間話 打算【有流間ヒスイ】

 私がペイベックス社のVtuberになったのは打算によるものだった。


 転職の際、経歴に音楽業界トップのペイベックスの名があれば有利になると考えていた。


 だから5期生オーディションに応募した。

 元々Vtuberは次々と新しい箱とVtuberがデビューしていたので、どうせこの5期生もすぐに解散するのではと考えていた。それにVtuberにはわけありが多いと聞く。


 そして案の定、5期生はわけありの子が集まっていた。


 元声優や元モデル、承認欲求の塊などが。

 本気で配信やゲーム実況が好きな子はいなかっただろう。私に至ってはただの社会人だし。


 さらに私は動画を見ることは極めて少なかった。見る時間は限られているし、ギガがすぐになくなりそうだから遠慮していた。そしてゲームやアニメにもさほど興味はなかった。そんな私が5期生のリーダーだから笑っちゃう。


 初めてメンバーと顔を合わせた時はこれは早々に解散かもなんて考えた。


(まあ、いいか。経歴にペイベックスの名が残せれば良いんだし)


 ……我ながらあの頃の私は最低な女だと思うよ。


 けれどだ。

 少しずつだが私の中に異変が起こった。


 それは何かと言うと。なぜか次第に配信が面白くなってきたのだ。


 相変わらず登録者や同接数は少ないが、それでも配信が楽しくなってきたのだ。

 それも5期生……いや、ペイベックス社のVtuber全員が原因だ。


 皆とゲームをするのが楽しい。

 皆と馬鹿みたいにおしゃべりをするのが楽しい。

 オフで一緒にお酒を飲んで、歌って、騒ぐのが面白い。

 面白すぎなのだ。


 社会人の時には無かったものが、ここにはあった。

 子供の時に忘れた輝きがそこにあった。

 決して綺麗なものとは言い難いが、それでも大切なものだった。


 馬鹿みたいに笑う。

 馬鹿みたいにはしゃぐ。

 馬鹿みたいに遊ぶ。

 そういう馬鹿みたいに楽しい時間が配信にあった。


 それは素晴らしいものだった。

 だから私は少しだけ、寄り道してVtuberを楽しみたい。


 こんなリーダーだけど、もう少しわけありの子達を引っ張っていこうと思う。


「さあ次はどんな配信をしようかな?」

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