第49話 本戦②

 ボルケーノコースは噴火する山の合間を通り、飛んでくる溶岩を避けつつゴールへと向かう上級コース。ラップはなく、一周で終わるという長いコースである。


 私はスタートダッシュを問題なく決めて、カートを進める。


 これまで全員がスタートダッシュを決めていたが、このコースで初めて数名がスタートダッシュをしなかった。


(アイテム狙いか!)


 このレースは妨害やアイテムボックスが多いため、速く走るというより、上手くアイテムを使ってゴールを目指すという戦術が良いとされている。


 やはりアイテムボックスを過ぎた頃、後続のプレイヤーからアイテム攻撃を受けて順位をぐっと落としてしまった。


「どうしたのオルタちゃん、だいぶ後ろにいるよー」


 星空みはりが挑発をする。


「まだ終わってません」

「このコースは一周で終わりだからね」

「知ってます」


 私は空から降ってくる溶岩を避けつつ、コースを進む。


「メメちゃん、このまま辞めちゃうの?」

「辞めません。まだ、まだ、まだ終わってません。メメはそんな弱虫ではありません」

「ふうん。そっかー。でも、飛び出して行ったでしょ?」

「大丈夫です。戻ってきます。私は信じます。だから、だから、私は姉として負けません」

「でもそれがメメちゃんを苦しめているんだよ。オルタちゃんが頑張れば頑張るほどオルタちゃんの人気が上がる。そうすればますますメメちゃんは苦しめられる。分かってる?」

「分かってます。でもメメは可愛くて私なんかより人気がある子なんです。今はちょっと引っ込んでいるだけで私がいなくても人気のある子なんです」

「おお! それは楽しみだ」

「……あのー。お二人方、会話は皆、聞こえているんですよー」


 とフジが横から入ってくる。


「すみません、フジさん」

「メメちゃんとは同期だから、ここではタメ口でいいよ」

「三十路の方にタメ口だなんて、そんな……」

「三十路言うな!」


 怒号が飛び、私は竦んでしまう。


「ひゃっ! ご、ごめんなさい」

「フジ、圧をかけては駄目だよ」

「いやいや、星空先輩がそれを言う?」

「私、圧なんてかけたことないもーん」

『嘘だね』

『うん。嘘だ』


 星空みはりはMC達からも突っ込まれる。


  ◯


『現在1位は星空みはり選手。2位は那須鷹フジ。しかし、2位との差は大きく開いています。さあ、ここからどう巻き返すのか?』

『フジ、ヒステリックモードだ!』

「おい! アメージャ! んなもんねえよ!」

『チェッ!』


  ◯


 そして先頭集団はとうとう終盤のループ橋に差し掛かった。このループ橋を越えると後は直線のみ。


(ここで抜かなきゃあ!)


『ここは下りとカーブゆえにドリフト走行だけでは曲がりきれないのでブレーキも必要なんですよね』

『しかも溶岩が降ってくるからねー』

『後続はループ橋前のアイテムボックスから良いもの当てないと大変だよね』

『リリィは何がオススメだと思う?』

『そりゃあ、やっぱりスピードが上がる系ではなくミサイルがオススメ!』


 ミサイルとはミサイルに変身して自動高速でコースを低空飛行するアイテム。


『でもミサイルも最後尾くらいじゃないと手に入らないんですよねー』


 私はループ橋に差し掛かるとすぐに内ラチを攻める。普通なら下りでカーブ続きのループ橋でそんな行為は自殺行為。しかし、私にはがある。


 以前、瀬戸さんとプレイ時にも出来たんだ。


(大丈夫! 私ならやれる)


『おおと! ごぼう抜きだ! 何だこれは!? 誰だ? え? オルタちゃん?』

『な、何が起こってるの?』

『アメージャ、分からないの? これは伝説のイニシャルカーブだよ!?』


 リリィが興奮して答える。


『イニシャルカーブ! 確か漫画がからきた伝説の技術ですよね。私もネットで見たことはありましたが、あれらは加工されてるとかで実際は出来ないと聞いておりましたが……」

『アメージャ、これは本物だよ! まさかこの目で見られるとは!』

「リリィ、うっさいぞ。興奮し過ぎだ!」


 フジが苦情を言う。


『うっさいフジ! ヒステリックを飛ばすな! カートを飛ばせ! もっともっとだ!』

「ヒステリック言うな!」

『ちなみにリリィ、ヒステリックにはどんな効果が?』

『皺が増えます』

「ざけんなぁ!」


 フジが吠えた。


 彼女達のそんなやりとりを聞いていると思わず吹きそうになり、イニシャルカーブが失敗しそうになる。


(いけない集中!)


 私はループ橋をイニシャルカーブでぐんぐんとプレイヤーを抜き、順位を上げる。

 そして2位のフジを抜き、1位の星空みはりに肉薄する。


「さすがだねオルタちゃん。でも私も簡単には負けないよ」

「のぞむところです」


 そして私はループ橋を内から抜けた時、星空みはりと並んだ。そして最後の直線に差し掛かり、私はミニターボを発動させる。星空みはりも外からミニターボを発動。


「いっけーーー!」

「うおりゃあーーー!」


 私と星空みはりは吠えた。


  ◯


『1位は赤羽メメ・オルタちゃん』

「しゃあぁぁぁ!」


 私は勝ったのだ!


 最後の直線で星空みはりを抜き、1位になった。


 これで順位も2位になる。


『では次は第4レースです。コースを選んでくださーい』


 そして第4レースのコースが発表された。なんと第4レースは私が選んだコースだった。


 よし。これで次のレースも1位だ。


コース画面に移り、シグナル・カウントダウンが始める。


 しかし──。


(あれ?)


 画面を見るのがキツくなった。


(まさか!)


 コースを曲がるたび、気分が悪くなる。


 そう。ゲーム酔いが始まってしまった。


『おや? オルタちゃん、なんか様子がおかしくない? 何もないのに遅いぞ』

『本当だ? 回線トラブル? おーい? 聞こえている?』

「……聞こえています」

『どうしたの? 声に覇気がないよ?』

「すみません、ちょっと、ゲーム酔いが」

『ええ!?』

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