第19話 バーベキュー
「はぁ〜。ビールが体に染みるわー」
「本当よね〜」
ハルコさんと海さんがビールを喉に流して、目を細め、幸せそうに声を漏らします。
「2人共、肉も食べないと!」
リーダーの照さんが汗を流しながら、トングで肉を裏返しながら言います。
現在、夜の20時。私達はコテージのバルコニーにてバーベキューをしています。食材は福原さんがお昼に近くのスーパーで買って来たもの。
コテージに備えられていたバーベキューセットは炭を使う本格的なもので、それを照さんが慣れた手つきで、火を起こし、肉と野菜を上手に焼いています。
「千鶴は飲めんないだっけ?」
葵さんがコーラを飲む私に聞く。
「はい。まだ19です」
「若いね。あっ、タメ口だけどオッケー?」
「はい。私が年下なので」
「じゃあ、私も」
と、海さんも手を上げる。
「はい。皆さんもどうぞタメ口でお願いします」
私は5期生の皆さんに向けて言う。
「うん。わかった。はい、肉!」
照さんが焼けた肉を私のタレ皿へと載せる。
「どうも」
載せられた肉を私は頬張る。
噛むと肉の旨み甘いタレの味が口の中に広がる。
美味しい。合宿は辛いけど、肉で帳消しに出来るかな。
「千鶴さん、いい食べっぷりだね。もう一枚行ってみよう」
照さんがまた私のタレ皿に肉を置く。
「照、本当に話を聞いてた?」
葵さんがどこか呆れつつ聞く。
「うん。聞いてたよ。肉だね。バンバン食べてねー」
「……これは聞いてないな」
「あの、代わりましょうか?」
私が焼き係を代わろと名乗り上げる。
「いいえ。もうすぐで一通り焼けるので、大丈夫ですよ」
「お姉ちゃん、照さんは鍋将軍ならぬ焼き肉将軍だから。私達は肉を食べることを専念しないと」
佳奈が肉をもぐもぐ食べながら言う。
焼き肉将軍。初耳なんだけど。そんなのまであるんだ。
「てか、あんた、食い過ぎよ」
「だって、今日は動き疲れたんだもん。余分に出したカロリーを戻さないとね」
……十分に取り戻してるのでは?
「そういえば、そっちはどうだったの?」
「私? 私もきつかったわ。湖を一周された。その後、筋トレ」
「湖を一周。どれくらいの距離?」
「約8キロだよ?」
「1人で?」
「ううん。鈴音さんも一緒に」
と私が言うと、
『ああ!』と皆が声を発した。
「え? 何?」
「歌のレッスン、夏希さんも一緒だったんじゃない?」
「そうだけど」
「つまり同じ練習はまだ無理だから走らされたんだよ」
「それは私は全然駄目ってこと?」
「だね」
「だから基礎として走らされたんだよ」
「歌と体力って関係ある?」
「正確にはダンスだよね。一応、肺活量は上がるかな」
葵さんが少し首を傾げながら言う。
「そうなんですか」
だから鈴音さんは帰りの時に謝っていたのか。
むしろ、練習の足を引っ張った私が謝るべきだったはず。
「ねえねえ、鈴音も走ったってことは、歌のレッスンも一緒にやってたの?」
ハルコさんが私に尋ねる。
「夏希さんの付き添いで来てました。あ、でも、途中からは一緒に発声練習をしましたよ」
「ふうん」
そう言って、ハルコさんは缶ビールを飲む。
なんだろう?
私は視線で佳奈に聞く。
佳奈は一度、目を逸らしてから、
「鈴音さん、前にアーティスト課いたんだよね」
「それってアーティストだったってこと?」
「正確には姉妹ユニットなんだけどね」
葵さんがぽつりと言う。
「姉妹で。すごいですね。その後、Vtuber課に来たと?」
「ええ」
どうして移動したかは聞かないでおく。
私も大人だ。なんらかの諸事情があったと
「本当は2人でVtuberをする予定だったんだけど事故で今の形になったの」
「まだ歌いたいのかな?」
海さんが小声で言う。
「どうなんだろうね?」
照さんが前髪を掻き上げて言う。
「Vtuberとして歌いたいだろうと思うんだけど、それだと……ね」
もしVtuberになれば、夏希さんの動作やダンス担当がいなくなる。
「鈴音さんの他に動作やダンス担当はいなかったんですか?」
「初めはいたんだけど……ね」
葵さんは眉を
察するにそれは前任者はいたけど夏希さんとの間でトラブルがあって、今の形になったということだろう。
「ほ、ほら、しんみりとした話は終わりにして、食べよう! 明日のために!」
「そうね……って、照、焦げてる!」
ハルコさんが鉄板の焼き肉を指差す。
「あっ! ヤバ!」
照さんは急いで裏返して隅へと移動させる。
裏返された焼き肉はこんがりと焼き焦げていた。
「これはヤバい! 食べて! 早く!」
照さんは隅に追いやった肉を私達のタレ皿へと投げるかのように入れていく。
「ちょっと!」
ハルコさんが苦情を言うが、
「連帯責任! 皆で食べる」
そして私達は焦げた肉を食べる。
苦い味が口の中に広がった。
「次はちゃんと焼くからねー」
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