2章②『合宿』

間話 夢【那須鷹フジ】

 努力すれば夢は叶う──なんてことはない。


 もし叶うなら世の中の努力した人すべてが夢が叶うということになる。


 でもそれは無理だ。


 一位を獲り優勝する者は一人だけ。ならそれ以外は二位以下。それは夢が叶ったと言えるのか。


 夢は才能と努力とチャンス。

 私は努力をしたが才能とチャンスはなかった。


  ◯


 私は高校時代に声優になりたいと決心して、卒業後に声優の専門学校に通った。


 ネットではよく、専門学校に通うのでなく、養成所に入るべきと書かれている。


 まあ、確かにそうかもしれない。


 専門学校を卒業した子が普通に養成所に入るし。それなら初めっからそうしろよと思うよ。


 でもさ、何もない状態で養成所に入るのと多少の知識とスキルを手にして養成所に入るのはかなりの差がある。


 私は専門学校後、事務所に所属した。

 そこで3年間頑張った。

 でも無理だった。


 どれだけオーディションを受けても落選ばっか。


 3年が経ち、切られた。

 そして新しい事務所に入る。

 次は2年だった。


 心機一転。頑張ろうとオーディションを受けた。

 それでも端役すらなく落選。


 自分に声優としての技術はないのかと問われるなら、あると答える。

 自分で言うのもなんだが私にはきちんとした技術はある。


 幼少のキャラから老齢なキャラまで。

 気弱な性格のキャラから強気なキャラまで。

 純粋な女の子から子持ちの廃れた女まで。

 モンスターの鳴き声。少年の声。思春期の少年の声。


 色んな幅の声を出せる。

 技術はある。

 でも──。


 世の中はでは駄目だ。

 それくらいのことが出来る声優は五万といる。


 そして求められるものはそんなものではなかった。


 私より明らかに下手なものが主役を取った。

 どの声も声豚に特定される、そういう実力の者が選ばれる。


 何度も。同じ声で。


 中にはアイドルが声優を務めた。

 畑違いなことをして棒読み。ネットでは炎上。


 それでも制作会社は彼女達を選ぶ。


 技術のある私ではなく。

 知名度だけの者。


 求められるのは声優としての技術ではなかった。


 なら、どうやって役を取れと?


 時間が経ち、理解した。いや、前から分かっていた。ただ、それを認めたくなかったのだ。


 大事なのはタイミングとチャンスゲッター。


 それさえ上手くいけばあとはトントン拍子びょうしに役が向こうからくる。


 私は掴み損ねた。

 いや、損ねたではない。チャンスがぶら下がっていなかったのだ。


  ◯


 25の時、バイト三昧の私は声を活かした副業に手を出した。


 それが配信だった。

 ニパニパ動画で配信をした。


 きっかけは偶然他人の配信を見て、私もしてみようと考えたのだ。


 そしてニパニパ動画ではアニメ絵のアバターはなく、マスクとグラサンで出演。声を作り、ゲーム実況を始めた。


 最初は誰か見てくれるかなとドキドキしていたが、ここでもやはり私の席はなかった。


 PVは低く、コメントもひどかった。


 初めは逆に人気がなかろうと、頑張れば少しずつ認めてくれるはず。自分の実力をより大勢の人に見てくれる。そしてきちんと認めてくれるのではないか。


 ぶっちゃけ承認欲求だ。


 面白ければ、いつかはとそんな淡い期待をしていた。


 ゲーム実況配信だけでなく声を使った人気キャラのモノマネ、歌、激辛食レポなどの配信をした。


 でも駄目だった。

 人気は上がらず。

 私は落ち込んだ。


 その頃はもう辞めようかなと考えていた。


 そこへ、ある女の子がニパニパ動画に現れたのだ。

 その子も私と同じく底辺配信者だった。


 仲間だなと親近感があった。そして実際にコンタクトが取れて、仲良くなった。


 そしてある日、その子がペイベックスのVtuberになると教えてくれた。


 Vtuberは今も当時も有象無象のVtuberがいた。

 今更Vtuberになっても大丈夫なのかと私は苦言を呈した。


 この頃のペイベックスVtuberは2期生までいて、やや右肩下がりだった。そこへ3期生が上がるとは思えづらく、私はやめるべきだと言った。


 でも、その子はなんとかVtuberで成功した。確かに2期生に比べると見劣りがあり、登録者も少ない。


 でも、ニパニパ動画にいる時より彼女はイキイキしていた。


 だから私もあやかってペイベックスVtuber5期生に応募した。


  ◯


 正直、波に乗り遅れた。

 全く人気が出なかった。


 集められた私以外の5期生も訳ありのメンバー。

 こいつは大変だな。


 しかもその中に元声優がいた。名前は宮下佳奈ちゃん。V名は赤羽メメ。声優名美矢下唯。彼女は私より一回り歳が離れたリアルJK。その歳で声優を諦めるとか……。世の中はシビアだ。


 少しずつだが、人気が出てきた。それでも一つ前の4期生とはかなりの差があった。3期生では倍程の。


 そんな中で事故が発生。メメの姉がゲーム実況をしてしまった。普通なら自粛か引退クラスの大事おおごと


 でも、登録者数の爆上げとSNSでのトレンド入りからお咎めなしとなり、さらにはオルタ化までになった。


 相乗効果としてメメの人気も上がった。


 私も頑張らなくては。

 

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