第21話 2日目のレッスンと昼食
2日目は朝からレッスンスタジオにて先生とマンツーマンで歌唱力のレッスン。部屋は昨日とは違い、ピアノのある小さい部屋。
そして昨日と同じ器具を使ったレッスンから始まった。
「はい。吹いて」
私は器具を唇で咥えて、息を吐く。器具の小さい穴から息が抜け、音が鳴る。
「お腹を意識して。お腹をへっこますではなく、貯めたものが上へと移動させるように」
まだ腹式呼吸については上手くできないが、下顎を動かすビブラートは
器具を使ったレッスンの後はピアノを使ったレッスンになった。それは合宿前に都内のレッスンスタジオでやったのと同じレッスンで、レッスンそのものはシンプルで難しくはなかったが、やはりピアノと同じ音を出すのは難しかった。
「ラー」
「もう一回」
「ラー」
「……初めからいってみよう」
先生はドの鍵盤を押す。
「ドー」
◯
「では、今日のレッスンは終わりです」
「は、はい」
レッスンが終わり、私は一息つく。
「普段からも発声練習をしっかりね」
「はい。……あの、今日はこれで終わりなのですか?」
「ええ。また明日ね」
先生はピアノの鍵盤蓋を下ろす。
私はカバンからミネラルウォーターのペットボトルを取り出してキャップを開ける。
一口飲み、もう一度、息を吐く。
「お疲れ様。しんどかった?」
「いえ、そんなに」
「あら? 甘すぎたかしら? それじゃあ、スパルタにしましょうかね?」
「ち、違いますよ。昨日はジョギングとか筋トレがあったから辛かったんですよ。それに今日は筋肉痛ですよ」
私は太ももを叩く。
先生は笑い、
「初めては皆、翌日は筋肉痛なのよね。普段から体を動かさないと。配信でたるみすぎよ」
「はい」
でも、ジョギングって歌のトレーニングに有効なのかはまだ疑問中である。
「あの、夏希さん達は?」
「夏希さんはお昼からですよ」
どうしてお昼からなんだろうか?
やはりそれは私のレッスンが低すぎて、一緒にできないということか?
まあ、仕方ないよね。だって、音程もビブラートも知らず、ついこの前からボイトレやらをやり始めたんだし。
「それじゃあ、失礼します」
私は一礼して部屋を出る。
◯
私はコテージに戻った。
コテージには福原さんだけで他の皆はまだ帰ってこなかった。
「あれ? 皆、まだ帰ってないんですか?」
スマホで時間を確認すると13時7分だった。
この時間なら戻っていてもおかしくはないと思うんだけど。でも、皆は帰っていない。
「皆さんはお昼もダンスレッスンがあるんですよ? だから夕方までは帰ってきませんよ」
「夕方まで? お昼は?」
「たぶん食堂か近くの定食屋で済ますか、コンビニで何かを買うんでしょうかね?」
福原さんが小首を傾げて答える。
「なら私達はお昼、どうします?」
「んー、近くの定食屋に行きましょうか?」
「いいですね。そうしましょう」
◯
私と福原さんは近くの蕎麦屋で昼食を取ることになった。
「千鶴さんはお昼からのレッスンはないのですか?」
福原さんがそう言って、蕎麦を啜る。
「はい。ないんですよ。なぜでしょうか? 夏希さんのレッスンは昼からですし。時間が違うのはレベル別ですかね?」
「そうかもしれませんね」
バッサリと言われた。
「ううっ、やっぱりですか?」
「まあまあ、器具とか貰ったのでしょ? それで自主練をしろってことなのでは?」
「そろそろ歌の練習がしたいですね?」
「ん? レッスンはしてるのでしょ?」
「違います。そっちじゃなくて、もしライブで歌うならその歌も練習しておきたいなって」
「ああ! そうですね! 発声だけでは駄目ですよね。前みたいに歌い出しをミスったりしないように練習しないとですね」
「うっ」
あの時のことは本当に恥ずかしい出来事の一つとして私の頭に刻まれている。
「ちなみに私が歌うのは何の曲なんですか?」
曲の歌い出しと歌詞を覚えないと前のようなミスをしてしまう。
それだけは避けなくては。
でも、その前にライブに出るかどうかをしっかりしないとね。
「テストで歌う曲です」
「テスト……って、それは私がライブに出るかのテストですか?」
「そうです」
「テストするんですか?」
「もちろんですよ」
福原さんはどうしてそんなことを聞くのかという顔をする。
「いや、だって、合否は合宿の成果でしょ?」
「ええ。ですから合宿のレッスンでどれだけ上手くなったかを知るために、まずはテストをするんですよ」
「テスト……先生が合宿中に上手か下手かのお達しで決めるのでは?」
「いえいえ、合宿後に竹原さんと私でテスト曲を聞いて判断します」
……聞いてないんだけど。
「そうなんですか。で、テスト曲は?」
「竹原さんから聞いてませんか?」
「一切聞いておりません。というかテストの存在を今、知ったくらいです」
「まったく、あの人は?」
「で、曲は?」
「
「あれ? その曲って……」
「はい。前に竹原さんが指定してきた曲ですよ」
◯
会計の際、自分の分の勘定を払おうとしたのだが、「経費で落ちますので大丈夫ですよ」と言われた。
コテージに戻ってきて、福原さんはノートパソコンでお仕事を再び始めた。
邪魔したら悪いし、何もしないのもここにいない皆に対して悪い気がするので私は器具を持って外へと出かけた。
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