第13話 焼肉女子会

「ふえっ!? 合宿にぃ参加しゅるんだぁ?」


 ヘベレケ状態のヒスイさんが私に聞く。


「はい」

「ライブにも参加するんだぁ!」


 ちょっと語尾が怪しい。大丈夫かな?


「いえ、それはまだ歌が上手くならないと駄目なようで。あの、飲み過ぎでは?」

「まだ2杯だよ」

「いえ、3杯です」


 初めにヒスイさんはちょっとだけと言っていたが、肉を食しつつ、グビグビとピッチを上げ、もう3杯目。


 私と佳奈を除いた他の皆もビールを飲み、食事を楽しんでいる。


「昼間っからどうかと思うのですが」

「分かってないね。オルタちゃん」


 マイさんがビールジャッキを床に置き、口元の泡を手の甲で拭き取る。


「配信者の日常リズムなんて当然不規則なのよ。ふ・き・そ・く。私達がいつ配信しているか知ってる? 夜よ。夜。さらに終わりは深夜。しかも早朝までぶっ通しで配信もあるんだから!」

「は、はあ」

「そう! 私達にとって、これは夕食でもあるのよぉ!」


 ヒスイさんがうんうんと頷く。


「ゆ、夕食?」

「今日はこの後、寝て、夜に起きて即配信。配信がない日はそのままずーと寝るのぉ」

「なるほど。でも、寝ずに起きていて、配信前に食べれば良いのでは?」


 ヒスイさんはチッチッと人差し指を振り、


「私はー、昨日の配信からー、ずーと起きているのだぁ」

「なんで寝てないんですか?」

「しゃーないでしょー。早朝まで配信が続いてしまったんだしー、今日はー、ダンスレッスンがあったんだもーん」

「そ、そうなんですか」


 確かにそれだと生活リズムが不規則なる。


「でも寝坊したら駄目だからね」


 フジさんがヒスイさんに向けて言う。


「アンタにぃー、言われたくなーい。5時間寝坊したくせにぃー」

「5時間?」

「そうよー。聞いてー、オルタちゃーん」

「ちょっとヒスイ!」


 フジさんが止めようとするが、


「こいつねー。私との約束すっぽかして5時間も寝坊したの。最悪だよねー」

「はいはい、その節はご迷惑をおかけしました」

「はんせー、してないでしょー」

「してるって。もうやめてよ」


 フジさんがげんなりして答える。


「それより、合宿に参加と言ってたけど、それって合宿中のゲーム実況も参加ってこと?」


 ミカゲさんが聞く。ミカゲさんはお酒に強いのか素面しらふだった。


「ゲーム実況?」

「そう。皆でオフコラボって名目でゲーム実況の配信をするの」

「初耳です」

「あらら、福原さんもやらしいわね〜」


 フジさんが肩を竦める。


「やらしい?」

「えーと……ずるいみたいな。ごめんね。方言が出ちゃった」

「出身は大阪ですか?」

「すごい。今のでよく分かったね」

「いえ、なんか雰囲気的に」

「オルタちゃん、それ分かる。なんかフジって大阪のオバちゃん臭いわよね」

「おい! マイ!」


 私は苦笑した。


「それより皆、肉食べなさい」


 ミカゲさんがトングで肉を裏返して言う。


「ミカゲさんは食べないんですか?」

「食べてるわよ」


 でもさっきから私達ばっか食べているような気がする。


「ミカゲは元モデルなのよ。だから肉より野菜ばっか食べてるの」

「ちょっとフジ! V仲であっても前世の話題はNGでしょ」

「モデルさんだったんですか。どうり美人だなって」

「ありがとう。でも所詮は2流……いえ、3流ね。仕事がなくてV落ちしたんだから」

「そんな3流だなんて……」


 こういう時、なんて返事をすればいいのか。


 困っているとフジさんが、


「あんたが3流なら私は4流って言うこと?」

「アハハ。ヒョウ柄のシャツを着たら立派な大阪のオバさんよ」

「おい! マイ! ヒョウ柄なんて、一部のババアしか着ねえんだよ。大阪のババア全員が着てると思うなよ」

「アハハ」

「マイさんも出来上がってるね」


 佳奈が呆れたように言う。


「歩いて帰れる程度にしてよね」

「あ、無くなった」


 ヒスイさんがコールボタンを押そうとしたら、それを佳奈が取り上げ、


「駄目。肉を食べなさい」

「あっつーい。何か飲みたーい」

「烏龍茶かジュース!」

「メメちゃんがいじめるよー」

「いやいや、あんた、本当にもう止めときな」


 フジさんも叱責する。


「ううっ」

「肉食べな。ほれほれ」


 ミカゲさんがトングで焼き上がった肉を摘み、ヒスイさんの皿に載せる。


「あううっ」

「それでゲーム実況というのは?」

「ああ、それはね、合宿中にゲーム実況するの。2日目はホラゲー。3日目は……なんだっけ?」


 ミカゲさんが皆に聞く。


「3日目もホラゲーって聞いたよ」


 マイさんが答えた。


「2日連続でホラゲーなの?」

「まあ、夏だしね。富士フェスも行くんだし楽しみ」

「マイ、レッスンも忘れては駄目よ」


 ミカゲさんがトングをカチカチ鳴らして言う。


「分かってるって」

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