第9話 カラオケ
今日は瀬戸真里亞さんと二人っきりでカラオケに来ている。
本当は豆田も誘いたかったのだが、用事があるとかで無理だった。
でも、瀬戸さんと二人だけならVtuberの話もできるというもの。
私の知り合いで唯一私がVtuberをやっていると知っているのは瀬戸さんだけだから。
「急にカラオケっていうから驚いたわ」
「ごめんね。私、カラオケ下手だから練習に付き合ってほしくて」
「何よそれ」
「ごめん。でもこれVtuberに関係することだから瀬戸さんに相談に乗って欲しかったの」
「Vtuber……もしかして歌枠でもするの?」
「それも……あるかな? 一応、今はライブの件かな?」
「ライブ……八月中頃のライブ配信?」
「うん」
「すごいじゃない!」
瀬戸さんは顔を綻ばせて、手をパチパチと鳴らす。
「待って。まだ本決定ってわけではないの」
「どういうこと?」
「私、下手っぴなのよ。だから合宿参加で、その後にライブに出るかを決めるそうなの」
「ほう。下手っぴか。どれくらいか聴いてみようではないの」
瀬戸さんはカラオケの端末を私に差し出す。
「本当に下手だからね」
◯
「普通に下手ね」
私が一曲歌い終わってから瀬戸さんが感想を告げる。
「普通なんだ。前はもっとひどかったんだよ。その時はね、スクリーンがなかったから歌詞も分からないし、歌い出しも分からなかったんだよ」
あの日は散々だった。
5曲も歌わされたが、どれも最低だった。点数があったら低かっただろう。
今日はカラオケでスクリーンに点数が現れる。
83点。
「何がいけないかな?」
私は瀬戸さんに聞く。
「まずは音程ね。あと、歌い出しとかビブラート。歌声は良かったよ」
そういえば歌声は竹原さんには否定……されなかった……はず? 肯定もされてないような?
「音程ね。……何それ? 初耳なんですけど」
「え? いやいや、音程だよ。ほらラーと言えばラーみたいな」
瀬戸さんが手のひらを下にしたり、上に移動させたりする。
「は?」
さっぱり分からん。
「ええと、メロディに合わせるというか……ん? それは音階だっけ? ちょっと待ってググるわ」
そして瀬戸さんはスマホで音程をググり、
「二つの音の差を表したもの……だそうよ」
「ん?」
「曲って前後の音が違うでしょ? その差。そうだ。ほら、神連チャンって番組あるじゃん。そこで音程バーが出るでしょ。あれよ」
「神連チャン? 知らない」
「見てないの!? ええ!? どう説明すれば……あっ!」
瀬戸さんは何か思い出したように、テキパキとカラオケの端末をあれこれ操作して曲を入れる。
「画面見て! 画面!」
スクリーン画面には歌詞とガタガタのバーのようなものが現れた。
「あのバーが音程バー。上手く音程を合わせるとバーが光るの」
「へえ」
カラオケにそんな機能があったんだ。
「試しに私が歌うね」
そして瀬戸さんが歌う。歌っているのは一昔前に流行った恋愛ソング。
確かに瀬戸さんが歌うと音程バーが光る。時折、波線が出たりする。あの波線はなんだろう。
「あー! 上手!」
私は手を叩いて褒める。
そして歌い終わり、点数が出る。
94点。
「すごい。90点台だよ。え? 持ち歌?」
「持ち歌ではないよ。よく歌うだけ。で、分かった?」
「うん。上手く歌えばバーが光るんだね」
「そうそう」
「よーし、やってみるぞー!」
私も音程バーに挑戦してみることに。
歌う曲はJポップ。
明るくて、楽しい曲。
◯
「……全然光んないんだけど」
半分以上光ってなかったような気がする。
そして点数は73点。
「おしかったね」
「おしかった?」
むしろひどいような。
「ほら、採点のとこに音程がおしかったって書いてあるでしょ」
「あー、ほんとだ。タイミングは良かったけど半音ズレが多く見られていた……と」
「音程を意識して歌ってみたら?」
「といってもその音程がよく分からないし」
「あまり差の激しくないやつとか。この曲とかいいんじゃない? カラオケで点が取りやすいで有名な曲なんだけど」
瀬戸さんは一世代前のポップな曲を薦める。
「分かった。やってみるよ」
今度は音程にちゃんと乗ったので、我ながら点数には自信があった。
けれど──。
「……71点。ひっく! なんで? 前の曲より音程は乗ったのに!」
「ちょっと点数の内訳を見てみよう」
瀬戸さんが端末を操作するとスクリーン画面が切り替わる。
「あらら、加点のビブラートが1点、こぶしは1点、しゃくりが4点。しゃくりがすごいのね」
加点はそれぞれ5点満点中のもので、それらが合わさってカラオケの点数が表示される。
……つまり私は65点。
「ビブラートとかって何?」
「ええ!? 知らないの!?」
瀬戸さんが信じられないって顔をする。
「え? 瀬戸さんは知ってるの」
「普通は知ってるものよ」
「そうなんだ。で、ビブラートとかこぶしとかしゃくりって何?」
一つは英語で残り二つは日本語。
「ビブラートは『あああ〜』って震えるやつ。で、こぶしは演歌みたいに母音を2つ出すやつ。『私はぁぁ』みたいに『は』の母音『あ』を2つだすの。それで、しゃくりは低音から高音になるやつ。分かる?」
「さっぱり佐之助」
「佐之助? 何それ?」
「ううん。なんでもない」
あら、滑っちゃった。
「これは初歩から勉強しないといけないわね」
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