第5話 ダンス
「待ってください。実力を測るといっても……」
「ここはスタジオですから歌やダンスの実力を測ることは可能です」
「でもどうやって?」
「まずはダンスの実力を測りましょう」
「そもそも服が……」
今日はハーフパンツを穿いているけど、それでも動くための服装ではない。
「大丈夫」
と佳奈がボストンバッグを叩いた言う。
「お前……」
「更衣室はこっちだから」
こいつ謀ったな!
◯
私は更衣室でトレーニングウェアに着替えて廊下に出る。
「それではこち……お姉さん、シューズは?」
「シューズ? ええと……なかったけど」
ボストンバッグにはトレーニングウェアしか入ってなかった。
「ないと駄目ですか?」
「ええ。どうしましょう」
「ないなら諦めましょう」
「お姉ちゃん、待って。私のシューズがあるよ」
「サイズが違うし、水虫になるから嫌」
「水虫じゃない!」
「それでは貸し出し用のシューズを取ってきますね」
「え? あるんですか?」
「ええ。それでサイズは?」
「24.5で」
「分かりました」
◯
そして福原さんが貸し出し用のシューズを手にして戻ってきて私達はスタジオに入った。
「広いですね」
横長の部屋で四方のうち一つは全て鏡張り。
今はダンスの先生とレッスンを受けていた女性が一人いた。
(あ!? あの人は……)
確か車椅子の人のお姉さんだったっけ?
「牧村さん、ちょっと、よろしいですか?」
福原さんがダンスの先生に声をかける。
「なんですか?」
「この子のダンスの実力を知りたいんでテストしてもらってもよろしいですか?」
先生が私に目を向ける。
私は頭を下げて、
「よろしくお願いします。私、ダンス経験は学校の授業レベルです。成績も悪いです」
「……本人はそう言っているんだけど」
と先生は福原さんに聞く。
「でも、どれぐらいかきちんと把握したいんで。ちょっとでいいでお願いします」
「駒沢さん、少し休憩でいいかしら?」
先生が女性に尋ねる。
「はい。構いません」
駒沢ってことはやはり駒沢夏希さんのお姉さんか。
「なんかすみません」
一応、私は駒沢さんに謝っておく。
「気にしないでください」
駒沢さんが笑みを向けるので胸を撫でおろす。
「では、ええと……貴女、お名前は?」
「宮下千鶴です。Vtuberで赤羽メメ・オルタです」
「ああ! 貴女が噂の」
「噂?」
「いえ、最近話題のという意味です。そうでしたか。では、宮下さん、そちらに移動してください」
「はい」
部屋の中央あたりに移動させられる。
「ではまずストレッチから」
ストレッチって……これかな?
「ちょ、ちょ、ラジオ体操になってるよ」
「間違ってます?」
「ラジオ体操も大事だけど。ええと私と同じように真似をしてみて」
先生がストレッチを始めるので、私もそれに倣ってストレッチをする。
「はい。ストレッチ終了。それでは初歩のボックスステップから始めましょう。ワン・ツー・スリー・フォー」
先生が手を叩いてテンポをとる。
ボ、ボ、ボックスステップ? いきなり専門用語でこられても。なんだっけ?
こ、こんなんだっけ?
とりあへずステップを踏む。
「はい。ダウンして。ダウン、ダウン」
間違ってると言われないので正しかったようだ。
次はダウンで……これだっけ?
膝と腰を曲げて体を揺らす。
「次、アップ」
ん? ア、アップ? ええと上げるってこと?
伸びをするの?
しかし、伸びをするとつい跳ね上がってしまう。
すると先生が笑った。
鏡越しに佳奈と福原さんは笑っていた。駒沢さんも苦笑い。
(恥ずかしい)
先生の後ろは鏡張りだから私の情けないダンスを嫌でも目にする。
(ううっ)
「待って! ストップ! アップがおかしい」
先生が笑いながら止める。
「……すみません」
「ステップなしでアップしてみて」
「はい」
今度はステップなしでアップをする。
「いやいや、待って待って。おかしいから。なんでぴょんぴょんするの。それに顎が上がってる」
「で、でもそれだとどうすれば?」
「沈んで……上がる。オーケー? 沈んで……上がる」
先生が手本としてアップをする。
(ああ! 一回沈むように腰を下ろすのか。そして伸びる。なるほど)
私は膝と腰を曲げて、そして伸ばす。
「そうそうそれ。それじゃあステップしながらアップ」
よしやるぞー!
足を踏んだ時に伸びるんだね。
「待って。おかしい。顔が! 顎を上げないで」
「は、はい」
顎を上げずにステップを踏みながらアップをする。
「ダメダメ。全然ダメ。おかしすぎる。跳べないカエルみたいよ」
先生がそう言うと福原さんと佳奈が爆笑した。
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