第12話 5期生
歌のレッスン後、私は休憩ブースに向かった。
そこで女子グループがいて、私は休憩ブース内の無料のミネラルウォーターを手に、彼女達から遠くの席へ移動。
と、そこへ車椅子の駒沢さんが来た。
向こうがおじぎをするのでこちらも返して、
「お疲れ様です。えっと……」
やべ。この人のVtuberネームなんだったっけ?
「明日空ルナよ。人気絶好調のオルタちゃんには私のような底辺はアウトオブ眼中なのね。悲しいわ」
と言い、ルナさんは悲しそうな顔をする。
「ち、違います。私はVtuberのことを全く知らなくて。すみません」
「冗談よ」
とルナさんは顔を元に戻す。
「もうやめてくださいよ」
「ごめんなさいね。ところで今日はお一人でレッスン?」
「はい。歌の。妹はダンスレッスンです」
「私達もそうなの」
私達ということはお姉さんも来ているのか。
「ミネラルウォーター飲みます?」
「いいえ。待ち合わせで来ているの。もうすぐくると思うわ」
ルナさんは腕時計を見て言う。
するとそこへ姉の鈴音さんが現れた。
「ほら、現れた。それじゃあ、私はこれで」
そして鈴音さんと共に休憩ブースを出ていく。途中、女子グループに対して頭を下げて挨拶する。向こうの一団もルナさんに対して頭を下げる。
知り合いのVtuberなのかな?
そういえばルナさんが来た頃から彼女達の視線がビシビシと感じていた。あれはルナさんに対するものだったのか。
それもそうだよね。
私は席に座って、ミネラルウォーターを飲んんでリラックスしていると、女子グループがなにやら何かを発見したかのようなはしゃぎっぷりがここまで届く。
(ん? なんだろう?)
しかもなぜかこちらをちらちらと。
そして佳奈が休憩ブースに現れた。
私が呼ぶ前に女子グループの1人が佳奈を呼んだ。そしてなぜやら私の方に指差す。
(何?)
佳奈は頷き、何か言うと彼女達はまた黄色い悲鳴を上げた。
そして佳奈がこちらに来て、
「お姉ちゃん、荷物持ってこっちに来て」
「え? 何よ」
「ちょうどいいから紹介するね」
佳奈が彼女達を紹介しようとする。
その彼女達は目を輝かせていて、私は気後れした。
「えっと彼女達は5期生のメンバーなの」
「どうも。赤羽メメ・オルタこと宮下佳奈の姉千鶴です」
「やっぱり!」
私と歳が近そうな人が声を上げた。
「さっきオルタって聞こえたからさ。まさかと思ったんだよね」
「マイ、自己紹介しないと分からないでしょ」
佳奈が年上に対してタメ口で叱る。
それに私は驚いた。
「ごめん、ごめん。私は松竹マイ。本名は海野妙。よろしくね。前に人狼コラボで一緒に配信したの覚えてる?」
「はい。その節はどうもです」
「また一緒に……」
そこで隣の女性がコホンと咳をする。
「ごめんね。次どうぞ」
とマイさんは咳き込んだ女性に自己紹介を譲る。
「私はリーダーの有流間ヒスイ。本名は片山照。本当はリーダーだから先に名乗りたかったのにー」
ヒスイさんはマイさんに向け、唇を尖らせる。
「ごめんね」
「次は私の番ね。私は黒狼ミカゲ。本名は福沢葵。よろしく」
次に彼女達の中でかなり美人な女性が名乗る。
「そして私が信楽春子こと那須鷹フジ。よろしくねー」
最後は彼女達の中で1番年配層な女性が明るく答える。
(30前後くらいかな?)
「どうもです。いつも妹がお世話になっております」
私はおじきをする。
「実はこれから皆でお昼食べるんだけど。オルタちゃんもどう?」
「私もですか?」
「行こうよ、お姉ちゃん」
◯
連れてこられたのは焼肉屋だった。
……まじかよ。
先は奥から私、佳奈、ミカゲ。向かい側が奥からフジ、マイ、ヒスイの順に座っている。
「動いた後は肉だよね」
とヒスイさんが嬉しそうに肉を焼きつつ言う。
私は動いてないんですけど。
「ごめんね。ヒスイは肉が好きなのよ」
「違うよマイ! クーポンが今日までだったの!」
「だからって、昼に肉って……オルタちゃん、引いてない?」
「大丈夫です。全然平気です」
「で、Vtuberには慣れた?」
ミカゲさんが私に尋ねる。
「配信は一応。ただ、Vtuberの方が多くて名前とアバター、設定がまだ憶えきれてません」
「多いもんねー。ちなみに私達のことは?」
フジさんがウインクして私に聞く。
「勉強しました」
「そっかー。ちなみに私のことは?」
「お色気担当」
「そうそう」
「BBAも付け加えてあげてね」
「マーイ!」
「アハハ」
「何か聞きたいことがあったらどんどん聞いてね」
とヒスイさんが言う。それはたぶんリーダーとしてでもあろう。
「それじゃあ、一つ」
「何?」
「普段は皆さんを何と呼べば? Vtuberの名前だと身バレしますよね?」
「レッスンや外にいる時は基本本名」
「なるほど」
「ねえ、オルタちゃんは本名はなんて言うの?」
マイさんが私に尋ねる。
「宮下千鶴です」
「あ、本当に姉なんだ」
「はい。3つ上の姉です。」
「あの配信もガチの事故だったの?」
「本当に事故です」
「肉、そろそろ裏返したほうが良いのでは?」
佳奈が肉を箸で返しながら言う。
「あ、本当だ」
ヒスイさんが急いでトングで次々と肉をひっくり返す。
「ほら、皆も手伝って。自分の耕したものは責任取りなさいよ」
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