

「そうなんですか!?」

「はい。ですので、包丁やお玉などはなるべく映らないよう外側に置くように」

「了解です」


 私と葵さんは頷きます。


 そして葵さんはVtuber黒狼ミカゲの声を作り、


「黒狼ミカゲでーす。今からオルタちゃんとカレーを作りまーす」


 普段とは違うアニメキャラの声。

 私は地声でやっているので、ギャップのあるアニメ声にはびっくりする。


「わー」

「オルタちゃん、自己紹介」

「あっ! えー、赤羽メメ・オルタでーす。こんばんわー」

「それではまずピーラーでジャガイモとニンジンの皮を剥きとりまーす」


 私達はピーラーでまずジャガイモの皮を剥き始める。


「ジャガイモは凸凹してるから難しいよねー」

「はい。大変ですね……って、上手いじゃないですか」

「そうかな? 普通だよ」

「ミカゲさん、早いよ。私の2倍くらいの早さじゃない?」


 私が剥いた皮は短いのに、ミカゲさんが剥いた皮は長い。


「普段から料理するんですか?」

「まあ、一人暮らしだからね。オルタちゃんは料理しないの?」

「母任せなので」

「全部母任せなの?」

「はい」

「少しは手伝ってあげなよー」

「善処します」


 そしてジャガイモ、ニンジンの皮を剥き終える。

 ミカゲさんは私がニンジンの皮を剥いている間に玉ねぎを切り終えていた。


「私、玉ねぎを焼くから、オルタちゃんはジャガイモとニンジンをカットしておいて」

「はい」


 やばい早くしないと。


「ゆっくりでいいよ。私、玉ねぎはぶっ殺すまで焼く派だから」

「ぶっ、ぶっ殺す?」

「あっ! えっと、狐色になるまで焼くってことだよ」

「なぜそれをぶっ殺すと言うのですか?」

「ウチの母がさ、玉ねぎを全然焼かなくてね。出来上がったカレーの玉ねぎがもう生と言っていいほど焼けてないなのよ。洗ったら真っ白なの。だから私、玉ねぎはぶっ殺すまで焼けって口酸っぱく言ってたの。それで……ね」


 最後にミカゲさんはアハハと笑う。

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